渦と摩擦抗力をつなぐ「ミッシングリンク」を発見

Physical Review Letters 誌に掲載された論文で、OISTのグスタボ・ジョイア教授とピナキ・チャクラボルティー准教授は共同研究者らとともに、摩擦抗力を流体の渦に関連付けて定量化しました。

 液体がパイプラインの中を高速で流れるとき、あるいは高速で河床に流れ落ちる瞬間に、渦巻き状の流れが形成され、乱流が生じます。この流れは「渦」と呼ばれ、摩擦抗力を著しく増加させます。摩擦抗力は石油のパイプライン輸送のコストや河川の排水能力を左右する性質を持ち、工学分野で広く応用されていることから、これを解明するためこれまで数多くの研究が行われてきました。

 OISTの連続体物理学研究ユニットを率いるグスタボ・ジョイア教授は、次のように語っています。「18世紀のフランスでは、開水路の摩擦抗力が重要なテーマであり、パリ市街の水道設備のシステム設計にかかわる実験が、政府の援助の下で実施されました。あれから250年、多くの実験が行われたにもかかわらず、まだ摩擦抗力の影響を予測することはできません。たとえば、洪水の際によくある現象として河川の水の泥分が増えた場合に、摩擦抗力がどのように変動するかを予測することは、今なお不可能なのです。」

 2012年12月21日発行の米国物理学会誌Physical Review Lettersに掲載された論文で、前述のジョイア教授とOIST流体力学ユニットを率いるピナキ・チャクラボルティー准教授、フランスおよびアメリカの研究者らと共に、摩擦抗力を流体の渦に関連付けました。渦が乱流を引き起こし、大きな摩擦抗力を生み出すにも関わらず、意外なことに、これまで渦と摩擦抗力の間の「ミッシングリンク」を見出そうとする研究が試みられたことはありませんでした。

 数学的理論と、石鹸水の薄膜を使った画期的な実験方法を取り入れた手法により、研究者たちは摩擦抗力が渦のスペクトル指数と関連性を持つことを突き止めました。この数学的パラメータは、乱流の中にある、異なる大きさの渦に対して配分されるエネルギーを定量化します。このミッシングリンクは科学的に興味深いばかりではありません。摩擦抗力よりもスペクトル指数の方が、測定や特性化がはるかに簡単であるという理由から、実用面においても価値が高いのです。たとえば洪水で河川の水の泥分が増えた場合、渦のスペクトル指数は変動しますが、いったん新しいスペクトル指数を測定できれば、その結果生じる摩擦抗力の変動を容易に推測できるようになるのです。

 「私たちは、摩擦抗力の背後にある物理特性を解明することに焦点を合わせていましたが、将来的には工学分野に応用できるようになるのではないかと期待しています」と、チャクラボルティー准教授は語っています。

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