2020-06-17

暗闇で光る材料に光を当てる

目覚まし時計の光る文字盤、非常口の標識はおそらく誰にでもなじみがあるものでしょう。このように光を蓄えて暗闇で光る蓄光機能は何十年も前から存在し、、暗い場所で重要な情報を見えるようにしたりするなど、さまざまな用途で用いられています。蓄光材料の多くはレアメタルや、摂氏1,000度以上の高熱処理など複雑な製造プロセスを必要とする無機化合物でできています。

しかし、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の嘉部量太准教授は、それほど遠くない未来にこれが変わるかもしれないと考えています。嘉部准教授は蓄光デバイスに有機材料が代わりに使われるようになる可能性があり、そうなれば今より簡単に、かつ低コストで製造できるようになると話します。

2019年8月に着任した嘉部准教授は、OISTで有機光エレクトロニクスユニットを率いています。研究ユニットでは、蓄光デバイスに使用可能な有機分子の光物性および電気物性の解析を行い、計算科学と実験に基づいて、新しい有機分子の設計と合成に取り組んでいます。

「光化学と光物理学を融合して、全く新しい蓄光材料をつくろうとしています。将来的には、蓄光特性を持つさまざまなインクや塗料を開発し、多くのものに応用できるようになるでしょう。」と嘉部准教授は話しています。

OISTで立ち上げたばかりの新しい研究室に立つ嘉部量太准教授

蓄光材料は、紫外線または可視光線を照射すると活性化されます。材料内の物質は励起エネルギーを吸収し、それを別の色の光として即座に、または徐々に放出します。この徐々に放出される仕組みを研究者たちは数十年に渡って利用してきました。

2017年に嘉部准教授が率いた研究では、世界で初めて有機材料を使った蓄光システムの開発に成功し、研究成果はネイチャー誌に掲載されました。2種類の単純な有機分子を混合することで、材料が室温下で1時間以上緑色に発光することを実証しました。無機材料を使った蓄光デバイスとは異なり、この有機蓄光システムはレアメタルを必要とせず、作製もはるかに容易でした。

嘉部准教授が設計した2種類の分子は通称「電子ドナー」「電子アクセプター」と呼ばれています。光が照射されると、電子アクセプターはエネルギーを得て電子ドナーから電子を1つ受け取ります。その結果、電子ドナーは正に帯電します。その後2つの電荷が再結合すると、1時間以上に渡り徐々にエネルギーを光として放出します。以前は、有機材料からの室温下での発光持続時間は最長でもわずか数分でした。

Advanced Functional Materialsに掲載された嘉部准教授の最近の研究では、分子の元素を微調整することにより、より安定性の高いオレンジ色の蓄光材料の作製に成功しました。

「材料の構造にもよりますが、2種類の材料を混ぜると新たな機能を持つようになります。このような材料はあらゆる種類の非常灯、塗料、インクに利用することが可能です。通常は高温処理が必要ですが、私たちが使う材料はすべて有機材料であるため、安価に、かつ効率的に製造することができます。」と嘉部准教授は説明します。

嘉部准教授は、異なる分子を混ぜ合わせることにより、有機材料から緑やオレンジなどさまざまな色をつくり出した。

嘉部准教授はOISTで、引き続き蓄光機能を持つ可能性があるさまざまな材料の研究に取り組みます。OISTが提供する学際的なアプローチとリソースを活用できることを楽しみにしています。

「私はOISTが持つ研究環境を求めてここに来ました。研究設備が整ったOISTは、日本国内で最も研究に適した場所だと思っています。」

 

(ディッキー・ルシー)

広報や取材に関して:media@oist.jp