2021-06-15

ひねりを加えて解決!粘弾性液体ブリッジの破壊

本研究のポイント

  • 回路基板の製造や3Dプリントなどの産業用途に欠かせない粘弾性流体を吐出しやすくする新たな手法を開発。
  • 粘弾性流体は、回路基板とノズルの間に形成される液体ブリッジを破壊しなければならないため、吐出が困難という課題がある。
  • 本研究により、液体ブリッジは従来のやり方のように引っ張るよりも、ねじる方が早くてきれいに破壊できることが判明した。
  • 研究チームは高速イメージングを用いて、ねじりによって液体ブリッジの端に亀裂が生じ、中心に向かって進展する様子を観察した。
  • 液体ブリッジ破壊の根底にあるメカニズムが「端面破壊」と呼ばれる現象であることが判明し、同現象の有用な用途が初めて発見された。

プレスリリース

熱々に溶けたチーズが乗ったピザを一切れ持ち上げると、その一切れと残りのピザとの間でチーズが長い糸を引くことがありますね。ピザをそのまま持ち上げていると、いずれこのチーズの橋が壊れ、皿やテーブル、あるいはピザを持つ人の膝にまでも細長いチーズの糸がついてしまいます。この現象はピザでは些細なことかもしれませんが、産業界では長年の課題となっています。溶けたチーズに似た性質を持つ液体(粘弾性流体)を、きれいにかつ迅速に吐出する必要があるのです。

この度、研究チームが、回転を利用してこの液体ブリッジを破壊する新技術を開発しました。2021年6月11日に米国科学アカデミー紀要(PNASに掲載された本研究成果は、回路基板の製造や食品加工から生体組織工学や3Dプリントなどの用途に至るまで、粘弾性流体の吐出速度と精度を向上させる可能性があります。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットに博士課程学生として在籍し、日本学術振興会の特別研究員-DC2でもある本論文共著者のサント・チャンさんは、次のように説明します。「ケチャップやおもちゃの粘土、歯磨き粉などの粘弾性流体は、ゆっくりと絞ると液体のように流れ、早く絞ると弾性を持つ固体のようにふるまうという、不思議な特性を持っています。この特殊な性質があるため、これらの流体は吐出するのが非常に困難です。」

現在、産業界で標準的に用いられている手法は、液体を吐出した面からノズルを引き上げて離す方法です。これによって液体ブリッジは破壊できますが、キャピラリーテールと呼ばれる細くて長い,尖った山のような形をした液体を描いてしまいます。また、液体ブリッジが複数箇所で破壊されると、サテライト液滴と呼ばれる小さな液滴も形成されます。このキャピラリーテールやサテライト液滴は、製品を汚したり、電子チップをショートさせたりする原因ともなります。

ノズル(またはプレート)を引き上げると、液体ブリッジが伸びて破壊され、キャピラリーテールやサテライト液滴が形成される。

「ノズルを高く引き上げるほどキャピラリーテールが長くなり、汚れの可能性が高まります。ノズルはあまり高く上げられないため、液体ブリッジが太くなり、破壊するのに時間がかかります。その結果、吐出のプロセス全体が遅くなってしまいます」とチャンさんは説明します。

これらの課題を克服するため、研究チームは、あるシンプルな解決策を考案しました。それは、液体ブリッジを「引張る」のではなく、「ねじる」ことで不安定にするというものです。

研究チームは、この解決策を粘弾性のあるシリコンオイルを使用して検証しました。使用したシリコンオイルは、水の60,000倍の粘度を持っています。シリコンオイルの液滴を上下のプレートの間に置き、上のプレートを回転させて液体ブリッジをねじると、その中間に亀裂が生じることが高速イメージングで確認されました。その後、亀裂は端から中央に向かって進展し、キャピラリーテールやサテライト液滴を形成することなく、液体ブリッジがきれいに2つに破壊されました。

その結果、従来の引き上げ方式では同じ液剤を吐出するのに通常10秒かかっていたプロセスが、約1秒で完了しました。

2021-06-15

上のプレートを35.5ヘルツ(1秒間の回転数表す単位)で回転させると、シリコンオイルの液体ブリッジにねじれが生じる。この回転により、液体ブリッジの端に亀裂が生じ、中心に向かって進展する。動画は0.2倍速で再生したもので、実際の撮影時間は1秒間である。

次に、研究チームは、液体ブリッジのねじりによる破壊の根底にあるメカニズムを明らかにしました。オランダのアイントホーフェン工科大学の研究チームの協力を得て、チャンさんら研究チームが実験で観察した内容のシミュレーションを行いました。その結果、液体ブリッジがねじれに対してどのように応答するかに関する具体的な情報が得られ、チャンさんらの推察が実証されました。亀裂の原因は、「端面破壊」だったのです。

マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットのグループリーダーであるサイモン・ハワード博士は、次のように述べています。「これは、特に注目に値する発見です。端面破壊は、通常、好ましくない現象とされ、科学者は発生を阻止するための研究を進めています。端面破壊に有益な用途があることが判明したのは、今回が初めてです。」

本研究は将来的に異なる粘弾性流体を用いて実験を行い、同様の効果が得られることを確認する予定です。また、上のプレートの回転と引き上げを組み合わせることで、吐出の速度をさらに上げることも計画しています。

「多くの産業において、ノズルを引き上げ式から回転式に取り換えることは比較的容易に行えますが、その影響は広範囲に及びます。より速く、より正確に液体を吐出することでエネルギー消費量を削減することができ、製品の汚染を減らすことで原材料の使用量も削減できます」と同論文の責任著者であるエイミー・シェン教授は述べています。

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ヘッダー画像: Sofiamcfly, CC BY-SA 3.0  ウィキペディアコモンズより

論文情報

発表先及び発表日:PNAS 2021年6月11日(火)
論文タイトル: Torsional fracture of viscoelastic liquid bridges
DOI: 10.1073/pnas.2104790118
著者:San To Chan*, Frank P. A. van Berlo*, Hammad A. Faizi*, Atsushi Matsumoto, Simon J. Haward, Patrick D. Anderson, and Amy Q. Shen

*本論文の著者は、均等に貢献しています。

(ダニ・アレンビ)

広報や取材に関して:media@oist.jp