【ポッドキャスト】知られざる沖縄のサメ生息地と私たちの海の未来との関係

沖縄のサメが海の健康に果たす重要な役割とは? 海洋生物学者のファビエン・ズィアディ博士がその秘密を語ります。

沖縄とその周辺の海域は、海洋生物学者が「サメとエイのホットスポット」と呼ぶくらい、サメとエイの多様性の高い場所です。今回のOISTポッドキャストインタビューで話を聞いたのは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の海洋生物学者でありサメ研究者のファビエン・ズィアディ博士。沖縄の海が、サメにとって成長のさまざまな段階で必要とする独自の生息地を作り出していることについて解説します。

人間とサメは驚くほど似ている  

沖縄には、イタチザメ、ジンベイザメ、オオメジロザメ、レモンザメ、シュモクザメなどの見ごたえのあるサメが生息しています。さらには、一般の目には触れることのない深海のサメも多種生息しています。「この地域は、おそらく生息環境や海流の関係で、サメにとって非常にユニークな生息地となっています」と、ズィアディ博士は話します。「多様性が非常に豊かで、その全容がまだ十分に解明されていないために、おそらく過小評価されているのでしょう。」

その「恐ろしい」イメージとは裏腹に、沖縄の海域でサメが人間に襲いかかるケースは驚くほどまれです。ズィアディ博士は、その理由として、自然の防壁となるラグーンやサンゴ礁、そして地元のサメ個体群の健全な状態を挙げています。博士の研究によると、沖縄のサメは繁殖や生存に必要な資源が十分に確保されており、餌に困ることは少ないと言います。これは、紅海のような乱獲が進んでいる地域で見られる、より攻撃的なサメの行動とは対照的です。このことは、健全な海洋生態系を維持することが、サメだけでなく、人間の安全にもつながることを示唆しています。

サメは多くの脅威に直面しており、その中でも世界的な漁業による圧力が最も大きな課題となっています。ズィアディ博士は、多くの国でサメ肉が「フレーク」や「ロック」、「ホワイトフィッシュ」など、誤解を招くような名称で販売されていることが問題だと指摘し、消費者が正しい知識を得て、商品を選択できない現状を懸念しています。また、サメのヒレはスープなどで需要が続いているほか、サメやエイの皮は高級品として利用されています。

サメが特に脆弱なのは、そのライフサイクルにあります。「サメのライフサイクルは人間とよく似ています」と、ズィアディ博士は説明します。サメは寿命が長い一方で、成熟が遅く、妊娠期間が長く、産む子どもの数が少ないために、乱獲から回復するのが難しいのです。

Dr. Fabienne Ziadi-Künzli discussed Okinawa’s rich shark biodiversity on the OIST podcast
OISTポッドキャストで、沖縄のサメの生物多様性や生態学的重要性、保全の課題についてサイエンスコミュニケーターのマール・ナイドゥに語るファビエン・ズィアディ博士(左)。
Andrew Scott (OIST)
OISTポッドキャストで、沖縄のサメの生物多様性や生態学的重要性、保全の課題についてサイエンスコミュニケーターのマール・ナイドゥに語るファビエン・ズィアディ博士(左)。

 

重要なサメ・エイ生息地(ISRA)  

こうした課題に対応するため、ズィアディ博士をはじめとする研究者たちは、「Important Shark and Ray Areas (ISRAs) (重要なサメ・エイ生息地)」という世界的な保護プロジェクトに携わり、沖縄県内の7か所が重要なサメ生息地として選定されました。これらの指定された地域には、西表島と那覇の淡水生態系におけるオオメジロザメの保育地、八重山諸島にあるレモンザメ幼魚の保育地やナンヨウマンタの集合地、与那国島のアカシュモクザメの集合地、恩納村近くの深海サメの生息地、さらには遠く離れた海底の海山の集合地が含まれています。

ISRAプロジェクトにより、科学者たちはサメの繁殖、摂食、生存にとって重要な地域を特定し、地図化することができるようになりました。これにより、海洋保護区を計画する政策立案者や保護機関に対して、貴重な情報を提供することができます。ISRAプロジェクトと沖縄のISRAに関する詳細は、こちらをご覧ください。

サメの保護に向けた科学者と地域社会の協力

サメの保護には地域社会の協力が欠かせません。ズィアディ博士は、地域の方々にサメの生態に関する情報を提供し、サメへの誤解を解くための啓蒙活動を行っています。効果的なアプローチの一つとして、漁業者と協力し、電気パルスを発する装置を取り付けることで、サメが釣り針にかかるのを防ぐ方法があります。この技術は、漁業者が求める魚種をより多く漁獲するのを手助けしながら、サメの誤捕獲を減らすのに役に立ちます。

海洋保護区は、サメの保護において、最も効果的な戦略の一つです。ズィアディ博士は、沖縄に海洋保護区を設けることを提唱し、それがもたらす生態学的・経済的利益を指摘します。博士は、サメが捕食行動を通じて海洋生息地の健全性維持に役に立っていることを強調します。例えば、イタチザメは、ウミガメの個体数を制御し、その結果、魚類の繁殖と生存に欠かせない海草藻場の過剰な食害が防がれています。同様に、サメはさまざまな魚を捕食することで、サンゴ礁の健康にも影響を与えています。博士はこう語っています。「サメは海草藻場だけでなく、サンゴ礁にも連鎖的な影響を与えています。サンゴだけを守ることはできません。サンゴを守るためには、サメを守ることも必要なのです。生態系は一つの統合されたシステムだからです。」

ズィアディ博士は、次世代が海洋生態系に関して知識を持っていることに大きな希望を抱いています。科学普及活動のイベントでは、子どもたちが大人よりもサメについてよく理解していることに気づくことが多いそうです。子どもたちが成長する過程で、より持続可能な漁業の実践へとつながるのではないかと希望を抱いていると言います。 

また、他の地域の成功モデルのように、沖縄でもサメ観光が発展する可能性があります。サメを捕獲資源として短期的な価値として見ることを超えて、生きたサメにはより長期的に大きな経済的価値があります。包括的な保護体制を確立するには時間が掛かりますが、ズィアディ博士は楽観的です。「時間は掛かりますが、これまでのところ順調に進んでいます」と博士は述べています。

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ヘッダー写真:サメのライフヒストリー研究のためにサンプルを収集・分析するファビエン・ズィアディ博士  海洋生物学者のファビエン・ズィアディ博士(沖縄科学技術大学院大学(OIST)非線形・非平衡物理学ユニット所属)がサメのライフヒストリー(生活史)研究のためにサンプルを収集・分析する様子。

写真:マール・ナイドゥ(OIST)

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