2020-12-07

植物とバクテリア:野生の共生関係を探る

「肉食植物」と言えば、人間を食べる恐ろしい植物のイメージが頭に浮かぶかもしれませんが、実際には、ホラー映画に出てくるような植物よりもはるかに小さな植物です。それでも生態学者のデイヴィッド・アーミテージ准教授にとっては、肉食植物は映画と同じくらい興味深い存在です。これらの植物は、虫に食されるのではなく、逆に、変化した葉で捕らえた昆虫やその他の生物から栄養分の一部を得ており、人間と同様、食物の消化を助けるために何千種ものバクテリアと共生関係を形成しています。アーミテージ准教授は、このような共生関係を、自然界の秘密の解明に役立てようとしています。

嚢状葉植物であるランチュウソウは、特別な変化を遂げた葉を用いて昆虫などを捕獲する

「私は、生き物が大好きでたまりません。若い頃は、鳥類、哺乳類、爬虫類など、さまざまな生き物にのめり込みました。今は、肉食植物と水生植物、そしてそれらの共生微生物群集に焦点を当てています。これらの生物群集を徹底的に研究することで、自然界を司る法則を明らかにすることができます。これは大規模な生態系の研究ではできないことです。というのも、あまりに多くの要素が絡み合い過ぎて、再現することが不可能だからです」と、アーミテージ准教授は語ります。

アーミテージ准教授はカリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得し、現在はテキサス州のライス大学でファカルティフェローを務めており、2020年12月から沖縄科学技術大学院大学(OIST)の教員(トランジショナル准教授)として勤務を開始しました。

デイヴィッド・アーミテージ トランジショナル准教授

「私がOISTの教員に応募した理由は、研究の自由度の高さです。助成金申請書の作成よりも研究室のメンバーとともに研究をすること-- もともと私が科学界でキャリアを積んでいくことを決めた本来の目的-- に、より多くの時間を費やすことができます。」

また、生態学者として沖縄を含むこのアジア太平洋地域で働くことで、固有種の豊富さに触れることが可能になります。この地域には信じられないほどの生物多様性があるだけでなく、海面上昇や森林伐採の脅威にさらされている地域のひとつでもあると語りながら、「私の研究が、琉球諸島の保全プロジェクトに役立てることを願っています」と抱負を述べます。

 

動的な環境が種の共存を可能にする

過去何十年にもわたる生態学の理論と実験から、2つの種が競い合っている場合、不変の環境下では、一方の種は最終的に他方の種を絶滅に追い込むようになることがわかっています。しかし、季節的な変化や、台風のような偶然の出来事により環境が変化した場合、つり合いが逆転し、ある年は一方の種にとって有利な年、他の年は他方の種にとって有利な年となるかもしれません。

アーミテージ准教授は次のように説明します。「この理論を、自然界に共生していると推定される種において検証する方法を検討しました 。私が主に研究に使うのは、世界最小の花を咲かせる植物であるウキクサです。2つの種を静的環境で育てると、一方の種がもう一方の種を絶滅に追い込むという興味深いパターンが見られます。私たちは、一方の種は温度が高い方が良く生育し、もう一方の種は温度が低い方が生育が良いことを発見しました。つまり、生物多様性において環境の変化は重要であるということです。ただしこの理論以外では、降水量、捕食、栄養分など変動する様々な現象が、どのように相互に作用して共生を促進したり、妨げたりするのかについての情報はほとんどありません。」

ウキクサは世界最小の花を咲かせる植物。アーミテージ准教授は、さまざまな種類のウキクサが野生でどのように共生しているかを研究中。

従来、研究者たちは統計モデルを使って種の生息地を予測してきました。野生に生息する種を見つけ、その分布が特定のパターンに沿っているかどうかを特定します。しかし、アーミテージ准教授のグループは、プロセスベースの数理モデルも同様に機能することを発見しました。つまり、圃場の栽培実験で種を育てて観察し、その種の推定分布を地図上に投影することができるのです。この実験により、研究者はその種がどこで生息しているのか、またどのような要因がその分布を制限する可能性があるのかをよく知ることができます。

長年、種の分布域は、極地では気温などの非生物的要因によって制限され、熱帯地域では競争や捕食などの生物的要因によって制限されていると考えられていました。しかしアーミテージ准教授らの研究では、競争が極地でも種の制限要因になりうることが明らかになりました。

「これはさほど驚くことではありません。ある種が既に成長率が低い場所-例えばその環境的な許容範囲の限界地-に生息している場合、仮に種間競争を課すと、その種の生存はさらに困難になり、生息範囲はさらに狭くなるでしょう。」

 

犯罪のパートナー :水生シダとシアノバクテリアという相棒の事例

アーミテージ准教授はまた、アカウキクサと呼ばれる水生シダの研究も行っています。アカウキクサは、世界中で見られる小さな植物で、水面に生息しています。この植物は、葉の中の空洞にいるシアノバクテリアと共生関係にあり、シアノバクテリアは、大気中の窒素をアカウキクサに供給しています。

水生シダ のアカウキクサ

シアノバクテリア小胞を抱えるアカウキクサの葉の顕微鏡写真。その下は、切り取られた葉から採取した 「遊離 」シアノバクテリア小胞

「他の窒素固定共生とは異なり、宿主の親から子孫へ直接受け継がれるのはシアノバクテリアだけです。宿主の外で生き延びる能力を失ったバクテリアが、複雑な継承メカニズムで、シダの中で存続することを可能にしているのです。」

化石の記録によると、この関係は少なくとも5千万年前から存在していたことを示しており、細菌とシダは共に進化してきたことになります。アーミテージ准教授は7種のアカウキクサが共生する微生物のゲノム配列を調査する予定です。まずは、化石の記録をさかのぼって調べることで、この共生を可能にするためにどのような突然変異が起こったのかを見出そうとしています。 

また、長期的な目標としては、パートナーの入れ替え実験を行うことです。すなわち、ある種のシダから共生微生物を取り出して、遠縁種のシダに入れ替え、そのシダがそれでも効果的に成長し、窒素を分解できるかどうかを判断するというものです。この研究は、共種分化の生態学的な影響を明らかにするのに役立つでしょう。アーミテージ准教授は、農業において植物と微生物の有益な関係の発展に役立ち、それが無機肥料や環境に悪影響を与えるその他の慣行にとって代わることを期待しています。

「私は、どちらかというと専門家というよりもゼネラリスト的な疑問を抱くことが多いです。自分が研究している様々な生物の自然史を詳しく学ぶのが大好きです。4月から沖縄を拠点とすることをとても楽しみにしています。島国で働くということは、肉食植物のマイクロコズムの研究をスケールアップする機会を与えてくれることですから」とアーミテージ准教授は語り、さらに、日本には緯度、大きさ、年齢、孤立の度合い、人間の活動の歴史が異なる何千もの小さな島々が全国に点在しており、その違いに応じて生態系が形成されているため、自然の実験室を再現したものである、と説明します。4月以降沖縄で、これらの異なる要素が、どのように種の相互作用に影響を与えているのか、また、栄養循環、炭素固定、進化の変化などのプロセスをどのように予測可能な方法で決定しているのかを調査するというのがアーミテージ准教授の抱負です。

(ディッキー・ルシー)

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