OISTの「物理スクールおきなわ」がリニューアル
沖縄科学技術大学院大学(OIST)が主催する量子物理学のサマースクール、第9回「物理スクールおきなわ(Okinawa School in Physics, OSP)」が、2025年9月21日から10月3日にかけて開催されました。今回は、量子科学技術の急速な進展を背景に、長年にわたり継続されてきた本サマースクールの新たな始まりを示す節目となりました。
本サマースクールは、2014年にトーマス・ブッシュ教授とシーレ・ニコーマック教授によって創設され、「物理サマースクールおきなわ:コヒーレント量子ダイナミックス(Okinawa School in Physics: Coherent Quantum Dynamics, CQD)」としてスタートしました。以来、OISTが量子研究と教育における国際的な協働と卓越性の拠点としての地位を築く上で、重要な役割を果たしてきました。過去10年間で、世界中から毎年約40人の若手研究者を迎え、量子ダイナミクスの基礎トレーニングや、ポスター発表による研究発表の機会を提供してきました。
OISTが我が国の量子技術イノベーション拠点(QIH)の一つに選定されたことを受けて刷新された今回のサマースクールは、この分野におけるOISTのリーダーシップの高まりを反映しています。新たなシリーズでは、物理学、材料科学、数学、コンピュータサイエンス、工学にまたがる量子科学技術の現状に対応することを目的としています。
「新たなシリーズでは、量子技術の基礎原理と実世界への応用を網羅し、毎年テーマを交互に取り上げます」と語るのは、OISTネットワーク型量子デバイスユニットを率い、今年のサマースクール主催者の一人であるダビド・エルコウス准教授です。2025年のテーマは「量子鍵配送から量子インターネットへ」。量子通信と量子暗号に焦点を当てた内容で、日本国内でもOISTが特に強みを持つ分野です。リニューアル後初の開催となった今回は、専門家と若手研究者が一堂に会し、意見交換や最新動向の議論、今後の共同研究の可能性を探りました。
参加者からは、活発な議論と美しい環境の中で行われたサマースクールに対して、高い評価が寄せられました。エディンバラ大学の講師であるMina Doosti博士は、OISTのアーター・エカート教授による導入セッションについて、「これほど美しい教え方は他にないでしょう。洞察に満ち、物語や歴史、アイデアに溢れ、芸術性さえ感じられました」と語っています。
2025年のサマースクール((SIP Industry Days)の一部は、日本の量子エコシステムの成長に伴い、産学連携の強化を目指す「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」(※)の一環として開催されました。学術的な卓越性と産業界のイノベーションを融合させることで、刷新された物理スクールおきなわは、アジアと世界をつなぐ科学交流の架け橋としての役割を引き続き果たしています。
※内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進」(管理法人:QST)
OIST量子技術センター(OCQT)について
2022年に設立されたOIST量子技術センター(OCQT)は、量子技術の研究と人材育成における国際的な拠点です。日本政府の「量子未来社会ビジョン」に基づき、国際共同研究、量子技術の学際的探求、そしてグローバルに活躍できる人材の育成を担う中核的なプラットフォームとして機能しています。ワークショップやサマースクールを通じた国際交流を支援し、産業界との連携や技術移転を推進することで、次世代の国際的な量子研究者の育成に取り組んでいます。