2022-03-22

整列する細菌群

本研究のポイント

  • 生物の遺伝的多様性に境界面が影響を与えることはよく知られているが、細菌のような小さな生物での動態は十分に研究されてこなかった。
  • 本研究では、理論モデルと実験を組み合わせて、遺伝子的に異なる2種類の大腸菌群がチャネル(流路)内でどのように増殖するかを詳細に調べた。
  • 赤色と緑色に蛍光する2種類の菌株を使用することで、個体群構造を観察した。
  • その結果、両菌株群は、増殖するにつれて遺伝的に類似した個体が境界面に対して平行に整列をするようなパターンが見られた。
  • 土壌の中の細菌や特定の体組織にある細胞など、生体系でも似た構造が見られるため、研究者らはこの発見はさまざまな研究に応用できると考えている。

プレスリリース

生物個体群は無作為に分布しているわけではないことはよく知られています。むしろ、個体群は成長するにつれて、周囲の境界面に沿って組織化されていきます。このような組織化は、例えば、植物の外層を取り巻く細胞の増殖や、土壌中の非常に小さな空間における細菌の分布などに見られます。いずれの場合も、境界面がその個体群の根底にある遺伝的多様性に影響を及ぼしています。このような動態は、植物や岩の上のフジツボの分布などの比較的大きな生物種では研究が進んでいますが、細菌のような小さな生物ではこれまで十分に研究されてきませんでした。

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)生物複雑性ユニットマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットの二つの研究チームは、理論モデルと実験を組み合わせた研究で、大腸菌をチャネル(流路)に閉じ込めると、遺伝的に類似した個体同士が境界面に対して平行に整列すことを示し、米国科学アカデミー紀要PNASで発表しました。

本論文の筆頭著者で生物複雑性ユニットの博士課程学生であるアンジェリカ・コルダイェワさんは、次のように説明しています。「空間に境界面があるところで生物の個体群が増殖すると、その境界面によって各個体の動きに制約が加わり、その個体群の進化に影響を与える可能性があります。今回の研究よりチャネル内の細菌は境界面に沿って列をなし、その個体群内にパターンが出来上がる傾向があることが判明しました。このような構造は、他の生物系でもみられます。例えば、多孔質の土壌の中にいる細菌や特定の体組織にある細胞などが挙げられます。つまり、今回の発見は様々な研究に応用できると期待できます。」

大腸菌は、食べ物の中、人や動物の腸内など、さまざまな環境に存在する棒状の単細胞である細菌で、「母細胞」が分裂して2つの「娘細胞」を作る無性生殖を行います。研究チームは、この個体群構造を観察するため、赤色と緑色の異なる蛍光を発する2種類の大腸菌株を使用しました。こうすることで、どの娘細胞がどの母細胞から生まれたかを識別することができます。2種類の菌株は、大きさや生殖周期の長さなど、共通の特徴を持っています。

研究チームは、棒状の大腸菌が狭い流路で空間的制約を受けると、特徴的な列状パターンを形成することを発見した。

生物複雑性ユニットの研究チームは、まず集団であるコロニーの動態モデルを開発しました。実験で検証をする前の段階として、数世代にわたる個体群の成長をシミュレーションしました。次に、マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットと協力して、この難題に挑みました。

マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットを率いるエイミー・シェン教授は、実験について次のように説明しています。「私たちは、温度と湿度を制御できるマイクロ流体基盤を製作し、その中に細菌を入れる小さなマイクロチャネルを作りました。これは非常に難しく、通常の細胞実験よりもはるかに複雑でした。細菌には餌を与える必要もあり、基盤は汚染されやすい状況にありました。」

この実験は非常に困難なものでした。元OIST博士課程学生のポール・シェーフ・サイ博士(現在は台湾の長庚大学助教授)は、長期間にわたって細菌が増殖する様子を画像化するため、信頼性の高い基盤を構築するのに約1年を費やしました。今回の実験では、各菌株の個々の細菌をマイクロチャネルのほぼ中央に配置し、模様が形成される様子を観察するために80時間にわたって録画を行いました。その後、これらのビデオを解析し、実験から得られた増殖の動態をシミュレーションと比較しました。

すると、数世代の個体群で、最初の12時間で2種類の菌株が特徴的な列状パターンを形成し始めたことが、シミュレーションと実験の両方で確認されました。大腸菌は細長いため、マイクロチャネルの側面に対して平行に並びました。しかし、2種類の菌株は混ざり合うことなく、時間が経つにつれて、別々の列に分離していきました。

2022-03-22

実験の1つを収めた動画では、2種類の大腸菌株が最初の10時間で列状パターンを形成しているのがわかる。録画時間は40時間であったが、実験は80時間継続して行われた。

生物複雑性ユニットを率いるシモーネ・ピゴロッティ准教授は、「理論と実験を組み合わせることで、世界中の多くの研究者が使用している大腸菌の系に関する予想外の発見ができました」と研究の成果をまとめています。

発表論文詳細

  • 論文タイトル: Population genetics in microchannels
  • 発表先: 米国科学アカデミー紀要
  • 著者: Anzhelika Koldaeva, Hsieh-Fu Tsai, Amy Q. Shen, and Simone Pigolotti
  • DOI: 10.1073/pnas.2120821119
  • 発表日:2022.03.18
(ディッキー・ルシー)

広報や取材に関して:media@oist.jp