2020-04-16

光電子顕微鏡をペロブスカイトに初めて適用

沖縄科学技術大学院大学(OIST)と英国ケンブリッジ大学による共同研究チームは、この度、ペロブスカイト有機太陽電池の潜在能力を低下させている欠陥の原因を突きとめました。ペロブスカイトは、次世代の太陽電池やフレキシブルLEDへの利用が見込まれる材料です。 

研究の背景と経緯  

近年、シリコン系太陽電池に代わる有望な材料として、多様な材料による特定の結晶構造をもつ「ペロブスカイト」が浮上してきています。ペロブスカイトは安価で且つ、製造時の環境負荷が少ないにもかかわらず、シリコン系太陽電池と同等の効率を達成できるためです。 

しかし、ペロブスカイトはまだ、性能の損失や不安定性を示しており、量産し一般へ普及させるためにはまだ課題が残っています。これまでに行われてきている研究のほとんどは、こうした損失をなくす方法に焦点を当ててきましたが、損失を引き起こす実際の物理的原因は不明なままでした。  

 

研究内容

この度、Natureに掲載された論文において、ケンブリッジ大学化学工学・バイオテクノロジー学科及びキャベンディッシュ研究所のサム・ストランクス(Sam Stranks)博士のチームと、OISTのケシャヴ・ダニ(Keshav Dani)准教授が率いるフェムト秒分光法ユニットは、この問題の原因を特定しました。この発見は、ペロブスカイトの効率向上に向けた試みを加速させ、量産化に向けた一歩となる可能性があります。

ペロブスカイト太陽電池に光が当たったとき、または、ペロブスカイトLEDに電気を流したとき、電子が励起されて高エネルギー状態へとジャンプします。負に帯電した電子が移動した後には、相対的に正に帯電している「正孔(ホール)」と呼ばれる空間が残ります。励起された電子と正孔は両方ともペロブスカイト材料中を移動できるため、電荷キャリアとして機能します。 

しかしペロブスカイトにおいては、「深部トラップ(deep trap)」と呼ばれるある種の欠陥が生じ、キャリア内の電荷移動が妨げられることがあります。トラップされた電子及び正孔は再結合して、そのエネルギーは有用な電気や光に変換されることなく、熱となって逃げてしまうため、太陽光パネルやLEDの効率及び安定性に大きな影響を及ぼします。しかし、これまでのところ、こうしたトラップの原因についてはほとんど知られておらず、その一因は、従来の太陽電池材料に見られるトラップとは挙動が異なるらしいと推測されていました。 

2015年にストランクス博士のグループは、ペロブスカイトの発光を調べた論文をScience誌で発表しました。この論文では、ペロブスカイトが光の吸収や放出に優れていることが明らかにされました。「この材料が非常に不均一であることがわかりました。ある大きな領域が明るく光っている一方で、他の領域は本当に暗いのです」とストランクス博士は述べています。「こうした暗い領域は、太陽電池やLEDにおける電力損失に相当します。しかし、この電力損失をもたらす原因はこれまでずっと謎でした。ペロブスカイトは、他の面では非常に欠陥に強い材料なのでなおさら不思議でした。」

標準的なイメージング技術のもつ限界のため、同グループはこの暗い領域が、1つの大きなトラップ部位によるものなのか、数多くの小さなトラップによるものなのかを知ることができず、トラップが特定の領域だけに形成されている理由を明らかにすることが困難でした。

その後、2017年には、OISTのケシャヴ・ダニ准教授のグループがNature Nanotechnology誌に論文を発表し、光を吸収した後に電子が半導体内でどのようにふるまうかを示した動画を作成しました。「光を当てた後に、材料やデバイスの中で電荷がどのように移動するかを見ることができたならば、そこから多くのことを学べます。例えば、電子がどこにトラップされるのかを見ることができるのです」とダニ准教授は説明します。「しかし、電荷を可視化することは困難です。電荷は非常にすばやく移動し、そのタイムスケールは10億分の1秒のさらに100万分の1という短さです。移動距離も極めて短く、そのスケールは10億分の1メートルなのです。」

ダニ准教授らの研究を知ったストランクス博士は、ダニ准教授に連絡をとり、ペロブスカイトの暗い領域を可視化するという問題に共同で取り組むことを申し出ました。

OISTのチームは、光電子顕微鏡(photoemission electron microscopy、PEEM)と呼ばれる技術を初めてペロブスカイトに適用し、紫外線を材料に照射して、放出された電子から画像を構成しました。

フェムト秒分光法ユニットがレーザーを利用して研究をしている研究室の様子

提供: 
OIST/東郷憲志

材料を観察したところ、暗い領域には長さ10~100ナノメートルのトラップが存在し、それらはさらに小さな原子サイズのトラップ部位のクラスターであることが判明しました。これらのトラップクラスターは、ペロブスカイト材料全体に不均一に広がっており、ストランクス博士の以前の研究で見られた不均一な発光を説明づけていました。

興味深いことに、トラップの場所をペロブスカイト材料の結晶粒を示す画像に重ね合わせたところ、トラップクラスターは特定の場所でのみ形成されることを発見しました。

トラップクラスター(水色)が特定の粒子の境界で検出された。

トラップ部位が材料全体に広がらずに特定の粒子の境界で見られるのかの理由を明らかにするため、同研究グループは、走査電子回折と呼ばれる技術を利用してきたケンブリッジ大学材料化学・冶金学科のポール・ミジリー(Paul Midgley)教授と共同で、ペロブスカイト材料の結晶構造を詳細にイメージングしました。ミジリー教授のチームは、ダイヤモンドライトソースシンクロトロン施設のePSICラボにある電子顕微鏡設備を利用しました。ここでは、ペロブスカイトのように電子線に敏感な材料のイメージングに特化した装置を備えています。

ストランクス博士のグループに所属する博士課程の学生であり、この研究の共同筆頭著者であるティアナン・ドハティ(Tiarnan Doherty)さんは、「この種の材料は電子線に対して非常に敏感なため、この長さスケールで局所的な結晶構造を調べるのに用いる通常の技術では、観察の際に材料がかなり大きく変化してしまうかもしれないのです」と説明します。「代わりに、私たちは極めて低い電子線量を利用することができたので、ダメージを防ぐことができました。」

「OISTの研究から、トラップクラスターの位置はわかっていました。そこで私たちはePSICで、それと同じ領域をスキャンして局所的な構造を観察したのです。その結果、トラップサイト周辺の結晶構造には予期せぬばらつきがあることがすぐに突きとめられたのです。」

同グループは、トラップクラスターが形成されるのが、わずかに歪んだ構造を有する領域と本来の構造を有する領域との接合部だけであることを発見しました。

ストランクス博士はこう言っています。「ペロブスカイトでは、このように材料の粒が規則的なモザイク状になっており、その粒の大半は整った本来の構造を有します。私たちが考えていた通りの構造です。しかし、あちこちに、わずかに歪みのある粒があるのです。そうした粒の化学的性質は不均一です。実に興味深く、また当初私たちを混乱させたのは、歪みのある粒そのものがトラップなのではなく、そうした粒と本来の構造を有する粒とが出会う場所にトラップがあるということでした。トラップを形成しているのは接合部なのです。」

このようにトラップの性質を理解した上で、OISTのチームはカスタムメイドのPEEM装置を利用して、ペロブスカイト材料内で発生する電荷キャリアトラッピングプロセスの動態を可視化しました。「これが可能だったのは、私たちのPEEM設備に独自の特徴の一つである、フェムト秒レベルの超高速プロセスをイメージングできたからです。」と、アンドリュー・ウィンチェスター(Andrew Winchester)さんが説明します。彼はダニ准教授のユニットに属する博士課程の学生で、本研究のもう一人の共同筆頭著者です。「トラッピングのプロセスは、トラップクラスターへと拡散する電荷キャリアに支配されているということが判明しました。」 

 

今回の研究成果のインパクト・今後の展開  

これらの発見は、ペロブスカイトを太陽エネルギー市場に持ち込むための、大きなブレークスルーとなります。 

「なぜそこにトラップが密集しているのかは、まだ正確にはわかっていません。しかし今は、トラップがそこに形成されること、そしてそこだけにしかないということがわかったのです。」とストランクス博士は語ります。「実に興味深いことです。なぜなら今、私たちは、ペロブスカイトの性能を向上させるために何を標的とすべきかがわかったということなのですから。今後、こうした不均一な相を標的にするか、または何らかの方法でこれらの接合部をなくしていく必要があります。」 

ダニ准教授は次のように語ります。「電荷キャリアが最初にトラップに拡散しなければならないという事実は、このデバイスを改善するための別の戦略を示唆している可能性もあります。おそらく、電荷キャリアがこうした欠陥部位に到達する可能性が低くなるように、トラップクラスターの配置を変更・制御することができるでしょう。その際、トラップクラスターの平均個数を必ずしも変化させるとは限りません。」  

今回は、ある特定のペロブスカイト構造に焦点を絞りました。今後は、こうしたトラップクラスターの原因が、すべてのペロブスカイト材料に共通するのかどうかを調べる予定です。 

ストランクス博士の言葉です。「デバイス性能の進歩の大半は試行錯誤でしたから、これまでは非常に効率の悪いプロセスでした。これまでのところ、具体的な原因を理解し、それをシステマティックに標的とすることによって研究が進められてきたわけではなかったのです。今回の成果は、私たちがもっと効率よくデバイスを設計するために基礎科学を利用するのに役立つ、初めてのブレークスルーの一つです。」

共同研究に関わったOIST側のメンバー。左から: ケシャブ・ダニ准教授、共同筆頭著者のアンドリュー・ウィンチェスターさん、ビベック・パリック博士、ソフィア・コーサールさん、クリストファー・ペトコフ博士、マイケル・マン博士、ジュリアン・マデオ博士