2020-12-04

脚光を浴びる「暗い」励起子

OISTの研究者らは「暗い励起子」と呼ばれる粒子を世界で初めて直接観察し測定することに成功しました。2次元半導体という非常に薄くて将来の活躍が有望視されている素材の上で観察されたこの粒子は、光で捉えることができないために10年あまりにわたって世界中の研究者が追い求めていました。

学術誌Scienceに12月4日付で掲載されたこの成果は、太陽電池やLEDからスマートフォンやレーザーに至るまで、将来の技術デバイスに大きな影響を与える2次元半導体や励起子の研究に革命をもたらす強力な技術となる可能性があります。

励起子は、半導体内で生じる物質の励起状態であり、現代の技術における重要な要素となっています。半導体材料内の電子が光によってより高いエネルギー状態に励起されると、電子が以前に存在していたエネルギーレベルには「正孔」ができます。

「正孔は電子が抜けた「穴」であるため、電子とは逆の電荷を帯びます。これらの反対の電荷をもつ電子と正孔が引き付けられ結合することで励起子が形成され、材料の中を移動できるようになります」と、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のフェムト秒分光法ユニットを率いる、本論文責任著者のケシャヴ・ダニ准教授は説明します。

通常の半導体中では励起子は生成後数十億分の1秒以内に消滅します。さらに、励起子は「壊れやすい」ので研究やその制御が困難です。しかし、励起子がより長く存在できる2次元半導体が10年ほど前に発見されました。

遷移金属ダイカルコゲナイド単層(TMDs)として知られる新たなクラスの半導体は、グラフェンに似た構造を持っています。 TMDsは、六方晶の結晶格子を形成するように配置された原子1層のみで構成されています。

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「丈夫な励起子」はこの新物質に画期的な性質を与えるので、オプトエレクトロニクス素子の材料として世界中で研究が進んでいます。しかし現時点では、励起子の測定に使用される標準的な実験手法には大きな制約があります」と、OISTフェムト秒分光法ユニットのスタッフサイエンティストで共同筆頭著者のジュリアン・マデオ博士は述べます。

研究者は励起子のエネルギー状態に関する情報を明らかにするため、光学的手法を用いています。これは半導体材料によって吸収、反射、または放出される光の波長を測定する方法です。しかし、光学的手法で調べられるのはごく一部の性質です。

光との相互作用で調べることができるのは明るい励起子と呼ばれるタイプの励起子だけです。しかし励起子には「運動量禁制な暗い励起子」など、その他のタイプの励起子も存在します。この暗い励起子では、電子は結合している正孔とは異なる運動量を持っているため、光を吸収できません。これは、暗い励起子を形成している電子が明るい励起子の電子とは異なる運動量を持っていることも意味しています。

「暗い励起子が存在することはわかっていましたが、これまでは直接見ることも調べることもできませんでした。材料の光学的、電気的な特性にどの程度影響を与える重要な存在であるのかがわかっていないのです」とマデオ博士は述べます。

 

暗い励起子の調べ方

暗い励起子を世界で初めて視覚化するために、研究者らはこれまで一体の非束縛電子の研究でのみ使用されてきた強力な手法を用いました。

.「この手法が電子の結合した複合粒子である励起子に対しても機能するかどうかは明らかではありませんでした。このアプローチの有効性についてはこれまでに多くの理論的研究がありました」とダニ教授は述べます。

教授らは、十分高エネルギーの光子をもつ光線を半導体物質中の励起子に当て、光子のエネルギーによって励起子を分解して電子を半導体から取り出す手法を考案しました。

極端紫外光のビームを整える、フェムト秒分光法ユニットのスタッフサイエンティストで共同筆頭著者のジュリアン・マデオ博士。

電子が物質から飛び出す方向を測定することで、電子が励起子の一部であったときの初期運動量を決定することができます。したがって、明るい励起子と暗い励起子を見ることができるのみならず、区別することもできます。

しかし、この新たな技術を実装するためには、大きな技術的課題を解決する必要がありました。研究チームは、励起子を分解して電子を材料から取り出すことができるエネルギーを持つ極端紫外光パルスを生成し、飛び出してきた電子のエネルギーと角度を測定する装置が必要でした。さらに、励起子は非常に短命であるため、機器は1兆分の1秒未満のタイムスケールで動作する必要もありました。他にも、この機器には、ミクロンスケールという極小サイズの2D半導体サンプルを測定するのに十分な空間分解能も必要でした。

まず光ポンプパルスで電子を励起して励起子を生成する。その後、極端紫外光パルスの光子が励起子内の電子を物質から電子顕微鏡内の真空中に取り出す。飛び出してきた電子のエネルギーと角度を電子顕微鏡で測定する。

「すべての技術的課題を解決して装置の電源を入れたら、励起子の存在を画面で確認することができました。驚きでした」と、同じくOISTフェムト秒分光ユニットで、論文共同筆頭著者であるマイケル・マン博士は述べています。

電子顕微鏡に半導体材料のサンプルをセットする、フェムト秒分光ユニットのスタッフサイエンティストで論文共同筆頭著者であるマイケル・マン博士。

研究者たちは、事前の予測通り、半導体物質中に明るい励起子と暗い励起子の両方が存在することを発見しました。そして驚いたことに、暗い励起子のほうが明るい励起子よりも数が多く、物質の性質を支配していることも発見しました。さらに、特定の条件下で励起された電子が物質全体に散乱して運動量が変化すると、励起子が明るい状態と暗い状態の間を行き来するケースがあることもわかりました。

「暗い励起子の数が多いことと、暗い励起子と明るい励起子の間の相互作用は、暗い励起子がこの新しい種類の半導体に予想以上に大きな影響を与えていることを示唆しています」とマデオ博士は述べています。

「この技術は本当に画期的なものです。暗い励起子の世界初の観測を実現し、特性を明らかにしただけでなく、励起子や他の励起状態の研究に新たな時代をもたらすでしょう」とダニ准教授は締めくくりました。

2020-12-01

研究者らは励起子を発生させるポンプパルスと電子を取り出す極端紫外光パルス間の時間を変えることで、暗い励起子(赤)と明るい励起子(青)が時間の経過とともにどのように変化するかを示すビデオを作成した。

Credit: 
Reprinted with permission from [Madéo et al.], Directly visualizing the momentum-forbidden dark excitons and their dynamics in atomically thin semiconductors AAAS Science 2020
 
ヘッダー写真提供:Jiyong Kong
(ダニ・アレンビ)

広報や取材に関して:media@oist.jp