“複雑すぎて不可能”を突破:堆積物を含む流体の混合を高精度でモデル化
空気中を落下する雨粒、河口で沈んでいく沈殿物、あるいは超新星爆発で放出される物質など―こうしたものの動きの速度を決めている要因は何でしょうか。
これらの現象は全く別の現象に見えますが、実は非常にシンプルな一つの要因―粒子を含む流体が粒子を含まない流体と混合する速さ―に集約されます。雨粒は大気の層を通り抜けて落下し、堆積物は河川から海水へと流れ込み、超新星の噴出物は爆発した星から周囲の塵雲(じんうん)へと広がっていきます。同じ原理は、煙の上昇、砂塵嵐、核爆発、炭化水素の精製、金属精錬、廃水処理など、さまざまな場面で起こる粒子混合にも共通しています。
今回、新たなシミュレーションにより、この根本的な流体力学の振る舞いをこれまでになく詳細に理解できるようになりました。これらの現象は日常でも目にするものですが、その複雑さゆえに長らく科学的な検証が難しく、十分に理解されてきませんでした。研究チームは、重い粒子の層がどのように混ざり合うのかを初めて統一的に定式化し、これらの現象に共通する特徴を体系的に示しました。この成果は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とトリノ大学の共同研究によるもので、科学誌『Physical Review Letters』に掲載されています。本論文の筆頭著者であり、OIST複雑流体・流動ユニットの博士課程学生であるシモーネ・タンドゥレラさんは次のように説明しています。「今回のシミュレーションと理論モデルにより、幅広い基礎物理現象の研究や流体工学の応用研究に新たな可能性が開けます。粒子・流体不安定性(粒子と流体の相互作用によって生じる不安定な挙動)を理解するための、欠けていたパズルのピースを提供するものです。」
複雑さを理論に落とし込む
ほとんどの流体の挙動を支配する一般的な物理法則は比較的単純です。しかし、それらの方程式を実際に解いて振る舞いを予測しようとすると、途端に極めて複雑になります。直感的には、堆積物が水中を沈んでいく現象は単純に思えますが、個々の砂粒がどのような力を受けて川底に沈むのか、あるいは堆積物を含む水と澄んだ水が全体としてどれほどの速さで混ざり合うのかを科学的に記述するのは決して容易ではありません。その理由は、関与する力が非常に多岐にわたり複雑で、長期的な相互作用が予想しにくいためです。例えば、粒子それぞれの重量、粘性による抗力(流体摩擦)、重力やその他の加速度場の影響、そして一つの粒子の存在が周囲のすべての粒子に及ぼす力学的な影響などが挙げられます。タンドゥレラさんは「三体問題があれほど複雑だとすれば、十万体の問題を想像してみてください」と指摘します。
この複雑さを捉えるために、研究チームは、実験では正確に再現・観察することができず、さらに長らく計算機による表現も不可能と考えられてきたこの現象を、数億の点で構成される流体中に浮遊する10万個の粒子の3次元運動としてシミュレーションしました。タンドゥレラさんは、その計算過程について次のように説明します。「固体粒子一つひとつには固有の体積と重量があります。まず、それぞれの粒子がその表面を通じて周囲の流体に及ぼす力を計算し、同時に流体が粒子に及ぼす力も計算します。次に、粒子にかかる力を合計し、流れ場全体にわたって流体運動を支配するナビエ–ストークス方程式を解き、粒子と流体を一歩だけ進めます。これを数百万回にわたり繰り返すのです。」
「これを実現できたのは、私たちの研究ユニットが長年わたり開発してきた大規模流体モデル方程式を処理できる高度に専門化した研究ソフトウェアと、OISTスーパーコンピューティングクラスターの独自アーキテクチャが組み合わさったおかげです。どちらかが欠けても、この成果は達成できませんでした。」
シミュレーションを通じて研究チームが観察した現象の一つが、堆積物プルームの形成です。浮遊する重い粒子は重力によって沈降する際、粘性による抗力(流体の引きずり効果)で周囲の流体を下方に引き込むことが分かりました。この下降流は周囲の粒子を巻き込み、さらに多くの流体を移動させることで、一つの大きな堆積物プルームを形成します。プルームが押しのけた分だけ同量の堆積物を含まない流体を同じスピードで上方へ押し上げ、さらなる堆積物を含む流体を押し下げることにつながります。また、粒子の終端速度は周囲の流体に対する相対運動(滑り速度)で決まるため、プルーム中心部の粒子はいっそう加速し、この加速が正のフィードバックとして働き、混合全体の速度をさらに高めます。複雑流体・流動ユニットを率いるマルコ・ロスティ准教授は次のように述べています。「従来のシミュレーションでは、粒子と流体の完全な相互作用を考慮していなかったため、これらの現象を観察することはできませんでした。今回初めて、この挙動を正確に再現し、研究することが可能になったのです。」
今回のシミュレーションと堆積物混合速度を正確に記述する理論的枠組みを基盤とすることで、物理学をはじめとするさまざまな分野における基礎現象の研究に加え、廃水処理や化学精製プロセスにおける流れの最適化、水路工学、土壌流出防止などの環境保護といった流体システムの応用研究にも、これまで以上に踏み込んで取り組めるようになります。
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