流れに逆らうチンアナゴ、そのユニークな摂食方法が明らかに

内気な海の人気者 が、いかに巣穴を活用し、強い流れの中で動きや姿勢を変えて餌を捕らえるのかを観察しました。実験室でのチンアナゴの行動研究は世界初の試み です。

Going against the flow: scientists reveal garden eels’ unique way of feeding

チンアナゴは、海の中を自由に泳ぎ回るのではなく、海底の砂地に巣穴を作り、そこでほぼ一生を過ごします。彼らほどおうち時間が好きな生き物はいないかも知れません。チンアナゴは熱帯地域のサンゴ礁周辺に最大1万匹とも言われるコロニー (生物集団)を形成して生息しており、群れをなしてゆらゆらと揺れ動く姿は、まるで海に広がる草原のようです。突き出た口にアニメキャラクターのようなかわいらしい目が特徴的な頭部を動かし、流れを真っ向から受けながら動物プランクトンを捕食します。

Garden eels anchor the lower part of their body in burrows, and face their heads against the current as they prey on zooplankton. The species pictured is the spotted garden eel, Heteroconger hassi.
チンアナゴは胴体の一部 を巣穴に固定し、流れに逆らうように頭部を動かして動物プランクトンを捕食する。写真の生物はチンアナゴ(Heteroconger hassi)。 
チンアナゴは胴体の一部 を巣穴に固定し、流れに逆らうように頭部を動かして動物プランクトンを捕食する。写真の生物はチンアナゴ(Heteroconger hassi)。 

しかし、このユニークな生物に関する情報は乏しく、環境条件によってどのように摂食方法を変化させているのか、といった詳しい行動は明らかになっていません。研究が進展していない理由として、海洋研究において自由に泳ぐことのできる魚の摂食戦略ばかりに注目が集まる傾向があることがあげられます。また、チンアナゴは神経質で、捕食者(またはダイバー)が近づくと巣穴に隠れてしまうため、観察が困難であることも理由のひとつです。

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の海洋研究グループは、世界初の試みとなる  、実験室内でチンアナゴの摂食行動 を調べる研究を行いました。科学誌Journal of Experimental Biologyに掲載された本研究論文では、チンアナゴが強い流れに耐えるために巣穴を利用して動きや姿勢を変え、自由に泳ぐ多くの魚と比べ、より広い範囲の流速下で摂食できることが明らかになりました。

本論文の筆頭著者でOIST海洋生態物理学ユニットの博士課程学生である石川昂汰さんは、次のように述べています。「自由に泳ぐことのできる魚は、サンゴ礁の割れ目や裂け目に身を隠して潮流から身を守ることができますが、より露出した場所に生息するチンアナゴは、その巣穴しか隠れる場所がありません。そのため強い流れに耐えるために独自の戦略を見出す必要があったのです。」

実験室では、チンアナゴが住む環境を再現するために砂を底に入れられる特別な回流水槽をあつらえました。回流水槽の底に砂を敷き詰め、沖縄でよく見られるチンアナゴ(Heteroconger hassi)を1匹ずつ入れて、実験しました。 

実験では、水槽の側面に2台、その上に1台のカメラを設置し、流速を0.1、0.15、0.2、0.25メートル毎秒の4段階に設定した環境化で動物プランクトンを放流し、それを捕食するチンアナゴの動きを撮影しました。

その映像をもとに、ディープラーニングの技術を使って、チンアナゴの目と体の最上部の黒い斑点を認識して追跡できるようプログラムに学習させました。生成された追跡データから、それぞれのチンアナゴの動きや姿勢を3次元空間で再現し、3次元行動解析を行いました。

3次元行動解析により、水流が速くなるにつれてチンアナゴが巣穴のより奥に身を隠し、巣穴近くを通る動物プランクトンに対象を絞って捕食していることが分かりました。

「流れが速いほど、その力に抗うために大きなエネルギーが必要となるため、このような適応方法は非常に重要です」と石川さんは述べています。

実験では、異なる流速における、チンアナゴの捕食量の変化を調べるため、毎実験後に水槽内に残る動物プランクトンの数を計測しました。その結果、流速0.2メートル毎秒に至るまでは、流れの速度が上がるにつれて巣穴の中へ後退しつつも、摂食をやめることはなく、より素早い動きで捕食する様子が観察されました。水面に出ている部分が短いため、デメリットとして捕食できる範囲が限定されてしまいます。しかし一定時間内に流れる動物プランクトンの量は流速に比例して増えるため、素早く動いて多くのプランクトンを捕食することで、そのデメリットをカバーしていると石川さんは説明します。さらに、餌の捕食距離が短くなるため、プランクトンを捕らえる確率も高くなります。

さらにチンアナゴは、水流が遅いときには、まっすぐな姿勢をとっていましたが、流れが速くなると、体をかがめさせていました。流れにさらされる体の面積を小さくする姿勢をとることで、体に受ける抵抗が約57%減少し、エネルギー消費を抑えることができるのです。  

研究グループは、チンアナゴの姿勢や巣穴からの距離がどのように変化するかを分析するために、3次元行動解析を行った。
研究グループは、チンアナゴの姿勢や巣穴からの距離がどのように変化するかを分析するために、3次元行動解析を行った。

しかし、チンアナゴでも耐えられないほど、流れが強くなることもあります。流速が0.25メートル毎秒より速くなると、チンアナゴは巣穴に完全に身を潜め、まったく摂食行動がみられませんでした。

これらの実験結果から、チンアナゴの摂食率は流速0.2メートル毎秒弱で最大となることが明らかになりました。一方で、自由に泳ぐことのできる魚のプランクトン摂食率は、流速0.15 メートル毎秒程度で最大になります。このことから、チンアナゴは自由に泳ぐサンゴ礁魚類よりも、より広い範囲の流速に適応して捕食できることが明らかになりました。

石川さんは、次のように述べています。「巣穴に身を潜めて餌の捕食距離を短くするというチンアナゴ独自の戦略は、流れが強いときに非常に有効的であることがうかがえます。」

少なくともチンアナゴにとっては、「おうち時間」を過ごすことが最善の策と言えそうです。

The first lab study on garden eels shows how these shy creatures use their burrows, and change their movement and posture, when feeding in strong currents.
Additional footage by Fei Yang Qin, Gyorgy Kiss and Kota Ishikawa

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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