恐竜と数学

ロバート・シンクレア准教授は数学を使って、古生物学など意外な分野にも研究の幅を広げています。

 恐竜と数学。一見すると不自然に見える組合せですが、OIST数理生物学ユニットのロバート・シンクレア准教授と研究員たちにとっては、理にかなったごく自然な関係性を示しています。シンクレア准教授は、オーストラリアで発見された恐竜の骨を再分類した研究チームのひとりで、その研究成果は最近になって学術誌 Alcheringa: An Australasian Journal of Palaeontology に掲載されました。同教授は、発見された1本の腕骨が、かつて南半球には存在しなかったとされる恐竜の骨に分類されることを数学者としての専門知識を用いて証明し、共同研究者である古生物学者たちの主張を後押ししました。古代大陸がどのように繋がっていたかという通説を覆す可能性のある国際的で学際的な共同研究に、シンクレア准教授は貢献しました。

 議論の的となった「尺骨」と呼ばれる前腕の骨は、オーストラリア南部で見つかりました。研究者たちは、この骨の持ち主である新種の恐竜をSerendipaceratops arthurcclarkeiと名付け、あの有名なトリケラトプスに代表される新角竜類(Neoceratopsia)に分類しました。この論文が発表された直後、別の研究グループが論文を発表し、発掘された腕骨が新角竜類のものとは考えにくいと反論しました。その理由の一つが、新角竜類は北半球のみに生息した恐竜であり、当時大陸は既に南北の陸塊に分裂していたため、新角竜類の骨がオーストラリアで見つかるはずがないというものでした。しかし、気をつけなくてはならないのは、この理論の柱となっている大陸の分裂時期が化石データに基づいて測定されたという点です。「鶏が先か卵が先かという堂々巡りの議論です」と、シンクレア准教授は言います。理論確立のために使われたデータが予想外の発見によって疑われた場合、その理論そのものを疑う必要があります。しかし、実際にそれをやってのけるのは容易ではありません。

 このような問題に対してシンクレア准教授は、どちらの理論が正しいかを裏付ける確かな証拠を示すために数学を用います。従来の方法では解決できない問題を抱える研究分野の難題を、数学を使ってひもとくことに興味を持っています。このため,シンクレア准教授は古生物学、とりわけ出身地であるオーストラリアでの古生物学研究に関心を持ちました。オーストラリアの古生物学者で、後の論文共著者となるThomas Rich博士は、OIST に招待されて講演を行った後、分析した骨の化石が新角竜類のものであることを証明する手助けをしてほしいとシンクレア准教授に依頼しました。

 そこでシンクレア准教授は、発見した骨のサイズと特徴が新角竜類のものと一致するかどうか、あるいは他の恐竜のものと一致するかを比較調査しました。同准教授は「数学をあまり活用しない分野や、数学の考え方がさほど浸透していない分野で、専門家たちに理解してもらうことに心を砕きました」と振り返ります。同准教授はまず、骨の測定可能な特徴を見つけ、それを他属・他種の恐竜のものと比較しました。例えば、骨の平坦性などです。次にそれぞれの骨の変形度合を数学的に表しました。これは、時間が経つと化石が壊れたり変形したりする傾向があるからです。それでも一部の古生物学者は数学に対する懐疑的な見方を払拭できずにいました。そこでシンクレア准教授は、比較対象を変え、複数の数学的手法を用いても全て同じ結論に達することを立証する必要がありました。

 最終的に、発見された骨が新角竜類のものであることを一部の古生物学者たちに証明するため、シンクレア准教授は3種類の数学的データを提示することに成功しました。 このようにシンクレア准教授を突き動かすのは、それぞれの分野における既存の方法では解決困難な問題に、数学を用いて取り組むことです。今回の研究では、同教授による統計分析を共同研究者である古生物学者たちの分析手法と合わせて考えると、発見された腕骨が新角竜類に属すると再認識するのに十分説得力のある解析でした。

 今後さらに多くの恐竜の骨がオーストラリアで見つかることにより、オーストラリア大陸の恐竜相の認識を塗り替えることになるかもしれないとシンクレア准教授は期待交じりで語りました。さらに、新しい分野での研究について「数学者として、その分野で広く受け入れられている通念を覆せるかを探ろうとしています」と言います。このことからも、恐竜と数学がシンクレア准教授にとっていかに自然な結びつきであるかが分かります。

Alcheringa: An Australasian Journal of Palaeontologyに掲載された論文は、下記リンク先よりお読みいただけます。http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03115518.2014.894809#.U3MMH62SwmY

(エステス キャスリーン)

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