沖縄から世界へ — OISTが描くスマート農業の未来
沖縄の畑から、スペインとキプロスの温室へ。国境を越えた新たな挑戦が、イノベーションと国際協力を通じて、農業の未来を動かし始めています。
2025年3月、OIST Innovationは、沖縄(日本)、スペイン、キプロスを結ぶ3か国共同プロジェクトを立ち上げました。CONCERT-Japanプログラムの支援を受ける本プロジェクト「持続可能なスマート農業ソリューションの実証支援」は、スマート農業の分野で活動する大学とイノベーションハブの連携強化を目的としています。本プロジェクトは、農業の新しい形「アグリテック(AgriTech)」に取り組むスタートアップの支援と、実装に向けた国際的なテストベッドの構築に重点を置いています。
立ち上げからわずか数か月で、このプロジェクトはすでに有望な成果を上げ始めています。
スマート農業革命の幕開け
国連食糧農業機関(FAO)の推計によれば、世界人口の増加に伴い、2050年までに農業生産の需要は少なくとも50%増加するとされています。こうした課題に対応するため、革新的な挑戦者たちはテクノロジーで農業の効率化に挑んでいます。土壌の状態を把握する精密センシング、スマート灌漑システム、ネットワーク化された農業機械など、デジタル技術は農業の姿を根本から変える可能性を秘めています。本プロジェクトは、こうしたアグリテック分野の発展を支援し、持続可能な食の未来に貢献することを目指しています。
アグリスフィア・ソリューションズ(AgriSphere Solutions) — 農業イノベーションを加速する新拠点
「アグリスフィア・ソリューションズ」は、スタートアップ、研究者、産業界パートナー、エコシステム構築に携わる関係者を国境を越えてつなぐプラットフォームです。協業や資金調達、実証実験の機会を提供することで、農業分野の革新を推進します。このウェブサイトでは、ウェビナーや研修コース、メンタリングなどの学習リソース、助成金や資金調達の情報に加え、アグリスフィア・ネットワークに参加するメンバーの紹介などを順次掲載していく予定です。
プラットフォームの立ち上げには、琉球大学からのインターン生である山城ひかりさんと山下玲奈さんが重要な役割を果たしました。二人は日本国内のスマート農業の現状を調査し、グローバル展開を目指すスタートアップが直面する課題を明らかにしました。
「このインターンを通じて、新しい可能性に気づきました。以前は海外に行かないと、こうした機会は得られないと思っていましたが、沖縄にもあるのだと実感しました」と山城さんは語ります。
今後の展開 — トレーニング、実証、人材交流
プロジェクトチームは現在、スタートアップが国際協業に対応するための短編トレーニング動画シリーズの制作を企画しています。これらの動画は、完成次第アグリスフィア・ソリューションズのウェブサイトで公開していく予定です。
また、2026年初めには沖縄でワークショップを開催し、地域のアグリテック関係者が一堂に会する機会を設けます。
2026年に開始するアグリスフィア研修プログラムの修了生は、日本、スペイン、キプロスの三カ国のうちいずれか、またはそのうちの複数の国において、自身の技術を実証するために、最大2万ユーロの助成金を受け取る資格が得られます。実証実験には、地中海性気候に適したスマート灌漑システムのテストや、日本国内でのAI害虫検知装置の導入などが検討されています。これらの取り組みは、充実したメンター、研究者、現地パートナーのネットワークに支えられ、実験室から市場への展開を加速させることを目指します。
アグリスフィア・ネットワークに参加するには
本プロジェクトでは、スマート農業分野で活動するスタートアップや、実証実験支援・資金調達・国際展開に関心をお持ちの方を募集しています。スタートアップ、ソリューションプロバイダー、研究者、農業生産者、政策立案者、NGO、業界のリーダーの皆さまは、www.agrispheresolutions.org から本プラットフォームにご参加いただけます。本プラットフォームでは、農業分野全体の効率性、持続可能性、競争力の向上を目指し、革新的なツールの導入に向けて、協働や知識を共有できます。