希少な寄生植物が秘める進化の謎

アジア太平洋地域に生息する希少な寄生植物、ツチトリモチ属。その特異なゲノムを解析した結果、寄生植物の進化の過程と、 光合成能力を失ってからも葉緑体が担い続ける驚くべき役割が明らかになりました。

台湾や日本本土の山奥、沖縄の亜熱帯林の苔むした木の根元には、キノコのようにも見える不思議な植物がひっそりと生えています。実はこれは、世界最小クラスの花と種子をつける、特異な寄生植物ツチトリモチ属 Balanophoraです。葉緑素を持たないため光合成はできず、根もないため地中から水を吸い上げることもできません。その代わり、特定の樹木の根に寄生するという極端な進化を遂げています。さらに、中には受精なしで種子を作る種や集団も知られており、これは植物界では非常に珍しい現象です。

ドングリのような形にちなんで名付けられたツチトリモチ属(Balanophora)。その名前はギリシャ語の balanos(ドングリ)と phoros(持つ)に由来します。この植物は、生物学者たちを長年困惑させてきました。その希少性に加え、人間活動による影響を受けごく限られた環境に生育しているため、個々の集団を横断的に研究することは困難でした。今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、神戸大学、台北市立大学の研究チームは、見つかりにくくアクセスも難しい生息地において、ツチトリモチ属の調査を実施しました。その結果、この植物の進化史を明らかにするとともに、寄生生活に適応する過程で、細胞小器官が予想外の方法で機能していることを示し、この特異な植物に関する今後の研究の道筋を拓きました。研究成果は、科学誌 『New Phytologist』 に掲載されています。本研究の筆頭著者である、OISTサイエンス・アンド・テクノロジー・アソシエイトのペトラ・スヴィエットリコヴァ研究員は次のように述べています。「ツチトリモチ属は植物としての特徴の多くを失いましたが、寄生するために必要な機能は保持しています。葉や根を持つ普通の植物から、これほどまでに奇妙な姿へと進化し得ることを示す、非常に興味深い例です。」  

縮小するプラスチド、ゲノム、そして島の生育地

寄生植物に共通する特徴として、宿主植物への依存度が高まるにつれて、プラスチド(光合成植物における葉緑体を含む植物細胞小器官の総称)は遺伝子を失い、さらには完全に消失してしまう傾向があります。しかし、必要な栄養のすべてを宿主樹木に完全に依存しているにもかかわらず、ツチトリモチ属は、大幅に縮小しているとはいえ、プラスチドを保持しています。非寄生植物では、プラスチドの構造をコードする遺伝子が最大で200個存在しますが、ツチトリモチ属ではわずか20個の遺伝子しか残っていません。同時に、研究チームは700を超えるタンパク質が細胞質からプラスチドへ移入されていることを発見しました。これは、ツチトリモチ属のプラスチドが縮退しているにもかかわらずさまざまな化合物の生合成に重要な役割を果たしていることを示唆しています。「ツチトリモチ属のプラスチドが、光合成とは無関係な多くの化合物の生合成に関与していることは驚きでした。これは、非光合成植物におけるプラスチドの縮小の順序やタイミングが、光合成を行う祖先から分化したマラリア原虫Plasmodiumなど、他の真核生物と同様であることを示唆しています」と、OIST進化・細胞・共生の生物学ユニットを率いるフィリップ・フスニック准教授は述べています。

研究チームは、ツチトリモチ属の複数の集団をサンプリングし、この植物属の系統樹と、東アジアの島々に広がる亜熱帯地域での多様化の過程を明らかにしました。ツチトリモチ科(Balanophoraceae、ツチトリモチ属が属する科)は、約1億年前の白亜紀中期に多様化した、最も古い完全寄生植物の科の一つです。そのため、光合成能力を失った最初の陸上植物の科の一つであるともいえます。 

この植物が提示するもう一つの興味深い点は、集団ごとに大きく異なるその繁殖様式です。受精を経て種子を形成する種もありますが、一部の種は受精なしでも種子を生成する能力(いわゆる「条件的無融合種子形成」)を持ち、さらにその中には「絶対的無融合種子形成」で、有性生殖を一切行わない種もあります。「絶対的無融合種子形成は、植物界では極めて稀な現象です。なぜなら、通常はこの状態は遺伝的多様性の欠如や有害な突然変異の蓄積、特定の環境条件への依存、絶滅リスクの増大など、多くの不利な側面を伴うからです」とスヴィエットリコヴァ博士は説明します。「興味深いことに、今回私たちが発見した絶対的無融合種子形成のツチトリモチ属の種は、すべて島々に分布していました。さらに、ツチトリモチ属の他の種についても、選択的あるいは絶対的無融合種子形成である可能性があると推測しています」。この繁殖戦略の利点の一つは、単一の雌株が新たな島へ急速に広がり、植物が繁栄する極めて特化したニッチ——他の植物が生き残れない暗く湿った林床——を素早く開拓できる点にあります。

自己複製能力を持つ一方で、ツチトリモチ属は宿主の選択に非常に厳格です。個々の集団は、ごく限られた樹種にしか寄生しません。この特性が、この希少でユニークな花々を脆弱な存在にしています。スヴィエットリコヴァ博士は、「寄生植物の専門家である台北市立大学のHuei-Jiun Su博士と神戸大学の末次健司教授には、研究対象であるツチトリモチ属の採集にご協力いただきました。また、沖縄の行政機関には、これらの珍しい植物の研究を許可いただいたことに深く感謝いたします」と話しています。「ツチトリモチ属の既知の生息地のほとんどは保護されていますが、それでも伐採に伴う生育地の縮小や無許可の採取によって集団は絶滅の危機に瀕しています。手遅れになる前に、この貴重な植物について、可能な限り多くのことを明らかにしたいと考えています。進化は、今もなお私たちを驚かせ続けている——その事実を改めて実感させるものです。」

赤いキノコのような2株のリュウキュウツチトリモチが、湿った林床で枯葉と緑葉に囲まれている。
台湾に近い沖縄県石垣島で撮影されたBalanophora fungosa ssp. fungosa
© ペトラ・スヴィエットリコヴァ

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