沖縄近海の軽石:いつまで? そして、どこへ?

軽石が沖縄近海に留まる条件は来年6月まで続きそうですが、それよりも前に軽石が砕けて塵になったり、沈んだりする可能性があります。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、10月中旬以降沖縄の近海で確認されている火山性軽石のモニタリングを行っています。軽石は、港に打ち寄せることで、港の船のエンジンが詰まり、漁業や輸送、観光業にも影響が出ています。この軽石は2021年8月13日に小笠原諸島にある海底火山の噴火に由来します。研究チームは、今回の研究は、軽石が沖縄近海に留まる期間を知る手がかりとなる可能性があり、海洋における軽石いかだの大まかな動きを解明することができるとしています。

海洋生態物理学ユニットを率いる御手洗哲司准教授は、2012年から2017年にかけて沖縄近海にGPS付きの漂流ブイを放った実験を行いましたが、その実験に軽石の動きを照らし合わせました。ブイは、主に海洋渦と呼ばれる小さな渦の中を移動しましたが、台風が通過しても強い影響を受けることはありませんでした。

2012年、御手洗哲司准教授がブイを使用した実験を行っていたところに台風が通過した。台風の影響でブイは円を描いたが、その軌道には影響がなかったことが動画から見て取れる。このことから、9月に沖縄周辺を通過した台風は軽石の進路に強く影響しなかったと御手洗准教授は結論づけ、代わりに、黒潮反流と貿易風の影響があったのではないかと考えている。出典:Google Earth地図
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「前回の噴火は1986年でしたが、沖縄ではこれほど多くの軽石の確認は報告されていませんでした。それは、今回とは異なる季節に噴火が起こったからだと思います」と御手洗准教授は説明しています。

今回、軽石が沖縄に漂着したのは、晩夏の台風の影響によるという説が多く聞かれますが、御手洗准教授は、ブイや無人の自律型ロボットであるウェーブ・グライダーを使った実験結果から、そうではなく、海流と風の組み合わせによるものであると結論づけています。

「北上する暖流の黒潮は有名ですが、その逆方向に流れる弱い黒潮反流の存在はあまり知られていません。軽石はまず南から吹いたモンスーンによって北西に移動し、東から西へ恒常的に吹く貿易風と黒潮反流の影響が合わさって沖縄に運ばれました。現在は、主に北から吹く冬の季節風によって、軽石の多くが沖縄の海岸線に打ち寄せています。これらの条件は、南から季節風が吹くようになる来年の夏まで続くでしょう。」

噴火後30日 小笠原諸島の福徳岡ノ場で噴火が起こった際、大量の軽石が周囲の海に噴出した。漂流シミュレーションによれば、軽石は、モンスーンによって北西に移動した後、貿易風と黒潮反流の影響が合わさって南西に運ばれ、沖縄に漂着した。黒潮の大きな流れにのって東京付近に運ばれた軽石はごくわずかだった。御手洗准教授は、冬の間軽石はほとんど沖縄に留まり、砕けていくであろうと予測している。
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噴火後90日
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噴火後150日
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しかし、御手洗准教授は、沖縄で見られたような軽石の堆積が日本本土でもみられる可能性は低いと説明しています。「漂流ブイのほとんどは、何ヶ月も沖縄近海に留まり、黒潮に乗って東京方面に運ばれたのはごくわずかでした。軽石のほとんどは、当面の間、沖縄近海で漂流し続け、本州にたどり着くのはごくわずかでしょう。」

御手洗准教授は、軽石を沖縄近海に留める風況は2022年6月まで続く可能性が高いとする一方、別の要因も関わってくると述べています。「風や波や太陽放射のすべてが影響を及ぼしますし、それ以前に軽石が砕けて沈む可能性があります。軽石は12月初旬に台湾にも漂着し始めましたが、やはりずっと小さな破片であることが報告されています。」

同じく沖縄周辺の軽石を調査している流体力学研究者のイミル・トゥベール准教授は、軽石はもろく、頻繁に衝突し合ったり、漂着や漂流を繰り返したりしているため、すぐに粉砕するであろうと補足しています。「実際のところ、台風も軽石を砕く影響を与えたかもしれません。粉砕してできる塵はやがて外洋で希釈されるでしょう。」

トゥベール准教授は、OISTの衝撃・ソリトン・乱流ユニットを率いています。同じくOISTのヴィンセント・ラウデット教授(海洋生態進化発生生物学ユニット)との共同研究の一環として、噴火の約1年前から谷茶近海の海面を観測し、潮目という、滑らかに見える海面の帯状の筋の研究を行っていました。しかし、軽石が沖縄に漂着し始めると、自身のユニットで開発している潮目の力学モデルの予測能力を試す自然実験として軽石いかだの動きを利用できると考えました。

「これは私の研究にとっては絶好の機会です。計画的に起こすことができない自然現象の結果を直接観察しているのですから。私は個々の軽石に注目するというよりも、軽石いかだがどこに移動するのかを大まかに予想することに関心を持っています。」

軽石は、沖縄の海岸線にかなり不均等に分散しています。本部半島の北側など、一部の海域では多くみられ、その海域の潮流や風の影響でその場に留まっているようにみえます。しかし、恩納村近辺の海岸のように、断続的に漂着しているところもあります。軽石いかだの動きは、貿易風、季節風、潮流、外洋流などの影響を受けるため複雑である、とトゥベール准教授は説明しています。軽石いかだの動きは大気乱流のカオス的な性質によって断片化していくため、その行方を詳細に予測することは困難です。

「広大な海洋での物質の移動を推定する海洋循環モデルは確立されていますが、沖縄の湾のような近海には利用できません。私のユニットでは、恩納村の谷茶ビーチにウェブカメラを設置し、ドローンも使用して、軽石が集積して分散していく様子を撮影しました。実は谷茶湾には更に複雑な要素があります。それは、潮の流れによって入口に渦流が発生することです。私たちは、この流れに軽石が巻き込まれている様子を記録しました。」

動画1:谷茶湾に設置したウェブカメラで、直近数ヶ月の潮流と風の興味深い動きを捉えた。風と潮の流れは同時に作用することが多く、同方向や逆方向、あるいはその他の方向に向かったりする。Webカメラで撮影した動画では、軽石が漂着と漂流を繰り返す様子が映っている。
動画2:谷茶湾に設置されたウェブカメラが、直近数ヶ月の潮流と風の興味深い動きを捉えた。

しかしトゥベール准教授は、谷茶湾で見られるような現象は、もっと大きなスケールでも発生していると説明します。欧州宇宙機関が撮影した衛星画像にも、軽石いかだが同じようなパターンで海洋を移動していく様子が映し出されています。それぞれのいかだが大量の軽石を含む指のような形をしています。

トゥベール准教授は、この映像を利用して軽石いかだの移動の非常に大まかなシミュレーションを行いたいと考えています。ただし、このシミュレーションは、天気予報のようにあくまで推定値を示すものであると強調しています。それは、両方とも決定論的カオス、つまり俗に言うバタフライ効果の影響を受けるためです。「この研究には、より大きな意味があります。沖縄でまたこのような現象が起こることはあまりないと思いますが、海底火山で発生した軽石が陸地に漂着することは世界中でよくあることです。この研究によって、海洋での軽石の移動を普遍的に理解することができ、軽石がどの方向に移動し、どこに漂着し、どのくらいの期間そこに留まるのかを大まかに示すことができるようになります。」

本研究は、軽石だけでなく、サンゴの卵の分散やその他の生物が集まる潮目について理解するのにも役立つと考えられます。これが、御手洗准教授、トゥベール准教授、ティモシー・ラバシ教授(海洋気候変動ユニット)、ヴィンセント・ラウデット教授が本研究に取り組んだ主な理由です。

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広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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