ペロブスカイト太陽電池の欠陥に迫る

太陽電池として有望なペロブスカイトの効率を制限する3種類の欠陥の性質と作用を明らかにした上で、欠陥に対する処置の効果がそれぞれの欠陥ごとに異なることを発見しました。

本研究のポイント

  • ハイブリッドペロブスカイトは、有機材料と無機材料の両方の利点を兼ね備えた次世代太陽電池の材料として有望視されている。
  • ハイブリッドペロブスカイト太陽電池の効率は、現在20%から約25%の間に留まっているが、理論上の限界は約30%であり、産業利用に有望視されている。
  • 研究チームは、ペロブスカイトの製造過程で生まれると考えられる微小な欠陥クラスターをナノメートルスケールで画像化し、効率を制限している要因について詳しく調査した。
  • その結果、欠陥クラスターには3種類あり、それぞれ性質や有害性が異なることが判明した。
  • さらに、これらの欠陥を除去する一般的な方法で処置を行うと、欠陥の種類によって効果が異なることが判明し、各種類の欠陥に特化したアプローチを開発する必要があることが示唆された。

プレスリリース

世界のエネルギー需要を持続可能な方法で満たすためには、太陽エネルギーの利用を拡大させる必要があります。そのため、科学者たちは半導体のエネルギー材料の開発に力を注いできましたが、その一つであるハイブリッドペロブスカイトは、有機イオンと無機イオンの両方で構成されています。これは次世代太陽電池の材料として有望な候補であり、現在利用されている従来の半導体材料よりも費用対効果が高く、容易に大量生産ができる可能性があります。

しかし、実用化のためには、ハイブリッドペロブスカイトの効率を向上させ、限界を正しく理解する必要があります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のケシャヴ・ダニ准教授が率いるフェムト秒分光法ユニットと、ケンブリッジ大学のサム・ストランクス博士率いるOptoelectronics Materials and Device Spectroscopy Groupの研究チームは、最先端のペロブスカイト薄膜内に3種類の欠陥クラスターを特定したことをEnergy & Environmental Science誌に発表しました。同欠陥は、ペロブスカイトの製造過程で生じると考えられ、効率を制限する可能性があります。

OISTの博士課程学生で本研究論文の筆頭著者であるソフィア・コーサールさんは、次のように述べています。「太陽電池では、材料を余すところなく使って太陽光を電気に変換するのが理想です。そうでなければ、材料が持つ潜在能力を十分に活用できず、商業目的での利用には適しません。」

ペロブスカイト材料は、いくつもの層からなる太陽電池の中心に位置しています。太陽光が太陽電池に当たると、そのエネルギーがペロブスカイトに吸収され、電子が上層に移動し、正孔が残ります。すべての電子は、太陽電池の層を電気接点に向かって一方向に通過し、正孔は逆方向に移動します。これによって、電流が発生します。

ペロブスカイトが中央に位置することを示すペロブスカイト太陽電池の模式図。太陽光を吸収すると、電子が励起し、元の場所に正孔ができる。電子と正孔がさらに離れると、電流が発生する。電子や正孔を閉じ込める欠陥があると、太陽電池全体の効率を低下させる可能性がある。

「材料の中に欠陥があると、電子正孔対の生成や電気接点への移動に影響を与え、ペロブスカイト太陽電池の効率が低下する可能性があります。現在、ハイブリッドペロブスカイトの通常の出力は、20%から25%程度です。」としつつ、コーサールさんはさらに、ペロブスカイト太陽電池は理論上、入射光の約30%を電気に変換できると説明します。

同分野の専門家は、効率を制限する可能性のある欠陥の存在は認識していましたが、全欠陥が同じ特性を持っているのかということや、それらが全て単一の方法で除去可能かどうかは、これまで明らかになっていませんでした。本研究では、最新装置を用いて欠陥をナノスケールの解像度で画像化し、その特性を調査することで3種類の欠陥があることを明らかにしました。

研究チームが発見した最も有害な種類の欠陥は、結晶粒界の欠陥で、その名のとおり、ペロブスカイトの結晶粒の境界に存在する微小な欠陥です。これらの欠陥では、光によって生成された正孔が多く捕獲され、欠陥部分よりもはるかに広い領域で効率を低下させるとみられ、ペロブスカイトの性能に大きな悪影響を及ぼします。

次に、ポリタイプ(結晶多形)の欠陥があります。これは、前駆体材料が結晶化する際に、典型的な立方体のペロブスカイト構造ではなく、六方晶の構造になることによって発生します。同タイプの欠陥クラスターは比較的大きく、光によって生成された正孔を捕獲することで効率に悪影響を及ぼします。

「ポリタイプの欠陥が多いと、結晶粒界の欠陥と同じくらい大きな影響を及ぼします。結晶粒界とポリタイプの両方において、それぞれに特化した戦略を開発する必要があります」とコーサールさんは説明します。

そして最後が、ヨウ化鉛の欠陥です。ペロブスカイト材料の製造時に使用される重要な材料であるヨウ化鉛が析出したものです。しかし、本研究結果によると、ペロブスカイトの電荷を捕獲する効果は軽度であり、効率への影響はほとんどないと考えられました。

研究チームは、どの種類の欠陥が最も悪影響を及ぼすかを時間分解光電子分光実験によって調査した。右のグラフからわかるように、結晶粒界の欠陥は小さいにもかかわらず、電流と太陽電池の効率に最も大きな悪影響を与えていた。

研究チームは、ペロブスカイトの欠陥密度を下げるためにしばしば行われる光と酸素による処置を行い、欠陥に対する効果を調べることにしました。そこで、ペロブスカイトを可視光とごく少量の酸素を含む雰囲気にさらしてみました。その結果、興味深いことに、欠陥にもたらす効果が異なることがわかりました。具体的には、最も有害な結晶粒界の欠陥には効果が表れ、正孔の捕獲が収まりましたが、別の種類の欠陥に対する効果は比較的小さく、有効とはいえませんでした。

「今回の研究では、ペロブスカイト太陽電池の性能を向上させるためには、各種類の欠陥が及ぼす悪影響に対して、それぞれに特化したアプローチが必要であることがわかりました」とダニ准教授は結論づけています。

発表論文詳細

論文タイトル: Unraveling the varied nature and roles of defects in hybrid halide perovskites with time-resolved photoemission electron microscopy
発表先: Energy & Environmental Science
著者: Sofiia Kosar, Andrew J. Winchester, Tiarnan A. S. Doherty, Stuart Macpherson, Christopher E. Petoukhoff, Kyle Frohna, Miguel Anaya, Nicholas S. Chan, Julien Madéo, Michael K. L. Man, Samuel D. Stranks, Keshav M. Dani
発表日: 2021.12.09
DOI: 10.1039/d1ee02055b

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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