無尽蔵の資源を活用する「海流エネファーム」

OISTの研究チームが海流発電機の新デザインを考案しました。

 化石燃料のエネルギー利用は産業革命を後押しし、その後の技術発展に寄与してきました。しかし、その埋蔵量には限りがあり、低炭素社会への転換に向けた取り組みが急務となっています。石油・石炭などのエネルギー資源が底をつく日はもうすぐそこまで来ているのです。

 エネルギー革命の旗手である太陽光および風力発電。しかし、世界のエネルギー消費量が増加の一途をたどるなか、必要な電力を全てこの2つのエネルギー源だけで賄うことは不可能だということが分かってきました。太陽光と風力はもともと、昼夜の変化や天候に左右される不安定なエネルギー源であるうえに、設置に広大な土地を必要とします。

 それらの解決策となりうる有効なエネルギー源のひとつが海流です。海流は年間を通じてほぼ安定した速さで流れ安定性に優れている点で化石燃料に匹敵します。そのうえ環境にやさしい再生可能なエネルギーでもあります。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子波光学顕微鏡ユニットの研究チームが、そのような海流エネルギーを利用した海流発電機(タービン)の新たなデザインを考案し、国際科学誌「Renewable Energy」に発表しました。研究チームは、日本近海を流れる黒潮を利用した海流発電を目指しています。今回の設計は、特に台風や嵐などの悪天候による壊滅的な被害を受けやすい日本や台湾、フィリピン諸島といった地域での使用が考慮されています。深さ約100メートルの水の流れが緩やかで安定した水深で運転するため、暴風の影響も受けません。

 「私たちのデザインはシンプルで、高い安定性とエネルギー変換効率が特徴です」と話すのはOIST量子波光学顕微鏡ユニットの白澤克年研究員です。発電機はフロートと重り、発電機を収納するナセル、プロペラで構成されています。構成部品の数を最小限に抑えることで、メンテナンスのしやすさ、低コスト、低故障率が可能になります。

 OISTの研究チームが考案したのは、凧と風力タービンを組み合わせたハイブリット型デザインです。海底から伸びるチェーンで係留した発電機を海流中に凧のように浮かせて、3枚のブレードを海流により回転させます。海流はかなり緩やかで、平均速度は毎秒およそ1~1.5mです。そうはいっても、水の密度は空気の800倍以上にもなります。緩やかな流れであっても、そのエネルギー量は強風に匹敵します。そして海流のもうひとつの特徴は、絶え間なく流れ、向きも一定であるということです。

 新竹積教授率いる研究チームは発電機の試作品を作成し、その設計や形状を検証するためいくつかの実験をおこないました。その結果、タービンの構造には優れた強度と安定性が備わっていることが確認されました。また今回の実験により、商業用の風力発電機に遜色のないエネルギー変換効率も達成しています。

 発電機のデザインは設置場所の条件やニーズに合わせて調整することが可能です。白澤研究員らは、直径80メートルのタービン300機から成る「エネルギー・ファーム」の構築を目指しています。予想される電力の量は原子力発電所1基分に相当する約1GWで、40万世帯以上の家庭に電力を供給することができます。本プロジェクトが実現すれば、自然エネルギー開発を後押しする重要な一歩となるでしょう。

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