小さな海洋微生物が生態系に与える大きな影響

生態系の危機に立ち向かえる可能性が高い研究が評価され、OISTのパオラ・ラウリーノ准教授が2025年フロンティアズ・プラネット賞で日本代表に選ばれました。

A poster featuring Dr. Paola Laurino

海洋に生息する微生物は、地球の健康を維持するために重要な役割を果たしています。例えば、広範な海洋地域に分布し、地球上で最も多く存在する微生物「SAR11」は、炭素や硫黄、その他の重要な元素の地球規模での栄養素の循環を支える上で欠かせない存在です。OISTタンパク質工学・進化ユニットを率いるパオラ・ラウリーノ准教授の研究チームは、2024年に科学誌Natureに発表した論文で、SAR11がどのようにこれらの重要な機能を担っているかに新たな光を当て、栄養の乏しい海洋環境で増殖するように進化した世界で最も豊富な微生物についての理解を深めました。この研究は、地球の健康や気候の調整に重要な意義を持ち、2025年フロンティアズ・プラネット賞で日本を代表するナショナル・チャンピオンに選ばれました。 

フロンティアズ研究財団は2022年にこの賞を創設し、「生態系の危機に対処する最大の可能性を持つ科学的ブレイクスルー」を表彰しています。審査は、持続可能性分野の専門家100人からなる国際的な審査員団が行い、上位3位のインターナショナル・チャンピオンには、研究の促進と提案された変革的なブレイクスルーの実現に向けて、100万ドル(約1億4500万円)の賞金が授与されます。 

ラウリーノ准教授は次のように述べています。「私たちの研究は、気候変動により海洋の温度や栄養の可用性が急速に変化する中で、SAR11が海洋における炭素循環および栄養動態にどのような影響を及ぼしているのかについて、より深い理解を提供します。これらの発見は、これらの微生物群と、それらが支える海洋生態系が将来の環境問題にどう応答していくのかを予測する上で、重要な理論的枠組みを提供します。」 

SAR11がどのようにして栄養分の乏しい環境に適応し、極度の選択圧のもとで繁栄しているのかを解明することで、研究チームはSAR11の驚くほど効率的な栄養摂取能力を明らかにしました。これらの微生物は、海洋中の溶存有機物を吸収するために特化した輸送タンパク質を進化させ、海洋表層のアミノ酸や他の必須栄養素の最大60%を処理する能力を得ました。「驚くべきことに、これらの輸送タンパク質はピコモル(pM)レベルの結合親和性を示し、これは細菌による栄養吸収においてこれまで観測された中で最も高い値です。これによりSAR11が希少栄養素を回収する驚異的な効率を説明できます」とラウリーノ准教授は話します。 

これらの発見は、海洋細菌のSAR11に関する従来の仮説を覆し、SAR11細菌はこれまで考えられていたよりもはるかに選択的に栄養塩を取り込んでいることを明らかにしました。 貧栄養環境における栄養素結合親和性の向上といった生物物理学的適応を通じて、SAR11細菌は海洋生態系において広範で優位な地位を獲得しました。こうした進化的適応が、現在では世界中の海洋生態系に不可欠な細菌群であるSAR11の生理機能を形成したと考えられます。 

フロンティアズ・プラネット賞が認めるように、この研究の影響は非常に大きく、海洋保全活動や炭素隔離を通じた気候変動緩和戦略、さらにはバイオテクノロジー分野での応用にも寄与する可能性を秘めています。微小な微生物タンパク質の分子レベルでの機能と、地球規模での生態学的影響との間に橋を架ける本研究は、現代の環境問題に立ち向かうために求められている革新的な科学の一例です。 

フロンティアズ・プラネット賞は、2019年の新型コロナウイルス(Covid-19)パンデミックに対する迅速な科学的・政策的対応に触発され、地球の健康のための緊急かつ協調的な行動の促進を目的に設立されました。60か国以上、600を超える機関が参加する中で、OISTの研究が人類の活動によって地球環境に大きな影響が出始めた課題への対応において、世界的に大きな影響を与えたことが評価されるのは、昨年受賞したエヴァン・エコノモ教授に次いでこれで2年連続となります。


 

研究の背景については、こちらでご覧いただけます。 

2025年のインターナショナル・チャンピオン3人は、6月にスイスで開催されるヴィラールシンポジウムで発表される予定です。 

 

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