無脊椎動物の生物多様性が地球の健全性の鍵

OISTのエヴァン・エコノモ教授が、フロンティアズ プラネット賞のナショナル・チャンピオン(日本)に決定

Fronters Planet Prize National Champion Evan Economo

4月22日のアースデイに、持続可能性科学に携わる優れた科学者を表彰する「フロンティアズ プラネット賞」が発表され、OISTの生物多様性複雑性ユニットを率いるエヴァン・エコノモ教授が、同ユニットの研究成果に対し、日本を代表するナショナル・チャンピオンに選ばれました。今後各国のチャンピオンの中から、将来の研究のために100万スイス・フラン(約1億6千700万円)を受け取る、3名のワールドチャンピオンが選ばれます。

フロンティアズ・プラネット賞は、地球の生態系における人類の安全なくらしに貢献する研究を行った科学者を表彰するものとして、2022年のアースデイにフロンティアズ研究財団によって創設されました。第2回目の表彰となる今年は、健全な地球での健全な生活を促進する、変革的かつ世界的に拡張可能性のある生命科学研究を行う20の科学アカデミーと475の主要大学・研究機関が43カ国から応募し、23名の研究者がナショナル・チャンピオンに選ばれました。

今回、エコノモ教授は、2022年に学術誌Science Advancesに掲載された論文によってナショナル・チャンピオンに選ばれました。同論文は、その生態系における重要な役割りから「世界を動かす小さな生き物」と呼ばれる無脊椎動物群に関して、初めて世界的に高解像度のマッピングを行ったものです。この研究は、無脊椎動物の生物多様性を世界的な保全計画に役立てること、そしてさらなる発見への道しるべとなります。

研究チームは、世界の広範囲に分布し、生態学的に支配的で、経済的にも重要な昆虫グループであるアリに注目しました。アリは栄養の流れから他の動植物との相互扶助的な関係まで、陸上の様々な生態系で重要な存在ですが、他の昆虫と同様、その世界的な多様性のパターンは十分に記録されていませんでした。過去12年間、研究チームは、ほとんど知られていない博物館のコレクションや古い論文、世界中の人々の個人的なコレクション、そして1万件近い科学出版物から抽出されたデータまで、過去300年にわたるアリの研究から断片的な情報を集めました。エコノモ教授は、それらの情報を統一したデータベースを作るだけでは十分ではなかったと言います。「アリに関する世界中の既存の情報を一箇所に集約しても、間違いや偏り、抜け落ちがあります。例えば、高い生物多様性を持つ多くの地域で未だに探索的研究が不足していますが、従来の方法で世界的な目録を完成させるには、数十年から数百年かかるでしょう。」

この問題を解決するため、研究者たちは情報学や機械学習のツールを応用した現代のデータサイエンスに目を向けました。「不完全なデータから最大限の知見を引き出したかったのです」エコノモ教授は、当時彼の研究室に日本学術振興会特別研究員として参加していた、この研究の共同筆頭筆者であるジェイミイ・キャス博士に革新的なワークフローの設計の主導を依頼しました。キャス博士は生態モデリングの専門家で、現在は東北大学の准教授を務めています。キャス博士は、エコノモ教授が「私がこれまで携わった中で、最も複雑な計算ワークフロー」と呼ぶ、200年前の手書きの標本ラベルの解釈から、個々の種の分布予測、未発見の種を生み出す可能性のある多様性の隠れた「ホットスポット」の予測まで、あらゆることに対応するワークフローをチームと一緒に構築しました。

このアリの生物多様性の研究は、保全計画に利用できるようになったマップだけでなく、他の未解明の生物にも応用できる方法を確立した点でも価値があります。エコノモ教授は、「ある意味、この研究は、ビクトリア朝時代の探検家であった博物学者と、現代のビッグデータや機械学習を駆使した研究とのギャップを埋めるものです」と言います。エコノモ教授は、OISTの数多くのスタッフやOISTコアファシリティ、そして、世界中の研究グループを含む共同研究者の重要性を強調し、「このプロジェクトは幅広いチームワークによるものであり、いかなる評価も私個人ではなくチームに属するものです」と述べています。

論文の共同筆頭著者であるジェイミー・キャス博士は、「無脊椎動物のような、研究がまだ十分にされていないグループの生物多様性のパターンを推定するのは難しく、多くの研究者を巻き込みました。本結果は、新種の発見に役立つばかりか、生態系と人間のウェルビイングにとって重要な生命の木の枝を含む保全のための地域の優先順位をよりよく決めるのに役立つでしょう」とコメントを寄せています。

3名のインターナショナル・チャンピオンは、6月にスイスで行われるヴィラールシンポジウムにて発表される予定です。

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