ストレスに適応する植物たち―動く遺伝子を利用した生存戦略

最先端技術「RNAダイレクトシークエンシング」により、「動く遺伝子(トランスポラゾン)」が植物のレジリエンスを高めている可能性が明らかになりました

Photo of researchers from the OIST Plant Epigenetics Unit

共同プレスリリース

この度、トランスポゾン、通称「動く遺伝子」(自己複製してゲノムの異なる位置に移動することができるDNAの一部)が、植物がストレスや環境変化に適応するのを助けている可能性が明らかになり、研究論文が2023年6月5日に科学誌Nature Communicationsに掲載されました。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)と理化学研究所(RIKEN)環境資源科学研究センターの共同研究チームが、RNAダイレクトシークエンシングという直接RNA分子を検出する技術を用いてシロイヌナズナを解析したところ、通常の遺伝子とトランスポゾンが組み合わさったハイブリッド遺伝子が数千個もあり、高温や病原菌などの環境ストレスに応じてトランスポゾンの発現量が変化していることが分かりました。今回の研究成果は、ストレスの多い環境に適応できる新しい作物の開発に役立つ可能性があります。

遺伝子発現の制御(細胞がどの遺伝子を活性化させるかを制御すること)は生物が適切に機能するために不可欠です。遺伝子が発現することで、DNAの遺伝情報がRNA転写産物に変換され、適切なタイミングと場所でタンパク質などを作り出すことを可能にします。

その一方で、動植物は遺伝子制御機構をトランスポゾンの活性を抑制するためにも用いています。本研究の筆頭著者であるOIST植物エピジェネティクスユニットの博士研究員、ジェレミー・ベトリエ博士は、DNAの一部であるトランスポゾンが遺伝子に入り込むと、有害な突然変異が起きる可能性があると話します。

しかし、今回の研究では、シロイヌナズナに通常の遺伝子とトランスポゾンが組み合わさったハイブリッド型のRNA転写産物が数千個も発現していることを発見しました。「遺伝子-トランスポゾン転写産物」と呼ばれるハイブリッドRNA分子は、トランスポゾンが遺伝子の近くや中に移動することで、遺伝子と合わさって発現したものです。

研究チームは、長いRNA配列を読み取ることができる最先端のダイレクトRNAシークエンシングという手法を用いて遺伝子-トランスポゾン転写産物を読み取り、今回新たに開発されたParasiTEという計算ツールを用いて、トランスポゾンが遺伝子に与えた影響に基づき各転写産物を分類しました。

次に研究チームは、環境ストレスによって遺伝子-トランスポゾン転写産物にどのような影響が出るかを系統的に調べました。その結果、ONSENというトランスポゾンが高温に反応し、関連遺伝子GER5の発現量を変化させていることが明らかになりました。

さらに、病原体の感染に対するシロイヌナズナの抵抗力を助けるタンパク質を生成するRPP4という遺伝子に関する発見もありました。RPP4遺伝子の遺伝子-トランスポゾン転写産物の発現を抑制すると、シロイヌナズナの病原体に対する抵抗力に影響を与えることが判明しました。

このことから、遺伝子-トランスポゾン転写産物は、植物が環境ストレスや環境条件の変化に適応するのを助ける可能性が示唆されました。

ベトリエ博士は、「端的に説明すると、トランスポゾンは、DNA配列を変えたり、その発現量や安定性を調節したりといった複雑な方法で遺伝子を制御することが分かったのです。この発見は、植物の生命活動や極端な温度の変化や病原体などの環境条件の変化に対する植物の順応性において非常に重要であると示唆されます」と説明しています。

さらに今回の研究成果は、ストレスに強い作物の開発にも役立つ可能性もあると期待されています。本研究論文の責任著者であるOIST植物エピジェネティクスユニットの佐瀨英俊教授は次のように述べています。「今後、他の重要な作物種も対象に研究を行うことができます。トランスポゾンにより制御される遺伝子をさらに発見し、それらを改変することで、生産性の高い農作物を作ることもできるかもしれません。」]

Photo of researchers from the OIST Plant Epigenetics Unit
OIST植物エピジェネティクスユニットの研究チーム:(左から)佐瀨英俊教授、レオナルド・フルチ博士、ジェレミー・ベトリエ博士、ムニサ・サディコバさん
OIST植物エピジェネティクスユニットの研究チーム:(左から)佐瀨英俊教授、レオナルド・フルチ博士、ジェレミー・ベトリエ博士、ムニサ・サディコバさん

資金提供

本研究は、 佐瀬英俊教授 ( 710 JP20H05913 )に対する文部科学省科学研究費助成事業・学術変革領域研究(A)「不均一環境と植物」、白須賢グループディレクター(RIKEN 環境資源科学研究センター)に対する文部科学省科学研究費助成事業・学術変革領域研究(A)(JP20H05909)と基盤研究(A)(JP22H00364)、浅井秀太上級研究員(RIKEN 環境資源科学研究センター)に対する文部科学省科学研究費助成事業・基盤研究(B)(JP20H02995)と OIST の研究資金により行われました。

著者: サーヒル・アチャリャ

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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