2019-07-30

脳機能イメージングの新たな手法

   科学的発見はワクワクするものではありますが、そのような発見を可能にするためには、新たなアプローチも開発しなければなりません。 この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、膜電位を使って脳の活動を測定するイメージング法をまとめました。 この新アプローチにより、脳活動がいかに行動を引き起こせるのかなど、脳研究における中心的な問題を探求できるようになるでしょう。

   『Frontiers of Cellular Neuroscience』において、研究チームは、20年にわたる研究を「膜電位イメージング」法の入門としてまとめました。本アプローチは蛍光色素標識と顕微鏡を多角的に組み合わせて脳の活動を視覚化するものです。これにより培養組織及び覚醒している動物のいずれでも、個々のニューロンと脳の切片全体を研究することができます。

   この方法は、ナノ秒というごく短時間で脳の活動の変化を必要に応じて素早く捉えられるという点で、きわめて有力なツールとなります。 使用される蛍光色素は、脳内に安全に数週間とどまるので、より複雑で長期に及ぶ研究が可能性になるのです。

   「私たちの開発した膜電位イメージング法についての入門書をやっと出版することができ、喜んでいます。Springer Nature Neuromethodsから続いて出版される『Multi-Photon Microscopy』では、この方法の実験プロトコルについて一章をさいて説明する予定です。」と、ベアン・クン准教授は説明します。本技術の入門部分はクリストファー・ルーム博士との共同執筆です。

クン准教授の膜電位イメージング法を用いて色素標識された一個のプルキンエ細胞。この手法により、脳の神経活動の視覚化が可能になる。

膜電位イメージング法の基礎

   活動中の脳を画像化するためにはまず、蛍光色素を組織またはひとつの細胞に注入します。 色素分子の蛍光色は光センサーによって検出されます。 次に細胞膜に素早く電気ショックを与えます。 電気ショックにより細胞膜が瞬間的に開かれ、色素分子が膜を通過し、細胞内に送りこまれます。この色素分子を利用します。

   蛍光色素分子は常に発光します。 脳細胞が活性化されるとインパルスが細胞に沿って移動します。これにより、色素分子の電子構造と発光強度が変化します。 研究者らは、センサーを用いてこの変化を検出し、脳内で何が起こっているのかについて調べます。

   本アプローチによって既に興味深い研究結果が生み出されています。クン准教授の研究チームは昨年、覚醒しているマウスの特定のニューロンがどのように活性化されるかについて世界で初めての視覚化に成功しました。 この研究により、脳細胞による情報処理の重要なステップが明らかになり、行動がどのように発現するかについての示唆が得られたのです。

   ただし、このアプローチには限界もあります。 特に色素分子をニューロンに注入する作業は困難です。 研究者は細胞膜のそばの適切な位置にプローブを配置し、顕微鏡を通して、ちょうどよい力加減で電気ショックを与え、色素分子を細胞に注入しなければなりません。 この過程で電気ショックがうまく打てなかったり、色素分子の位置が適切でなかったりするという事態が生じると、細胞が損傷されてしまうことがあります。

顕微鏡を見ながらプルキンエ細胞の細胞膜の横にプローブを置き、蛍光色素を注入する。 色素分子がうまく注入されれば、脳細胞の活動を観察することができる。

 

   クン准教授は本アプローチをさらに改良して、研究者のスキルに依存しなくとも済むようにする予定です。 細かな手作業はフラストレーションが溜まるばかりでなく、実験手順を遅らせてしまうからです。 色素分子注入の新たな手法が見つかれば、はるかに速く作業できるようになるでしょう。

   それでも、改良された方法ができるまでは、この膜電位イメージング法はこれまで困難だった脳についての研究に有効であるとクン准教授は確信しています。

   「神経科学の分野では、脳内の活動から複雑な行動がどのように発現するのかという問いかけがしばしばなされます。そのような課題に答えるためには、さまざまなレベルで脳活動を研究できなければなりません。私たちのアプローチは、まさにこの課題に対処するための新たなツールなのです。」

   『Frontiers of Cellular Neuroscience』の入門部分に続き、OIST研究チームは、Springer Nature Neuromethodsから2019年8月に出版予定の『Multi-Photon Microscopy』 に基礎となる章を執筆する予定です。

膜電位イメージング法についての入門部分の章を共同執筆したベアン・クン准教授とクリストファー・ルーム博士。