2020-04-20

新型コロナウイルス:OIST研究者による地元沖縄への貢献

日本においても沖縄においても、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が広がっています。ソーシャルディスタンシングや外出自粛などの励行が重要なことはもちろんですが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者たちが、自らの専門性を生かし、沖縄社会に貢献すべく全力で活動しています。

N95レベルのマスクを綿あめ製造機で

フェイスマスクなど必要な防護具の材料の不足を引き起こしている現状を憂い、非線形・非平衡物理学ユニットを率いるマヘッシュ・バンディ准教授がこの度、N95マスクの原理にヒントを得たマスク製造方法を開発しました。

「自家製の布製マスクもほとんどの市販のマスクも、COVID-19ウイルス粒子をフィルタリングすることはできません。一方N95マスクに含まれているため帯電層は、ウイルス粒子をブロックできる設計となっているのです。」と、バンディ准教授は言います。

N95マスクを製造するための技術は、日常の材料で再現するのは難しいのですが、バンディ准教授は不可能ではない、と強調します。

「必要な生地を生成する簡単な方法を考えました。綿あめ製造機を少々改造するのです。」

綿あめ製造機は、高速で回転する小型の円筒状の内側容器とそれを囲む大型のドラム缶のような外側容器でできています。小型円筒状の容器には小さな穴があり、カラメル状になった砂糖が、細い繊維状に噴出されます。バンディ准教授は、綿あめ製造機に、カーバッテリーを使って電圧をかけました。

バンディ准教授は通常の綿あめ製造機を使い、電圧をかけ、砂糖の代わりにポリマーになるペットボトルの粉砕粉を円筒状の容器に注いで回転させた。結果、COVID-19に対抗可能なフェイスマスク用の生地ができた。

バンディ准教授は砂糖の代わりに、粉末状のポリプロピレンポリマーを小型円筒状の容器に注ぎました。このポリマーは、ペットボトルなどと同じ素材であるポリプロピレンプラスチックから作成できます。円筒状の容器が回転し始めると、ポリマーが熱しられ、帯電ナノファイバーの生地がドラム缶の壁に作られていきます。

上の2つの走査型電子顕微鏡の顕微鏡写真により、OISTで作成された材料と市販のN95帯電層との比較した画像。識別可能な構造的差異がないことを示す。

生地を作成しさえすれば、マスクを作るのは簡単です。カーバッテリーを使って12〜14ボルトの直流電流をかけた生地を3枚を作成し、さらには電圧をかけていない生地2枚を作成し、できあがった電圧ありと電圧なしの繊維をそれぞれ集め、2つの清潔で平らなガラス板などの間に押しはさんで2種類の平らな生地にします。次に、電圧をかけていない繊維で作成されたファブリックを外層に、電圧をかけて作成された生地を内側の3層にして挟んで、5層の布地にします。この層状の生地材料を、6 cm x 6 cmの小片に切り、折って縫い合わせればできあがりです。

このようなプロセスで、バンディ准教授は医療用と同レベルのフェイスマスクを複製するため必要な材料と方法を開発しました。新型コロナウイルスの危機的状況下で従来のN95マスクを利用できない場合、この代替案は救命につながる可能性があります。 詳細については、バンディ准教授の一般的な材料で作れるN95帯電フィルターマスクのページをご覧ください。

このプロジェクトはまた他分野にわたるものであり、生体分子電子顕微鏡解析ユニットを率いるマティアス・ウルフ准教授、エンジニアリングサポートセクションチームの石津範子さん、OISTイメージングセクションチームなど、OIST学内の多くの共同研究者の支援を得て作成しました。

 

アルコールジェル

OISTの博士課程の学生である、錯体化学・触媒ユニットのセバスチャン・ラポインテさんと細胞シグナルユニットのサンドリン・ブリエルさんが率いるプロジェクトでは、OISTキャンパス、恩納村、沖縄県立中部病院でますます需要が増している、アルコールジェル供給プロジェクトを行っています。「OISTジェル」と呼ばれるこの溶液は、世界保健機関の「医療従事者向け手指衛生ガイドライン」に従ってイソプロパノールを用いて作製されました。

「石鹸と水で20秒以上手洗いすることは、アルコールジェルを使用するよりも効果的ですが、食料品の買い物など、必要な外出中にいつでも手が洗えるとは限りません。アルコールジェルは、ウイルス蔓延を減らすために有用な代替品です。」と、セバスチャンさんは説明しています。

チームは現在、少なくとも400リットルのOISTジェルの製造を目指しています。そのうち50リットルはOIST内で使用され、それ以外は地元の恩納村や沖縄県立中部病院に寄贈される予定です。4月中旬にはOISTキャンパスに原材料が届き、生産が始まりました。

「このプロジェクトには、さまざまなOISTの研究ユニットやその他の部署から25名のボランティアが参加しています。実験室における安全訓練を受けた研究者がジェルを作り、ボトル詰めをします。他のボランティアは、ラベルをデザインしたり、地元の組織と協力して、ジェルを安全かつ効果的に配布できるようにします。」と、サンドリンさんは説明しています。

ジェルボトルを持つOISTジェルプロジェクト25名のボランティアの一部

 

3Dプリンターによるフェイスシールド

OIST数理力学と材料科学ユニットマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットの研究チームは、コロナウイルスの飛沫やエアロゾルを効果的にブロックする3Dプリントのフェイスシールドを製造しました。フェイスシールドは特に最前線の医療従事者にとって重要です。OISTクリニックの森朋有医師の指導のもと、技術員のミチャエル・グルワルドさん、カズミ・トダ・ピーターズさん、ジュニアリサーチフェローのシェーフ・サイさんが協働して、フェイスシールドを再設計し、制作しました。現在、数百個のフェイスシールドを製造しており、間もなく配布の準備が整います。

「COVID-19は感染者のくしゃみや咳を通して広がり、ミクロンサイズの飛沫やエアロゾルが医療従事者の目に入って感染する可能性があるというエビデンスが多く出てきています。」とミチャエルさんは説明します。「フェイスシールドは通常、COVID-19感染予防の追加の保護バリアとして、医療従事者がサージカルマスクまたはN95マスクの上に着用します。」

ミチャエルさんはまた、この2か月間、世界中の3DプリントコミュニティがCOVID-19パンデミックとの闘いに役立つデザインの設計と共有に取り組んできたと付け加えました。「OISTでは、3Dプリント会社Prusaの設計を部分的に修正し、ヘッドバンドのプリントに必要な材料と時間を最小限に抑え、日本で調達できるレーザーカットのフェイスシールド材料に対応できるようにしました。」

研究チームが強調したのは、装着した後一度もフェイスシールドの表側の面に触れないことの重要性です。

「フェイスシールドを使用した後は、表面全体が汚染されていると考えてください。取り外すときは、必ずフロントシールドではなくヘッドバンドを持ち、すべての表面を適切に消毒して、石鹸で手を洗うことを忘れないでください。」とシェーフさんは説明しました。

4月上旬に沖縄県と協議した後、沖縄県内の病院に配布する800個のフェイスシールドの要望に応えるために、現在研究チームは製造に取り組んでいます。

このプロジェクトは、OIST学内から多くの支援を受けて行われています。知覚と行動の神経科学ユニットの福永泉美准教授は、自身が新たに注文した3Dプリンターを研究チームと共有し、ハイスループット能力の向上を支援しました。マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットの博士課程学生であるガリフルリナ・アイナッシュさんは、フェイスシールドの後処理と組み立てを学生ボランティアで行えるよう手配しています。エンジニアリング・サポート・セクションのキーラン・ディシーさん、量子波光学顕微鏡ユニットの博士課程学生であるアンクル・ダールさん、大学院大学のジェレミー・ジレさんは、ゴム部品のレーザーカットを担当し、3Dプリントの工程を監督しています。

3Dプリントの材料が世界的に不足しているため、研究チームは学内の他の研究ユニットから原材料の提供を受けました。コミュニケーション・広報ディビジョンのジェフリー・プラインさんは、医療従事者が現場でフェイスシールドのパーツを組み立てることができるように、イラストを制作しています。また、技術開発イノベーションセンターは材料調達を支援し、3Dプリント用にインキュベーター施設を提供しました。

コロナウイルスの飛沫とエアロゾルをブロックするよう設計された3Dプリントのフェイスシールド

 

UVC光線を使用したマスクの殺菌装置

フェムト秒分光法ユニットのケシャブ・ダニ准教授が率いるOISTのチームは、紫外線C波(UVC)ライトを使用し、N95マスクなどの個人用保護具(PPE)を殺菌する装置を設計・構築しました。この装置はまた、マスク殺菌後の性能を元の仕様と比較することもできます。この装置は1日に約400枚のN95マスクを殺菌でき、これにより供給が限られているマスクの効率的利用が期待されます。

初段階では、細胞シグナルユニットのへマンタ・シャルマーさんと大嶺奈緒さん、量子波光学顕微鏡ユニットのアンクル・ダールさん、フェムト秒分光法ユニットのビベック・パリックさん、アブドゥ・アルマフブーさん、ヴィクトラス・リスソヴァスさんの間で共同作業が行われました。N95マスクを効果的に殺菌するために必要なUVC線量を直接測定により確立したところ、N95マスクでは、他の材料表面で以前に報告されたよりも100〜1000倍高いことを発見しました。

チームはまた、殺菌後のN95マスクのフィルタリング効率を確認するためのテストも開発しました。喉の後ろにセンサーを備えたCPRダミーを使用し、ダミーが呼吸をシミュレートする時に通過するサブ300 nm粒子数をセンサーがカウントしました。このテストでは、ダミーにN95マスクがある場合とない場合の両方で行い、マスクのフィルタリング効率を決定しました。理想的にはN95マスクは、300 nm未満の粒子の95%をフィルタリングできねばなりません。チームは、適切な線量による複数回のUVC殺菌を行っても、マスクのフィルタリング能力は変わらないことを確認しました。

「殺菌を30回行っても、マスクは良好に機能することがわかりました。制約となる要因は殺菌プロセスではなく、一般的な摩耗であるようです。私たちは現在、地元病院の1つと協力し、医療専門家がマスクを使用してから必要なUVC殺菌線量に曝した後、マスクのフィルタリング効率テストを毎日行っています。この調査は、N95マスクを安全に再利用できるための頻度について確かなデータポイントを提供してくれます。」と、ダニ准教授は説明しています。

病院においてマスクを殺菌し、フィルタリング効率テストを実施するため、グループは病院スタッフが操作できる、使いやすく安全でコンパクトな装置を開発する必要がありました。これらの制約を考慮し、エンジニアリングサポートセクション施設管理ディビジョンから支援を受け、チームは複数の殺菌ユニットを設計、構築、テストしました。最初の数装置が那覇市の病院に納入され、現在さらに構築を行っています。

これらの取り組みにより、OISTの研究者らはこの困難な時期に地元沖縄を少しでも支えることができるよう祈っています。現在さらに検体や感染拡大モデリングなどのプロジェクトが進んでいます。最新情報は、COVID-19研究チームによるプロジェクトページをご覧ください。

エンジニアリングサポートセクションのメンバーがUVC殺菌装置を組み立てている。

(ディッキー・ルシー)

広報や取材に関して:media@oist.jp