ネアンデルタール人から受け継がれた遺伝的変異体が新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを低減

ネアンデルタール人から現代人に受け継がれたDNAの変異体がSARS-CoV-2に対する抵抗力の変化に影響することが新たな研究で明らかになりました。本研究は 米国科学アカデミー紀要 (PNAS)に掲載されました。

20210216-header-image.4

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを約20%低下させる遺伝子群がネアンデルタール人から受け継がれたものであることが判明
  • この遺伝子群は、12番染色体上にあり、侵入するウイルスの遺伝子破壊を助ける重要な役割を果たす酵素をコードしている。
  • この遺伝子群のネアンデルタール人の遺伝的変異体が生産する酵素が新型コロナウイルス感染症の重症化を予防する効果があることを示唆
  • この遺伝的変異体が、現代人とネアンデルタール人の交雑によって約6万年前にヒトに引き継がれた
  • 遺伝的変異体は、過去1,000年間で保有者が増加しており、アフリカ以外に住む人の約半数にみられる

プレスリリース

SARS-CoV-2は、新型コロナウイルス感染症を引き起こすウイルスですが、それに感染することによって受ける影響はさまざまです。症状が軽い人や、全くない人もいれば、入院が必要となるほど重症化し、呼吸不全を起こして死亡するケースもあります。

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)およびドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の研究者らによって、ネアンデルタール人から受け継がれた遺伝子群が、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを約20%低下させることが明らかになりました。

OISTヒト進化ゲノミクスユニットを率いるスバンテ・ペーボ教授(アジャンクト)は、次のように説明します。「もちろん、高齢であったり、糖尿病などの基礎疾患を抱えていたりという他の要因も重症度に大きな影響を与えますが、遺伝的要因も重要な役割を果たしており、そのいくつかはネアンデルタール人から現代人に引き継がれたものです。」

昨年、スバンテ・ペーボ教授と同僚のヒューゴ・ジーバーグ教授は、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを増加させるとしてこれまでに確認されている最大の遺伝的危険因子がネアンデルタール人から引き継がれたもので、重症化リスクが倍増することを科学誌Natureで報告しました。

今回の最新研究は、昨年12月に英国のGenetics of Mortality in Critical Care (GenOMICC)コンソーシアムで発表された新たな研究に基づいています。同研究では、新型コロナウイルス感染症が重症化した2,244人のゲノム配列を集めて解析し、個々人のウイルスに対する反応に影響を及ぼす遺伝的領域が4本の染色体上で新たに特定されました。

それを踏まえて、本日PNAS誌で発表されたペーボ教授とジーバーグ教授の研究では、新たに特定された領域の一つに、3人のネアンデルタール人に見られるものとほぼ同じ変異体があることが示されています。その3人とは、クロアチアで見つかった5万年以上前の1人と、南シベリアで見つかった約7万年前と約12万年前の2人です。

驚くべきことに、この第2の遺伝的因子が新型コロナウイルス感染症に与える影響は、重症化リスクを増加させた最初の因子とは反対のもので、重症化リスクを低下させます。この変異体は12番染色体上に存在し、感染後に集中治療が必要となるリスクを約22%低下させます。

「約4万年前に絶滅したネアンデルタール人の免疫システムが現代の私たちに良い意味でも悪い意味でも影響を与えているというのは驚くべきことです」とペーボ教授は語っています。

この変異体が新型コロナウイルス感染症にどのように影響するかを理解するため、研究チームはこの領域にある遺伝子を詳しく調査しました。その結果、この領域にある3つの遺伝子が、ウイルス感染時に産生される酵素のコードを決定し、感染した細胞内のウイルスゲノムを分解する別の酵素を活性化することを発見しました。

「ネアンデルタール人の遺伝的変異体によってコードされた酵素はより効率的で、SARS-CoV-2感染が重症化する可能性を低下させているようです」とペーボ教授は説明しています。

さらに研究者らは、新たに発見されたネアンデルタール人のような遺伝子変異体が、約6万年前に現代人に引き継がれた後、保有者の頻度がどのように変化したのかを調べました。

これを行うために、チームは、様々な研究グループが異なる年代の何千人もの骨から収集したゲノム情報を使用しました。

研究チームは、最後の氷河期の後にその変異体の保有者の頻度が増加し、その後、過去1,000年の間に再び頻度が増加したことを発見しました。その結果、現在ではアフリカ以外の地域に住む人の約半数、日本に住む人の約30パーセントにその変異体が発現していることが分かりました。これとは対照的に、ネアンデルタール人から受け継いだ重大リスクの変異体は日本ではほとんど見られないことが以前の研究で分かっています。

「リスクを低下させるネアンデルタール人の変異体保有者の頻度が増加したということは、過去にもそれが有益であった可能性を示唆しています。そして変異体保有者の頻度が増した期間はおそらく他の様々な疾患がやはりRNAウイルスによって引き起こされ流行していたのだろうと考えられます。」とペーボ教授は説明しています。

論文情報

掲載誌: PNAS
論文名: A genomic region associated with protection against severe COVID-19 is inherited from Neandertals
著者: Hugo Zeberg and Svante Pääbo
DOI: 10.1073/pnas.2026309118

ネアンデルタール人の頭蓋骨の写真はこちら(写真:leted)www.flickr.com

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

シェア: