活動時の皮質最深層のニューロンの反応を初めて調査

皮質の最も深部にある第6層のニューロンが、感覚刺激に対して異なる行動状態下でどのように反応するかを解明

講義や会議に参加しているところを思い出してください。熱心にメモを取り、トピックに没頭し、できるだけ多くのことを吸収しようと熱心なあなた。それが突然、あなたの思考はトピックから離れ、さまよい出てしまいます。そして話を聞いたり、目の前に表示されているものを見たりすることを止めてしまい、眠くなり、まぶたが下がり始め、頭のスイッチが切れてしまいます。このような状況は、おそらく、容易に想像できるでしょう。

なぜ私たちの脳がこのような動作をするのか、その理由は正しく理解されていません。これは主に、多くの異なる脳構造が私たちの集中力の持続時間を調節しているからです。そしてそのうちの1つは、皮質の最深層にあたる第6層にあります。皮質はヒトや他の哺乳類の脳の一番外側にあります。この部位は機能的に特化し、高度に相互接続した感覚野や運動野、そして関係する部位から構成されています。

OIST光学ニューロイメージングユニットのシギタ・オーガスティネイト博士は、以下のように説明しています。「皮質の第6層は、私たちが行動状態に応じ、外界とどのように関係性を持つかを制御していることがわかっています。これは私たちがある状況でなぜ完全に認識することができるのか、眠くなったときになぜ突然注意力がなくなるか、といったことに関与しています。しかしながら、脳の研究は非常に難しい領域です。」

目で検出された視覚情報は視覚視床(Thalamus, 感覚器官から皮質の感覚野へ情報伝達を調節している皮質下の構造体)を通り、1次視覚皮質へと運ばれる。この情報の流れの調節には、最深部の皮質層である第6層(Layer 6)が関与していることが知られている。 

Current Biology誌にこの度掲載された本研究は、オーガスティネイト博士と同ユニットを率いるベアン・クン教授が共同で行いました。マウスの第6層のニューロン活動を調べるため、二光子イメージングという強力な顕微鏡技術を用い、覚醒状態で行動するマウスの視覚皮質第6層のニューロンを研究する初めての試みとなりました。

ニューロンとは、体内において他の神経細胞や筋肉に情報を伝達する特殊な細胞です。脳内ではネットワークを形成し、電気化学的な信号を介して互いに通信しています。ニューロンの重要性を鑑みると、脳の働きを理解するためには、ニューロンの活動をより深く知ることが必要となります。   

画像の下方に皮質の第6層のニューロンの細胞体がある。ニューロンは樹状突起を持ち、この樹状突起は皮質の他の層を通りながらそれぞれの層から情報を受け取る。第6層のニューロンは、皮質全体の長さにもなる。

各実験において、マウスを快適な定位置に置き、定期的に異なる種類の視覚刺激を与えました。この間マウスは、走ることもできれば、座ったり、毛繕いをしたり、さらには眠ることもできます。研究者らは何時間もの動画記録を、マウスの脳の深部において細胞レベルの分解能で撮影しました。さらに、マウスの覚醒度を判断するため、脳内の電気活動(脳波)、走行速度、瞳孔の大きさも記録しました。その結果、マウスが異なる行動状態にある間にさまざまな感覚条件に反応する数百個ものニューロンの活動を、一度に観察することができました。

研究者らは、視覚刺激に対して、それぞれ別の反応を示す3つの異なるニューロンの集団を発見しました。ニューロンの約3分の1は、視覚刺激活性化(VSA)ニューロンに分類されます。このニューロンは、視覚刺激がないときには不活性ですが、マウスに視覚刺激を示すと活性化しました。一方でその他のニューロンには逆の反応が見られ、視覚刺激がなくても自発的に活性化しましたが、刺激が示されると活性が逆に低下してしまいました。このタイプは視覚刺激抑制型(VSS)ニューロンとして分類されました。

また、静かなニューロン集団もあり、このタイプのニューロンは、実験では何の活性も示しませんでした。しかし、単に活性化するための適切な刺激がなかったために活性を示さなかった可能性もある、とオーガスティネイト博士は説明しています。「適切な刺激が提示された場合、このタイプのいわゆる静かなニューロンは、VSAニューロンとして活動を開始する可能性があります」と博士は語ります。

VSAとVSSニューロンの大部分は、マウスが最も覚醒していた時に最も活性があり、マウスが眠くなるとしだいに活性の減少が見られましたが、常にそうではありませんでした。いくつかのニューロン、特にVSSの中にはマウスが眠気を感じている、あるいは眠っている低覚醒時に最も活性を示すものがありました。そして興味深いことに、多くのニューロンは運動状態と静止状態を区別しなかった一方で、その他の少数のニューロンは状態を区別しました。運動時にのみ活動するニューロンや、静止時にのみ活動するニューロンも存在したのです。この研究が示すことは、実験結果は一定ではないということです。第6層のニューロンは多様でダイナミックなのです。 

「このように第6層のニューロンは起こっている事象を調節している、と私たちは考えています 。異なるニューロン集団の活性は、お互いを補完し合っているのです。」と、 オーガスティネイト博士は説明します。

例えば、視覚情報の流れがある場合、VSAニューロンは皮質外の脳の他の部分に情報を送信します。しかし暗闇の中であれば、皮質下の領域は皮質で何が起こっているかを知る必要があります。そこでVSSニューロンが引き継ぐのです。第6層のニューロンの活性は、感覚器官から皮質への情報の流れを調節し、それにより、注意を払うか、又は集中しなくなるか、という選択肢の重要な要因の一つとなるのです。

この回路がどのように私たちの注意力の持続時間や、注意欠陥、自閉症、統合失調症などの様々な障害に関与しているのかを正確に解明するため、第6層については現在も多くの研究が行われています。もし私たちの頭の中で何が起こっているのかを理解したいのであれば、覚醒して行動している被験動物を対象に研究しなければならない、とオーガスティネイト博士は強調します。そして、「そのような方法で第6層が調査されたのは、今回が世界で初めてのことなのです」と語っています。

皮質の第6層にあるニューロンを調べた研究を完成させたシギタ・オーガスティネイト博士とベアン・クン教授

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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