2026年5月1日
大量絶滅が生んだ生態系エンジニア――解明されたシロアリ進化の歴史
熱帯生態系は、シロアリが構築する「インフラ」に依存しています。シロアリは、有機廃棄物の分解を通して植物に不可欠な栄養を供給し、トンネルを掘って土壌に空気を通すことで植物の根に水を届け、さらに熱帯雨林の総バイオマスの約10~20%を占めることで食物連鎖を支えています。しかし、かつてのシロアリは現在のように熱帯生態系を支える存在ではありませんでした。
この度、熱帯雨林の「生態系エンジニア」であるシロアリが、どのようにして重要な存在となったのかを理解する研究成果が発表されました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)と国際的研究チームは、新たに記載された206種も含め、アメリカ大陸全域におけるほぼすべてのシロアリ種のDNAを網羅的に解読することに成功し、シロアリの進化の時間軸を明らかにしました。現在のシロアリを特徴づける性質、すなわち土壌を食べ、糞を用いて巣を作り、菌類を栽培する特質は、徐々に進化したのではなく、約3,000万年の間隔をおいて起こった2度の明確な進化の「波」によって出現したことが示されました。これらの進化の波は、白亜紀末大量絶滅および始新世-漸新世絶滅イベントの後に起きたもので、研究成果は、学術誌Current Biology誌に掲載されました。
土を食べて繁栄
シロアリの多様化の2つの波はいずれも、地球規模の生態系崩壊の時期に起こりました。最初の波を引き起こした正確な要因は、いまだ仮説の段階にあります。最初の波は白亜紀末ごろに起こり、約6,600万年前に恐竜の絶滅をもたらした直径約10kmの隕石衝突と重なっていた可能性があります。「白亜紀末期の大量絶滅は、おそらく一部のシロアリ系統の絶滅に寄与したと考えられますが、同時に多くの生態的ニッチの空白を生み出すことにもなり、それが後のシロアリの多様化を促進した可能性があります」と、研究の共同筆頭著者であるサイモン・ヘレマンス博士は述べています。
第2の波は、約3,300万年前の始新世-漸新世絶滅の直後に起こりました。この時期、オーストラリア大陸と南極大陸の分離によって海流が形成され、南極の気候が孤立し、その結果、永久凍土が形成される条件が整いました。新たに出現した氷河は、海水を吸収するように取り込み、地質学的には非常に短期間のうちに地球規模の寒冷化を引き起こし、約1万年の間に地球の平均気温は約8℃も低下したのです。OIST進化ゲノミクスユニットを率いるトマ・ブーギニョン教授は次のように説明しています。「始新世-漸新世の絶滅以前には、現在のアラスカから南極大陸北端に至るまで、高温の熱帯雨林が広がっていました。しかし地球規模の寒冷化の後、熱帯雨林は熱帯地域に限定されるようになりました。多くの高温の熱帯雨林は、急速に温帯林やサバンナへと変化したのです。」
地球規模の寒冷化によって無数の動植物種が絶滅する一方で、その直前の時期に、とあるシロアリの一群が画期的な進化を遂げていました。トマ・ブーギニョン教授は次のように述べています。「土壌を消化できる能力によって、シロアリは新たなニッチを開拓することができました。絶滅によって多くの生態的ニッチが生まれ、土壌を食べる種はその土地に適応していきました。」現在では、土壌を餌とするシロアリは、全種の半数以上を占めています。一方で、木材を食べるシロアリ種のうち、害虫とされる種は、ごく一部にすぎません。
シロアリ科の急速な拡大と多様化は、土壌を食べる能力によって一部説明できますが、どのようにして海を越えて広がったのかは依然として不明です。アフリカに起源を持ちながら、シロアリ科の子孫は現在、アメリカ大陸を含む世界中に分布しています。しかしアメリカ大陸の種は、シロアリ目が分化するよりもはるか以前にアフリカから分離していました。木材を食べるシロアリは、これまでに倒木に乗って海を渡ることが知られていますが、シロアリ科は生存に土壌を必要とします。サイモン・ヘレマンス博士は次のように続けます。「これは謎です。一つの推測としては、倒れた木の根に付着した土の塊の中で生き延びたか、樹冠に形成された植物の中で生存していた可能性がありますが、現時点ではそれを裏付ける証拠はありません。
アメリカ大陸における遺伝子解析
本研究の成果は、シロアリのゲノムデータベースを大幅に拡充したことに基づいています。ヘレマンス博士は次のように説明しています。「私たちは1,756の新たなサンプルを解析し、利用可能なミトコンドリアゲノムの総数を倍増させるとともに、核ゲノムのデータを大きく拡充しました。その結果、アメリカ大陸に生息するほぼすべてのシロアリ種の遺伝データにアクセスできるようになり、その進化の歴史を明確に把握できるようになりました。さらに副次的な成果として、科学的に未記載だった200種以上の遺伝データも得られています。このデータセットは、今後10年ほど分類学者に十分な研究材料を提供するはずです。」
ヘレマンス博士やブーギニョン教授自身も南米で一部のシロアリを採集しましたが、データベースの大部分は、ブラジルのサンパウロ大学動物学博物館、アメリカのフロリダ大学、ベルギーのブリュッセル自由大学から提供されたコレクションに基づいて構築されています。ブーギニョン教授は以下のように話しています。
「地球規模の生態系の激変に対する高い回復力が、シロアリの多様化の鍵だったことが、今回明らかになりました。しかし、地球温暖化が彼らの進化の軌跡にどのような影響を及ぼすかを評価するには、まだ時期尚早です。一方で、森林伐採のような人為的な生態系の変化によって、すでに多くの種が失われている可能性は高いでしょう。」この新たな進化のタイムラインとデータベースによって、シロアリがどのようにして熱帯生態系に不可欠な「エンジニア」となったのか、そして人類が地球環境を変えつつある今、シロアリの適応力がなぜ重要なのかを、これまで以上に明確に理解できるようになりました。
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