2021-08-26

乱流パフに新型コロナウイルス伝染の秘密

本研究のポイント:

  • 研究チームは、咳などの乱流パフが、異なる環境でどのように振る舞うかを説明する新モデルを構築し、スーパーコンピュータによるシミュレーションで、モデルの検証を行った。
  • 15℃以下の環境では乱流パフの浮力が大きく、より遠くまで移動することを示す新たな力学的挙動を発見した。
  • 今回の研究成果によって、乱流や環境が新型コロナウイルスSARS-Cov-2などのウイルスの空気伝染にどのような影響を与えるかをより正確に予測できる可能性がある。

プレスリリース:

乱流は、風の動きや海の波に加え、空間における磁場など、あらゆるところに存在します。また、煙突から立ち上る煙や咳などの一過性の現象にも見られます。

後者は「パフ乱流」と呼ばれ、これを理解することは、基礎科学の発展だけでなく、咳の飛沫がどこまで移動するかや、煙突やタバコから放出される汚染物質が周囲にどのように拡散するかを計算したりするなど、実際の健康・環境対策においても重要であると考えられています。しかし、気体や液体の乱流パフがどのように振る舞うかを完全にモデル化することは、これまで困難でした。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の複雑流体・流動ユニットを率いるマルコ・エドアルド・ロスティ准教授は、次のように述べています。「乱流は本質的にカオスなので、予測するのが困難です。パフ乱流は、気体や液体が連続的ではなく断続的に環境中に放出される際に発生するもので、複雑な特性を持っているため、さらに研究が困難となります。しかし、今は特に、SARS-Cov-2のようなウイルスの空気伝染を理解する上で非常に重要な意味を持っています。」

これまでに構築された理論で最新のものは1970年代のもので、パフが移動する速さや範囲など、パフ自体の力学にのみ着目したものでした。

しかし、OISTのロスティ准教授とイタリアのジェノバ大学のAndrea Mazzino教授は、共同研究によって新たなモデルを構築しました。既存の理論をベースとする新モデルでは、パフ内の微細な渦がどのように振る舞うか、また、温度や湿度の変化が大規模な乱流と小規模な乱流の力学にどのような影響を与えるかも考慮に入れています。研究論文は、2021年8月25日にPhysical Review Lettersに掲載されました。

大規模な乱流と小規模な乱流が混在する流体パフ。

興味深いことに、15℃以下の低温環境においては、同モデルにおける乱流の挙動が古典的なモデルから逸脱していることを研究チームは発見しました。

古典的なモデルでは、乱流が支配的に流体中の微細な渦の挙動を決定づけます。しかし、低温下においては、浮力からより多くの影響を受けるようになったのです。

「浮力の影響は、当初は非常に予想外でした。乱流パフの理論にまったく新しい要素が加わったのです。」とロスティ准教授は語っています。

浮力が及ぼす影響は、気体や液体のパフが放出された直後の温度が、周囲の温度よりもはるかに高い場合に増大します。暖かい気体や液体は周囲の冷たい気体や液体に比べてはるかに密度が低いため、パフは上昇し、より遠くまで移動することができます。

「浮力によって乱流は大きく異なります。パフの大規模な挙動だけでなく、パフ内の微細な渦の挙動も変化します」とロスティ准教授は説明します。

研究チームは、パフの挙動を大規模・小規模に分解することができる強力なスーパーコンピュータを使用して乱流パフのシミュレーションを行い、新理論を裏付けました。

新モデルによって、マスクを着用せずに咳や話をした際に放出される空気中の飛沫の挙動をより正確に予測することが可能となりました。

大きな液滴は、1メートルほどの距離ですぐに地面に落下しますが、小さな液滴は空気中に長く留まり、より遠くまで移動することができます。

ロスティ准教授は、次のように説明しています。「液滴がどれだけ速く蒸発し、どれだけ小さくなるかは、乱流に依存します。反対に、乱流もまた周囲の湿度や温度の影響を受けます。このような環境条件の違いや乱流への影響を考慮に入れてウイルスの空気伝染を研究することができるようになったのです。」

研究チームは今後、より複雑な非ニュートン流体のパフを対象に、影響を受ける力によって液体の流動がどれだけ変化しやすいかを調査する予定です。

「新型コロナウイルス感染症に関しては、唾液や粘液などの非ニュートン流体が勢いよく噴射される、くしゃみの研究に役立つでしょう」とロスティ准教授は締めくくっています。

本研究は新型コロナウイルス感染症対応HPCI臨時公募課題(課題番号:hp200157)の計算資源の提供を受け、実施しました。

発表論文詳細:

論文タイトル: Unraveling the secrets of turbulence in the fluid puff
著者: Andrea Mazzino, Marco Rosti
発表先: Physical Review Letters
DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.094501
発表日: 2021年8月25日

(ダニ・アレンビ)

広報や取材に関して:media@oist.jp