有機材料を用いた蓄光デバイスの高性能化に成功

レアメタルを必要としない持続可能な産業の拡大と多様化に期待できる研究です。

(共同プレスリリース:九州大学、OIST、科学技術振興機構、日本学術振興会)

概要

蓄光材料は非常誘導灯や時計、夜光塗料等に幅広く利用されていますが(図1)、現状の蓄光材料は結晶性無機材料で構成されており、高性能な蓄光材料はレアメタルや1000℃以上の高温処理を必要とします。

 

(図1)一般的な蓄光材料

九州大学大学院工学府博士課程の陣内和哉大学院生(研究当時)、最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)の安達千波矢センター長と沖縄科学技術大学院大学(OIST)の嘉部量太准教授、Zesen Lin研究員らの研究グループは、レアメタルを必要としない有機材料を利用した蓄光発光 (Long Persistent Luminescence) 材料の高性能化に成功しました。

2017年に本研究グループは、世界で初めて、電子ドナー性(電子供与性)と電子アクセプター性(電子受容性)を有する二つの有機材料を混合し、加熱融解したフィルムにおいて蓄光発光が得られることを「Nature」誌に報告しました注1。しかし、蓄光発光の発光持続性能は市販される無機蓄光材料の100分の1程度に留まり、光を吸収できる波長も紫外光付近に限定されていました。また、酸素によって強い消光を生じるため、大気下での利用が困難でした。

今回、本研究グループは、吸収波長の広い材料の選択、酸素との反応を低減するホール(正孔)拡散機構の利用、電荷蓄積材料添加によるエネルギー蓄積状態の安定化によってこれらの課題を大幅に解決し、窒素下では従来に比べ約10倍の性能を示し、大気下でも機能する有機蓄光材料を実現しました(図2)。本研究の有機蓄光材料を活用すればレアメタルを必要としない持続可能な産業の拡大と多様化が期待されます。

 

(図2)有機蓄光材料の発光の様子

本研究成果は、2021年11月29日(月)に科学雑誌「Nature Materials」に公開されました。

研究の背景

蓄光材料の発光過程は、光吸収によって電子とホール(正孔)の電荷を生じる電荷分離過程、生成した電荷を蓄積する電荷蓄積過程、電子とホールが再結合し発光する電荷再結合発光過程からなります。有機材料では、無機材料に比べて電荷分離が難しく、生成した電荷がすぐに再結合するため蓄光発光は困難でした。これまでの研究において、有機電子ドナー材料と電子アクセプター材料の界面を利用することで、電荷分離と電荷保持を可能にし、蓄光発光を実現しましたが、電子とホールは不安定な状態で膜中に保持されているため、容易に酸素と反応して消光するという課題がありました。また、蓄積できる電荷も限られているため発光強度が弱いという問題もありました。

研究の内容

今回の成果では、電荷分離過程において、比較的安定な電子とホールが形成されるように分子設計を見直しました。また、有機薄膜内を反応性が高い電子が拡散するのではなく、比較的安定なホールが拡散するように設計しました。これにより酸素等との反応を大幅に低減することが可能となりました。さらに、ホールトラップ材料を添加することにより、ホールと電子の分離状態の安定化に成功しました(図3)。本素子は、紫外光だけでなく可視光を吸収し、蓄光発光を示します。さらに、発光波長も分子の選択によって可視光から近赤外光まで取り出すことが可能なため、バイオイメージング用途への応用も期待されます。        

 

(図3)(a)用いた分子の構造。(b)電子拡散機構とホール拡散機構。ホール拡散機構により、不安定な電子(アクセプター分子のラジカルアニオン状態)と酸素の反応を低減。(c)ホールトラップ材料による電荷分離状態の安定化。

今後の展開

本研究成果により、有機材料における電荷分離状態の安定化が実現しました。今後は、電荷分離の効率を上げることで無機材料に匹敵する蓄光発光の実現が期待されます。

また、安定な電荷分離状態は、蓄光材料としての利用だけでなく、熱ルミネッセンスや光刺激発光など、これまで有機材料では実現が困難であった光機能材料としても利用が期待されます。

研究者からひとこと

安達千波矢センター長「レアメタルを含まない有機材料は無機材料に比べて手に入りやすく、また、可溶性があるためプロセスが容易です。有機電荷移動系材料の精密制御によって多彩な励起子特性の発現と発光特性の向上が可能であることが本研究で示されました。今後、更なる学理の深化を期待しています。」

嘉部准教授「イオン性分子の利用や、ホールトラップ材料の添加など新しいコンセプトによって非常に安定な電荷分離状態が実現しました。電荷分離状態は蓄光として利用できるだけなく、光や熱などの刺激に応答するため、様々な光機能材料への応用が期待されます。」

注1

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20171003-2/index.html

https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/178

 

論文情報

タイトル:Organic long-persistent luminescence stimulated by visible light in p-type systems based on organic photoredox catalyst dopants

著者名:Kazuya Jinnai, Ryota Kabe, Zesen Lin and Chihaya Adachi

掲載誌:Nature Materials

DOI:10.1038/s41563-021-01150-9

 

謝辞

本研究の成果は、科学技術振興機構(JST) ERATO安達分子エキシトン工学プロジェクト(JPMJER1305)、JST FOREST(JPMJFR201H)、日本学術振興会(JSPS) 科研費JP18H02049、JP21H02020、JSPS研究拠点形成事業、OIST POCプログラム、九州大学エネルギー研究教育機構の支援により得られたものです。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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