物理的な世界を超えて:異空間における数学を研究する

物理的な世界を超えて抽象的な距離空間における関数を理解しようと努める数学者がいます。

Xiaodan Zhou CoverImage

新しい建物の設計から車両での移動時間の計算まで、数式は私たちの世界のあらゆるところで使われています。数字と、確立された数式を利用すれば、あらゆるバックグラウンドを持つ多種多様な人々が生産性と効率性を高めるプロセスを作ることができます。しかし、数学の優れた点は、直接観察可能な世界を越えて、実際には手の届かない空間にまで踏み込んでいくことができることです。このような大まかな構造を研究するために、数学者は条件を選んで追加していきます。そして、これらの空間において開発された数学的ツールは、理論に留まらず、物理的な世界に適応することができ、ロボット工学、インターネット検索エンジンおよび画像分類など、コンピュータサイエンスの多くの分野の研究に役立っているのです。

その研究を担う一人が、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のシャオダン・ジョウ准教授です。ジョウ准教授は、距離空間における関数や偏微分方程式を研究しており、将来的には純粋数学以外の分野との共同研究も始めたいと考えています。

「数学に興味を持ち始めたのは幼い頃でした。当時は探偵小説や殺人事件推理小説を読むのが好きで、数学の練習問題はパズルを解くようなものだと思っていました。数学の練習問題は必ず答えが出るように作られているので、犯罪現場の探偵になったような気分でした」とジョウ准教授は述べています。「私が初めて距離空間のことを知ったのは学部生の時でした。最小限の条件を仮定して壮大な理論が得られるこの空間について研究するという概念全体に驚きました。」

2020年11月、シャオダン・ジョウ准教授はOISTに着任。

ジョウ准教授は2020年11月にOISTに着任し、距離空間上の解析ユニットを率いています。中国出身で、米国で数年間研究員を務めた後、沖縄に移住しました。

現実を超えた空間の探求

何十年にもわたって、人々は一般的に、電気、先端技術、磁気などの現象の応用を最初に発見し、数学的な基礎が構築されたのはずっと後になってからでした。しかし、現象の背後にある理論を明確に理解することができれば、その理論を改良して既存の応用を効率化し、新たな応用を開発することができるとジョウ准教授は強調します。

「だからこそ、多くの人が完全に理解していると信じているこれらの現象を、数学者が探求し続けることがとても重要なのです」とジョウ准教授は言います。

物理的な世界を研究することの利点は研究しているものを感じれたり観察できたりすることかもしれませんが、距離空間においては、数学的なツールを使うことで、直接観察できない多くの性質や関数を理解することができるようになります。「これらのツールを使えば、その空間に実際に体験しなくても現象を探ることができます。これが数学の本当に楽しくて面白いところです。」

ジョウ准教授が研究している空間の一つに、サブリーマン多様体と呼ばれるものがあります。大まかに言うと、運動が特定の方向でしか行われず、その方向が場所によって変化する空間です。その例として、固定経路に沿ってしか移動できないロボットアームなどがあります。

研究者たちは、解析ツールと幾何学的ツールの両方を使って、このような空間を調べています。この空間は、古典的な(またはユークリッド的な)構造と非常に似ていますが、特性と距離が非常に異なっています。

「何かが特定の方向にしか動けない場合、この制限を最適化するために取ることができる経路を調べます。等周問題のようなよく知られた問題も、ユークリッド空間では上手く解明され理解されていますが、サブリーマン多様体の条件では非常に異なる複雑な問題になる可能性があります。この研究は、それ自体の数学的重要性に加えて、純粋数学の様々な分野の研究にも動機づけられています。さらに、このサブリーマン多様体の研究は、ロボットシステムの経路計画や目の形状測定など、工学や生物学の分野で多く応用されています」とジョウ准教授は説明します。

一定の体積を囲む表面積が最小となる形は何か?これは理論数学のこの分野で広く研究されている等周問題である。古典的な空間(ユークリッド空間)では、この問いの答えとなる形は測地線球(左図)である。しかし、これを典型的なサブリーマン多様体であるハイゼンベルク群に移動させると、性質も距離も全く異なるため、測地線球は最適解ではなくなる(右図)。ハイゼンベルク群では、等周問題の解は見つかっていない。

OISTは数学者にとって素晴らしい環境

OISTには、他にはないリソースやサポートがあるとジョウ准教授は考えています。将来的に、海外の研究者を招待したり、共同研究者を訪れて交流したり、ワークショップやシンポジウムを開催したりできたらと考えています。「もう一つの利点は、自分の研究室にポスドク研究者を受け入れることができることです。これはまだキャリアの浅い自分のような教員としては珍しいことです。」

数学者としての視点から見ると、OISTには革新的で学際的な面があるため、素晴らしい場所となっています。「学生は担当教員以外の他の教員と話をしたり、一緒に研究をしたりすることができます。これは彼らの成長にとって非常に有益なことです。学生の選択肢が増え、視野とビジョンが広がります。実りある研究は、理論的な結果と実世界での応用を組み合わせることで生まれます。これによって、新しい分野の開拓や、新しいテーマを立ち上げることにつながるかもしれません」とジョウ准教授は語っています。

 

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