量子バッテリーが量子コンピュータの未来を加速させる可能性
この度、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、クイーンズランド大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、量子バッテリーを用いて量子コンピュータに電力を供給するという新しいアプローチを発表しました。この画期的な技術により、次世代のコンピュータがより高速でエネルギー効率も信頼性も高くなる可能性が示されます。
量子コンピュータは量子物理学の原理を利用した技術であり、今後、コンピューティング、医療、エネルギー、金融、通信といった多様な分野の課題解決に活用され、それぞれの領域の在り方を大きく変える可能性があります。
しかし、繊細な量子状態を維持するためには、部屋全体を占めるほどのエネルギー集約型極低温冷却システムに加え、常温で動作する電子機器システムが必要です。
こうしたインフラとエネルギー要件は、量子コンピュータの規模拡大を阻む最大の障壁となっており、そのサイズや処理能力を制限してしまうことで、結果的に量子コンピュータの応用範囲を狭め、市場投入の時期を遅らせています。
今回、CSIRO、クイーンズランド大学、OISTの研究チームは、科学誌『Physical Review X(PRX)』で発表した新しい研究において、小型の量子バッテリーを用いて量子コンピュータを駆動し、そのキュービットの数を理論的には4倍に増やせる可能性を示しました。
OIST量子工学デザインユニットを率い、本研究の共著者でもあるウィリアム・マンロ教授は次のように述べています。「量子バッテリーは、まさにゲームチェンジャーになり得ます。量子コンピュータが“内部から自分自身に電力を供給できる”ようになれば、発熱が減り、配線も減らせ、その分だけ同じ空間により多くのキュービットを詰め込むことができます。言ってみれば、量子コンピュータに独自の“内蔵エンジン”を与えるようなものなのです。」
量子バッテリーが変える、量子コンピュータの未来
本研究の共著者であり、CSIROで量子バッテリー研究を率いるJames Quach博士は、内部の量子バッテリーがシステム内のエネルギーを再利用するため、コンピュータの消費電力が大幅に削減されると説明します。
「量子バッテリーは小型でありながら強力です。今回の成果は、量子コンピュータを制約するエネルギー・冷却・インフラの課題解決に一歩近づくものです」とQuach博士は述べています。「これは、量子コンピュータに独自の“燃料タンク”を持たせるようなものです。外部電源から絶えずエネルギーを補給するのではなく、バッテリーが量子コンピュータの稼働中に自ら再充電します。」
「本研究は、量子エネルギーの探求における重要な一歩です。この新興分野は、効率的で持続可能なエネルギーシステムの構築方法を根本的に変える可能性があります」とQuach博士は述べています。
量子バッテリーは、光を使ってエネルギーを蓄えるデバイスで、光にさらされるだけで充電できるという特徴があります。量子コンピュータに組み込むと、そのマシンを構成する部品から継続的に再充電されます。
このシステムでは、量子バッテリーは「量子もつれ」と呼ばれる現象を通じて、量子コンピュータの量子処理ユニット(QPU)と結びつき、両者が共通の量子状態を共有するようになります。
「量子バッテリーを組み込んだシステムでは発熱量が大幅に減り、配線を削減できるほか、同じ物理空間により多くのキュービットを配置することが可能になります。これらは、実用的でスケール可能な量子コンピュータを実現するうえで極めて重要な進展です」とQuach博士は説明します。
モデル解析では、このアーキテクチャが、量子スーパーエクステンシビティ(quantum superextensivity)と呼ばれる現象——キュービット数が増えるほど処理速度が速くなる——により、計算速度を向上させる可能性も示唆されています。
本研究では、量子バッテリーが既存の量子コンピュータをどのように駆動できるかについて、理論的モデルを提示しました。研究チームは今後、この手法を実際の装置で実証することを目指しています。量子バッテリーは依然として発展途上の技術であり、さらなる開発が必要ですが、このアプローチは量子コンピューティングの未来に新たな可能性を開くものです。
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