2017-01-04

答えは風の中に舞っている

   再生可能エネルギーのエネルギー量は、その時々の自然の状態により変動するものです。太陽は常に頭上に輝いているわけではありませんし、風も常に吹いているわけではありません。そこで再生可能エネルギー発電所は、絶え間なくエネルギーを送り続けるために稼働し続けなければなりません。火力発電や原子力発電とは違って再生エネルギーはその生産量をコントロールすることはできないのです。また、電力網には蓄電装置がないため、生産されたエネルギーはすぐに消費されなければならず、そうでなければ電力網を破綻させてしまう危険を伴います。例えば、特に風の強い日では風力による発電量の急激な上昇により、電力網の許容量をオーバーして停電になることが知られています。この現象を避けるため、大型発電所は特に日差しや風が強くシステムの余剰電力が多すぎる時は、電力網の需要と供給のバランスを取るため、消費者にお金を払っても電力を使うようにさせなければならないのです。

   各国政府が今後数十年に渡って安定的に供給できる石炭火力エネルギーを徐々に減らしていく努力をする中で、安定して再生可能エネルギーを供給することは益々重要な課題になっていきます。再生可能エネルギーの供給量の変動を削減し、安定したエネルギー供給を管理するために、なぜエネルギー供給に変動が起きるのか、エネルギー生産の変動そのものの特性を理解することが必要です。この度、OIST構造物性相関研究ユニットを率いるマヘッシュ・バンディ准教授は、乱流理論と風力発電の実験データを融合することで風力変動の統計学的特質を説明した単著論文をPhysical Review Letters誌に発表しました。

 

OIST構造物性相関研究ユニットを率いるマヘッシュ・バンディ准教授

   風速の変動は、風速スペクトラムとしてグラフに表すことができます。1941年にロシアの物理学者、アンドレイ・コルモゴロフ博士はこの風速スペクトラムを用いて風速の変動を示しましたが、後の研究から、風力の変動を示す風力スペクトラムも同じパターンを示すことが分かりました。しかしこれがなぜ同じパターンを示すのか明らかになっておらず、これまで風力は風速の3乗という相関関係にあるからだと単純に考えられてきました。しかしこの度、バンディ准教授が世界で初めて、この推論が事実ではなく、風力変動のスペクトラムが風速変動のそれと同じになるには別の理由があることを示しました。

   同時にいくつかの場所で測定された風速の違いは風力の違いと一致します。しかし風力タービンにおける風力変動は、長期にわたって固定された箇所で観測されています。つまり、異なる時間に計測された風速や風力のデータは根本的に異なるものであり、その違いを注意深く説明することで、バンディ准教授は、個々の風力タービンにおける風力変動のスペクトラムを説明することができたのです。

   大気の乱流は速度が変動する渦の集まり、もしくは一つのボール状の空気の塊と考えることができます。長期的なスケールで見ると、何百キロもの範囲に広がるゆっくりした周期で動く渦となります。そしてこの大きな渦を短期的なスケールで見ると、大きな渦の中に早い周期で動く小さな(数キロの範囲の)渦が複数存在します。風力発電所における全ての風力タービンが、短期スケールでも長期スケールでも同じ渦の中にあるとするなら、発電所全体が、あたかもひとつの巨大な風力タービンであるように発電エネルギーが変動します。バンディ准教授は、テキサスにある風力発電所の風力タービン全ての発電変動を見たとき、このことを発見したのです。

   地理的に離れたところにある風力発電所であっても、短期的スケールでも長期的スケールでも同じ乱の中にあれば、相関した変動発電量を示します。しかし実際は、風力発電所の距離が広がれば発電変動量のパターンは互いに乖離していきます。二つの地理的に離れた風力発電所は長期的スケールでは風速変動は同様のパターンを示すように見えても、短期的スケールでは全く異なる風速変動パターンを示すかも知れないのです。

   これまでには風力タービンによる発電においては、中央の電力網に到達するときには風の強い地域と穏やかな地域からの発電量がバランスを取ることで安定するという考えから、乱流の問題を過小評価している科学者もいました。ところが今回初めてバンディ教授の研究結果により、この「地理的平準化」として知られている現象がある程度までしか通用しないことがわかったのです。

   地理的に離れた場所にある発電タービンで作られる電力は短期的なスケールで見た場合には違う渦に属するために連動せず、統合的に高周波で安定化することができます。別の言い方をすれば、ひとつの発電タービンでの出力の上昇は、もうひとつの離れた発電所での電力供給の減少に相殺されることで中間的に安定化出来るのです。しかし、長期的スケールで見た時にこれらの発電所は同じ大きな渦の中にあり、発電量は低周波では連動しているのです。同じ長期的な乱渦の中に属する発電タービンはたとえ距離的に離れていても同時に出力が上昇します。つまり電力網に届く電力はお互いに相殺されないのです。つまり、風力発電における発電量の変動がどのくらい安定化できるかには、おのずと限度があるのです。ここでいう限度とは電力網を壊さない限度のことです。バンディ准教授は、テキサスにおける20の風力発電所とアイルランドの224基のウィンド・ファームからのデータを使い、実際にこの限度が存在することを示しました。

   「風力発電における発電量の変動の特性を理解することは、経済的・政治的な意思決定に直接的な意味を持ちます。」とバンディ准教授は述べています。

   再生可能エネルギーは流動的であるため、突然の停電に備え、石炭火力発電などが常にバックアップとして稼動している必要があります。これは実際に必要な量よりも多くのエネルギーが作られているということを意味します。すなわち「グリーンエネルギー」と言っても実は二酸化炭素排出を助長しており、予備エネルギーの管理コストが掛かっていることを意味します。これから数年内に再生可能エネルギーの割合が増加する際、このコストはさらに高まることが予想されます。バンディ准教授によって明確になった地理的平準化の限度の発見は、こうした予備エネルギー必要量の見積もり向上につながります。

   この発見はまた、環境政策にも影響するでしょう。地域で活用できる太陽光、風力、波力などの再生可能エネルギーの利用と共に、発電変動の安定化の限度を考慮することは、政策立案に関わる人々が、特定地域における多様なエネルギー源のベストミックスを編み出すためのより良い備えとなるでしょう。

   バンディ准教授は、「風力タービンの変動の性質を理解することは、他の変動するエネルギーシステムに関する研究への道も拓いてくれるでしょう。」とコメントしています。

 

 

 

(キーナン・グレタ)

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