2017-01-10

2D物質が3Dの世界をさらに強化

  ここ十年ほど、二次元(2D)物質が、ますます多くの研究者から注目を集めています。ひとつないしほんの数個の原子分の厚さしかないというのが特徴であるこれら2D物質は、様々な元素、または元素のコンビネーションから構成されています。科学者たちが2D物質の虜となったのは、ノーベル物理学賞受賞(2010年)につながったアンドレ・ガイム博士とコンスタンチン・ノボセロフ博士による実験がきっかけでした。この実験では、黒鉛の塊と、ごく普通の粘着テープを用いて2D物質を作りました。この独創的でシンプルな実験が、グラフェンという驚愕の新素材を生み出しました。この超軽量の素材は、鋼鉄よりも約200倍強く、超伝導物質でもあります。そしてグラフェンが、塊である黒鉛よりも素晴らしい特質を持つと発見されたことから、科学者たちはそれが普遍的な性質であるかどうかを見極めるため、その他の2D物質を調査しようと決めたのです。

  ラトガース大学博士課程の学生であり、OISTフェムト秒分光法ユニットで2D物質 である二硫化モリブデン(MoS2)の研究をしているクリストファー・ペトコフさんは、この物質のオプトエレクトロニックスへの応用や、いかに光に反応するかに焦点を当てています。オプトエレクトロニックスは、自動ドアの光検知器、ドライヤー、太陽電池、LED照明といったように、今日では至るところで活用されてます。ただし、自動流水シンクの前で必死に手を振り続けた経験のある人はご存知のように、いまだ改善の余地があります。特に、2DのMoS2は、光探知機として非常に面白い物質で、現在使用されている50ナノメートルのシリコンベース技術の70倍の薄さでありながら、同量の光を吸収します。

実験で使用されたMoS2の2D層。図解のように、層はわずか3つ分の原子の厚さしかないが、驚愕の光学特性が示された。

  ケシャヴ・ダニ准教授の指導の下、ペトコフさんは、MoS2の2D物質の層を、MoS2と似た吸収力を持つ有機半導体に加えて、光探知機のような装置の改善を試みています。これら二つの物質を使用する背景となる理論は、MoS2層と有機半導体間の相互作用が、効率的な電荷移動につながるのではないかというものです。ACS Nano誌に掲載されたペトコフさんの研究では、これらの二つの層における電荷移動が、百フェムト秒分の一(10兆分の一秒=10-13秒分の1)以下、という超高速に起きるということを世界で初めて示したのです。

  しかしながら、これらの材質の薄さは、太陽光発電の材料として、もしくは光―エネルギー変換装置の効率性においては、制約要因となります。太陽電池や光検出器などの光を吸収する装置は、光子を通過させてしまうのではなく、吸収するため、ある一定量の光学的厚さを要するからです。この問題を克服するため、フェムト秒分光法ユニットでは、装置内に光を集中、局在させるため、有機半導体とMoS2のハイブリッド素材に、銀のナノ粒子配列、すなわち、プラズモニック・メタ表面を加えました。メタ表面を加えたことで、超薄型のアクティブ層の固有特性である、光の総吸収量を増加させる性質を生かしつつ、材料の光学的厚さを増やすことができます。

銀プラズモニック・メタ表面上の2D MoS2 層に、赤で示してある有機半導体(この場合はP3HT:PCBM)を載せた図解

銀プラズモニック・メタ表面上の2D MoS2 層に、赤で示してある有機半導体(この場合はP3HT:PCBM)を載せた図解

  本研究はまだ始まったばかりですが、将来に向けての意義は非常に大きなものです。2D物質とのコンビネーションは、オプトエレクトロニックス機器の市場性に革命を起こすような潜在能力を持っています。従来のオプトエレクトロニックス装置は、製造コストがかかり、希少元素や、インジウムや砒素などの毒性のある元素で作られることがしばしばでした。有機半導体は低コストですし、地球上に豊富にあり、無毒の元素で作ることができます。本研究は、オプトエレクトロニックス学のコストと効率性を高める潜在力を持ち、将来、より良い製品の開発につながるものです。

フェムト秒分光法ユニットのモラリ・クリシュナ・バラ博士(左)とクリストファー・ペトコフさん
フェムト秒分光法ユニットのモラリ・クリシュナ・バラ博士(左)とクリストファー・ペトコフさん

(サラ・ウォング)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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