規模が大きくない磁気嵐の際の低緯度オーロラの発生要因

継続的・高密度の市民科学観測網による低緯度オーロラの発生要因の解明に期待

Photos of Aurora

[共同プレスリリース] 

北海道大学大学院環境科学院博士後期課程1年の中山智博氏(研究当時:修士課程2年)と、沖縄科学技術大学院大学の片岡龍峰主幹研究員の研究グループは、2024~2025年に北日本で観測された5回の低緯度オーロラを対象に研究を行い、通常のオーロラよりも発光高度が高いことを明らかにしました。

この5回の低緯度オーロラは、規模があまり大きくない磁気嵐*1で目撃された点が特徴で、太陽風*2密度が非常に濃い状態で磁気圏*3が強く圧縮された際に発生していました。中山氏自身が撮影した写真と、北海道・東北の広い範囲で市民が撮影した写真を分析し、北日本で低緯度オーロラが見られた原因を検討しました。さらに、多くの市民科学者*4の写真と、衛星データを組み合わせ、オーロラの発光高度を分析しました。その結果、これらのオーロラは高度500~800 kmに達し、通常のオーロラの発光高度(約200 km)よりも高いことが明らかになりました。背の高いオーロラは熱圏の大気密度が磁気嵐に伴って大きく増加したことを間接的に示すものであり、高密度の太陽風による強い磁気圏圧縮の際に、熱圏での強い大気加熱が起こっていた可能性を示唆します。

本研究成果は規模があまり大きくない磁気嵐の際の大気加熱に対する理解向上に貢献し、予期せぬ低軌道衛星の大気圏突入を防ぐために必要な宇宙天気予報の精度向上への貢献が期待されます。 本研究成果は、2026年5月19日(火)公開のJournal of Space Weather and Space Climate誌にオンライン掲載されました。

背景

大きな磁気嵐が発生すると、北海道や東北地方などの北日本で赤い低緯度オーロラが目撃されてきました。一方で、磁気嵐の規模が決して大きくないにもかかわらず、北日本の広い範囲で低緯度オーロラが目撃される事例が何度も発生しています。しかしながら、このような事例が発生する要因は十分に理解されていませんでした。

近年、デジタルカメラやスマートフォンのカメラの性能向上により、市民が撮影した高精細なオーロラ写真を科学研究に活用する、市民科学によるオーロラ研究が発展しています。市民科学の観測網は2023年12月、2024年5月、10月の事例を経て広がり続けており、市民科学者たちは次の低緯度オーロラを待ち望んでいました。そのため、低緯度オーロラが発生すると即座に報告が集まるという継続的かつ高密度の観測網が形成されました。

研究手法

本研究では、北海道・東北で低緯度オーロラが観測された5事例(2024年6月28日、8月4日、9月12日、11月9日、2025年3月26日)を対象に分析を行いました。これらはいずれも、磁気嵐の規模が大きくないにもかかわらず観測された事例です。比較のため、低緯度オーロラが観測されなかった同程度の規模の磁気嵐4事例も加え、計9事例を解析しました。 筆頭著者の中山氏は、市民科学者の1人として、2021年11月から北大天文同好会のメンバーと共に北海道の各地で低緯度オーロラの観測・撮影を継続し、写真データを収集してきました。さらに、片岡主幹研究員と中山氏はX(旧Twitter)を通して市民にオーロラの撮影を呼びかけ、北海道・東北地方の広範囲で市民が撮影したオーロラ写真を収集しました。 市民の写真とオーロラの低緯度側への広がりを捉えた衛星観測データを組み合わせ、これらのオーロラの発光高度を推定しました(図1)。さらに、太陽風データ及び地磁気指数データを用いて、磁気嵐の規模が大きくないにもかかわらず、北日本で低緯度オーロラが見られた原因を検証しました。

研究成果

オーロラの発光高度を推定した結果、5事例全てで、発光高度が500~800 kmに達していたことが明らかになりました。これは、通常の赤いオーロラの発光高度(約200 km)よりもはるかに高い値です。このような背の高いオーロラの発生が、北日本の広範囲で低緯度オーロラが観測された要因の一つと考えられます。

さらに、5事例はいずれも、高密度の太陽風(30~70 [/cc])と関連していました(図2)。これは通常の密度の約10倍の濃さです。高密度の太陽風で磁気圏が強く圧縮されると、昼側の磁気圏の境界(磁気圏界面)が静止軌道付近(およそ高度3.6万 km)まで押し込まれます。その結果、静止軌道衛星が磁気圏の外に飛び出す、「磁気圏界面静止軌道通過(GMC)」が発生します。この5事例では低緯度オーロラが、GMCやそれに匹敵する強さの圧縮の最中、あるいは発生直後に観測されていたことが明らかになりました。

一般的に磁気嵐は磁気圏の中にプラズマが蓄積されることで発達します。一方で、GMCが起こるほど磁気圏が強く圧縮される状況では、蓄積されたプラズマが磁気圏の外に流出し、実際は大きな磁気嵐だったにもかかわらず、見かけの磁気嵐の大きさが小さくなってしまったと考えられます。

さらに、オーロラが観測されなかった4例の磁気嵐と比較した結果、これらは太陽風の密度が低い条件(高速・低密度、または低速・低密度)に関連していました。このようなマルチイベント解析を通して、高密度の太陽風とそれに伴う強い磁気圏の圧縮が起こっている際に、北日本から低緯度オーロラが見られる可能性が高いことが明らかになりました。

今後への期待

本研究は、2023年12月、2024年5月、10月の低緯度オーロラに関する市民科学研究に続き、継続的かつ高密度な市民科学観測網の重要性を裏付けるものです。一方で、高密度の太陽風による強い磁気圏圧縮の際に、なぜ背の高いオーロラが出るのかという物理プロセスは未解明です。今後も継続的に観測を行い、事例数を蓄積することで、現象の理解がさらに進むことが期待されます。

また、600 kmを超えるような背の高いオーロラは、熱圏で異常な大気加熱が生じている可能性を示唆します。しかし、現状の大気加熱モデルの適用上限は600 km程度であり、観測結果を説明するには改良が必要であることが示唆されました。今後、観測とモデリングを組み合わせることで、背の高いオーロラの発生要因や、熱圏における強い大気加熱のメカニズムの解明につながると期待されます。これにより、低軌道衛星の予期せぬ大気圏再突入リスクの低減に向け、宇宙天気予報の精度向上への貢献が期待されます。

Fig1 Aurora altitude estimation
衛星データと市民が撮影した写真を組み合わせたオーロラの高度推定。衛星によるオーロラの低緯度側の境界の磁力線に対し、写真の中の星の位置から推定したオーロラの仰角を投影し、高度のグリッドを写真に重ねることでオーロラの発光高度を可視化した(オーロラ写真撮影:田村幸基氏)。
衛星データと市民が撮影した写真を組み合わせたオーロラの高度推定。衛星によるオーロラの低緯度側の境界の磁力線に対し、写真の中の星の位置から推定したオーロラの仰角を投影し、高度のグリッドを写真に重ねることでオーロラの発光高度を可視化した(オーロラ写真撮影:田村幸基氏)。
Fig2 Aurora data analytics
低緯度オーロラが見られた2024年に発生した4事例の太陽風速度(上段黒)、密度(上段赤)、磁気圏の大きさ(中段黒)、動圧(中段赤)、SYM-H指数(下段黒)、ASYM-H指数(下段赤)。赤のシェードはオーロラが観測された期間、緑はGMCが実際に観測された期間、青はモデルでGMCになっている期間を示す。オーロラは高密度の太陽風でGMCやGMCに匹敵するような磁気圏の圧縮が起こっている最中や発生直後に観測されている。
低緯度オーロラが見られた2024年に発生した4事例の太陽風速度(上段黒)、密度(上段赤)、磁気圏の大きさ(中段黒)、動圧(中段赤)、SYM-H指数(下段黒)、ASYM-H指数(下段赤)。赤のシェードはオーロラが観測された期間、緑はGMCが実際に観測された期間、青はモデルでGMCになっている期間を示す。オーロラは高密度の太陽風でGMCやGMCに匹敵するような磁気圏の圧縮が起こっている最中や発生直後に観測されている。

謝辞

本研究は北大天文同好会、日本学術振興会科学研究費(基盤研究A、JP24H00277)、公益財団法人放送文化基金、国文研DDHプロジェクトの助成を受けて実施されました。また、低緯度オーロラの継続的な観測に協力してくださった市民科学者の皆さま、北大天文同好会の皆さまに感謝申し上げます。

用語解説

*1 磁気嵐 … 太陽で大規模な爆発現象が発生し、プラズマの塊が放出され、プラズマが地球に到達して全球規模で地磁気が弱くなる現象のこと。
*2 太陽風 … 太陽から常に噴き出しているプラズマの流れのこと。
*3 磁気圏 … 地球の固有磁場が影響を及ぼす領域のこと。
*4 市民科学者 …データ収集・観測などの研究活動に参加する非研究者の市民のこと。本研究では写真を提供してくださった方々、観測に協力してくださった方々のことを指す。

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