2021-04-22

励起子内の電子の軌道を世界で初めて撮影

本研究のポイント:

  • 励起子とは、負の電荷を帯びた電子が正の電荷を帯びた正孔と結合してできる励起粒子。
  • 本研究では、最先端技術を駆使し、励起子内の電子を世界で初めて撮影した。
  • 極端紫外光を使って励起子を分解し、電子を電子顕微鏡内の真空中に取り出す技術を用いた。
  • 本研究は、電子が物質から飛び出す角度を測定し、励起子内で電子と正孔がどのようにして互いに周回し合っているかを明らかにした。

プレスリリース

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、励起子内の粒子の内部軌道(空間分布)を示す画像を、世界で初めて撮影しました。これは、約1世紀にわたって科学者たちが目ざしてきたことです。

太陽電池やLED、レーザー、そしてスマートフォンなど、数多くある現代の技術デバイスには、半導体が重要な材料として使われていますが、励起子は、その半導体の中に見られる物質の励起状態のことをいいます。

本論文の共同筆頭著者でOISTフェムト秒分光法ユニットに所属するスタッフサイエンティストのマイケル・マン博士は、次のように説明します。「励起子は、電気的に中性であるため、物質内での振る舞いが電子などの他の粒子と大きく異なるという点で、非常にユニークで興味深い粒子です。励起子の存在は、物質の光に対する反応に顕著な影響を与える可能性があります。この研究により、励起子の性質に関する理解がさらに深まります。」

励起子は、半導体が光子を吸収することにより、負の電荷を帯びた電子が低いエネルギーレベルから高いエネルギーレベルに飛び移ることで生成されます。このとき、低いエネルギーレベルには正の電荷を帯びた穴である「正孔」ができます。こうして反対の電荷を帯びた電子と正孔が互いに引き付けられて周回を始め、励起子が生まれます。

励起子は、厳密には粒子(particles)ではなく、準粒子(quasiparticles)である(quasi-はラテン語で「ほとんど」という意味)。励起された負電荷の電子と正電荷の正孔が静電気力で引き合うことで生成される。正孔とは、励起された電子の後に残る空間のことで、それ自体が準粒子の一種である。

励起子は半導体において非常に重要な役割を果たしていますが、これまではその検出や測定の方法が限られていました。その理由の1つは、励起子の脆さです。励起子は、比較的小さなエネルギーでも自由電子と正孔に分解されてしまいます。さらに、励起子の一生は儚く、物質によっては、生成されてから数兆分の1秒程度で、励起された電子が正孔へと「落ちて」消滅してしまいます。

論文の責任著者で、OISTフェムト秒分光法ユニットを率いるケシャヴ・ダニ准教授は、次のように述べています。「励起子が最初に発見されたのは約90年前のことですが、ごく最近までは、励起子の光学的特徴(例えば、励起子が消滅したときに放出される光)しか確認することができませんでした。励起子の運動量などの性質や、電子と正孔がどのようにして互いに周回し合うかなどは、理論的にしか説明できませんでした。」

しかし、2020年12月に同ユニットの研究チームは、励起子内の電子の運動量を測定する画期的な技術を記載した論文を学術誌Scienceに発表しました。

そして今回もこの技術を用いて、励起子内の正孔の周囲の電子分布を示す画像を世界で初めて撮影し、Science Advances誌に本日(4月21日)付けで発表しました。

研究チームはまず、2次元半導体にレーザーパルス光を照射して励起子を生成しました。2次元半導体は近年発見された物質で、原子数個分の厚さで、より強固な励起子を含みます。

励起子を生成後、超高エネルギーの光子をもつレーザービームで励起子を分解し、電子を材料から取り出して電子顕微鏡内の真空空間に放出させました。

その後、電子顕微鏡で電子が物質から飛び出すときの角度とエネルギーを測定し、この測定値を基に、電子が励起子内の正孔に結合したときの初期運動量を割り出すことができました

この装置では、初期の光ポンプパルスで電子を励起して励起子を生成する。その後、即座に極端紫外光を用いた2回目の光パルスで、励起子内の電子を物質から電子顕微鏡の真空中に取り出す。電子顕微鏡では、電子が物質から飛び出したときのエネルギーと角度を測定し、励起子内の正孔の周囲にある電子の運動量を決定する。

「この技術は、高エネルギー物理学の衝突型加速器の実験に似ています。衝突型加速器では、強烈なエネルギーで粒子を衝突させて破壊し、衝突で生じた小さな内部粒子の軌跡を測定することで、破壊前の元の粒子の内部構造を解明することができます。私たちが行っている実験もそれと同様に、極端紫外光を使用して励起子を分解し、電子の軌道を測定することで、内部の様子を知ることができるのです」とダニ准教授は説明しています。

「これは至難の業でした。励起子を加熱してしまわないように、低温かつ低強度で細心の注意を払って測定を行わなければなりませんでした。そのため、1枚の画像を得るのに数日かかりました。」

チームは最終的に、正孔の周囲で電子が存在する確率が高い場所を示す、励起子の波動関数を測定することに成功しました。

極小の物理学では、量子の奇妙な概念が適用される。電子は粒子であると同時に波でもあるため、電子の位置と運動量を同時に把握することは不可能である。しかし、励起子の確率雲によって正孔の周囲で電子が存在する確率が高い場所が示される。研究チームは、波動関数を測定して励起子の確率雲の画像を作成した。

論文の共同筆頭著者でOISTフェムト秒分光法ユニットのスタッフサイエンティストであるジュリアン・マデオ博士は、「今回の研究結果は、この分野で重要な進歩となりました。粒子がより大きな複合粒子を形成する際の内部軌道を可視化できるようになれば、これまでにない方法で複合粒子を理解し、測定し、最終的には制御することが可能となるかもしれません。これにより、物質の新しい量子状態や、その概念に基づく技術を生み出すことができるかもしれません」と述べています。

左からジュリアン・マデオ博士(共同筆頭著者)、ケシャヴ・ダニ准教授(上席著者)、マイケル・マン博士(共同筆頭著者)。

論文情報

発表先及び発表日:Science Advances 2021年4月21日(火)
論文タイトル: Experimental measurement of the intrinsic excitonic wavefunction
DOI: dx.doi.org/10.1126/sciadv.abg0192
著者:Michael K. L. Man, Julien Madéo, Chakradhar Sahoo, Kaichen Xie, Marshall Campbell, Vivek Pareek, Arka Karmakar, E Laine Wong, Abdullah Al-Mahboob, Nicholas S. Chan, David R. Bacon, Xing Zhu, Mohamed M. M. Abdelrasoul, Xiaoqin Li, Tony F. Heinz, Felipe H. da Jornada, Ting Cao, Keshav M. Dani

(ダニ・アレンビ)

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