2022-09-07

意識と身体にアプローチ 健康問題の解決に挑む起業家たち

「病は気から」といわれるように、私たちの意識と身体の間には複雑な相互関係があります。ストレスや不安によって心臓病のリスクが高まる、腸内環境がよい人は不安やうつになりにくい、など、私たちの思考や感情は、生理的に深い影響を与えることがあるのです。

今回5年目を迎えるOISTイノベーションスクエア・スタートアップアクセラレータープログラムに、野心的で独創的な2つのチーム「大阪ヒートクール」と、「anda (アンダ)」が新たに加わりました。 意識と身体のつながりを活用して、皮膚疾患とパーキンソン病という2つの異なる健康問題にかかるソリューションの確立をめざしています。

イノベーションスクエア・スタートアップアクセラレータープログラムは、沖縄におけるイノベーションエコシステム構築に向けた沖縄科学技術大学院大学(OIST)の取り組みのひとつです。技術系スタートアップを沖縄で立ち上げることを希望する起業家の支援を目的としており、毎年厳選された世界中の起業家が参加者として選ばれます。沖縄県の支援のもと、参加者には企業設立に必要な資金、メンタリングプログラム、パートナーシップ等の様々なサポートが提供されます。

触覚技術革命で社会をハックする- 大阪ヒートクール

ゲーム愛好家のためのものだったメタバース(仮想空間)の社会的価値が進化する中、デジタルとリアルをつなぐ方法のひとつとして、感覚を再現する新しい技術が日々生み出されています。視覚や聴覚に続き、リアルな体験を再現するために重要な感覚として注目されているのが触覚です。たたく、持ち上げる、引っ張る等、様々な触覚体験がありますが、その中でも「温度」の感覚に注目し、ゲームではなくヘルステックの分野で技術革新を目指すのが、大阪大学の教員をはじめとする5人の大学教員によって設立されたスタートアップ、大阪ヒートクールです。

大阪ヒートクールのメンバー。左から相澤裕貴さん、松戸誠人さん、吉國聖乃さん 

100年以上前、スウェーデンの医師トルステン・トゥンベルグは、暖かい棒と冷たい棒を交互に並べた表面に触れると、焼けるような感覚や、時には痛みを錯覚することを発見しました。皮膚に無害なこの錯覚は「サーマルグリル錯覚」と呼ばれており、この現象を活用した様々な技術が研究されています。サーマルグリル錯覚を利用して皮膚の痒みといった皮膚疾患の症状を低減する医療機器の開発を目指しているのが、吉國聖乃さん、相澤裕貴さん、松戸誠人さんが所属する大阪ヒートクールです。

錯覚の感じ方には個人差があり、デバイスが最適化されていないと期待する効果を得ることができません。3人はOISTの起業家育成プログラムに参加し、プロトタイプの開発、ビジネストレーニング、メンタープログラムへの参加、グローバル市場投入のための戦略立案などに取り組みます。最終的にはユーザーテストやソフトウェア開発を通して製品化を目指します。

メンバーは海外の展示会への出展を目指し、製品開発だけでなく、英語によるプレゼンテーション技術といったビジネススキルの習得に向け、様々なトレーニングを受ける予定です。 

「OISTには世界中から様々な研究分野の科学者たちが集まっています。彼らと交流を深めることでわたしたちの知見をさらに広げ、一緒にあっと驚くモノを沖縄から生み出していきたいです」チームのリーダーを務める吉國さんはプログラム参加への意気込みを語りました。

南米コロンビア発、パーキンソン病患者の救世主- anda (アンダ) 

沖縄から約15,000キロ離れた南米コロンビアの都市、ブカラマンガからやってきたのは、2016年設立のスタートアップandaのマリア・バルブエナさんとカルロス・レイさん。スペイン語で「進め」を意味するandaは、自律歩行が困難なパーキンソン病患者の歩行をサポートする技術を開発しています。

andaのメンバー。左からマリア・バルブエナさん、カルロス・レイさん。

パーキンソン病は、手足の震えや筋肉の固縮といった症状を引き起こす脳の病気で、全世界で800万人以上がパーキンソン病と共存しています。パーキンソン病患者は脳内のドーパミンをつくる神経細胞が減少していることが研究により分かっていますが、完治させる治療法は確立されていません。60歳以上に多いのが特徴で、世界人口の高齢化に伴い患者数が急増すると危惧されています。

薬餌投与や手術、理学療法など、一部の症状を和らげる治療法はありますが、それには限界があります。例えば、脳内のドーパミンの生産量を促し運動を改善する薬には、副作用のリスクが伴います。andaは薬による治療の代替ソリューションとして生まれ、視覚と聴覚からのシグナルを活用した歩行改善のソリューションを開発しています。スマートフォンから操作できるアプリからは、特殊な周波数とリズムによる音が生成され、この音を聞くことで脳が刺激され、ドーパミンの生産が増えると実証実験で確認されています。これにより、患者の歩く方向をより安定させることができるのです。

OISTのスタートアップアクセラレータープログラムに参加する2人は、このアプリと連動するARグラス(実際の風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示するメガネ型のデバイス)の開発を進めます。ARグラスにはカメラとセンサーを搭載し、周りの環境を随時解析することで、進行方向を矢印や線でARグラス上に表示し、安定した歩行をサポートします。この視覚サポートによるパーキンソン病患者の歩幅の改善が実証実験で確認されています。さらに、積極的に歩こうとする活力を向上することにより、患者の運動不足解消の効果も期待できます。  

プロダクトデザインやアプリデザイン等を手掛けるバルブエナさんは、OISTのスタートアップアクセラレータープログラムへの期待を次のように語りました。「OISTの国際的なネットワークは大変魅力的です。ソリューションの世界展開を見据え、英語力、ビジネスコミュニケーション力などといったソフトスキルも向上していきたいです。世界中のパーキンソン病患者の皆さんの未来を照らす存在を目指します。」 

現在、大阪ヒートクールとandaは、パートナーや投資家を募集しています。これらの技術を商業化し、少しでも多くの人々の力になることを目指しています。ご興味ある方はOISTイノベーション・スクエア innovation@oist.jp までご連絡ください。

広報や取材に関して:media@oist.jp