ADHD - 罰に対する高い感受性を日本の子どもでも確認

罰に対する感受性の高さはADHDの特徴であるという国際的知見が本研究で確認されました。

 注意欠如多動症(ADHD)を持つ日本人の子どもたちは、ADHDを持たない子どもたちよりも罰に対しての感受性が高いと、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究で報告されました。調査結果は、米国とニュージーランドの児童を対象とした研究結果を日本で再現したものであり、ADHDを持つ子どもたちにおける共通の特徴が示されました。本研究結果は、ADHDの症状に対処する際にも意味あるものとなるでしょう。

 ADHDの子どもたちの研究は西洋諸国以外ではあまり行われていません。ですから、文化的規範がどのようにADHDの症状に影響するかについては、研究者もまだほとんど知りません。OIST研究チームは、ADHD Attention Deficit and Hyperactivity Disordersの論文の中で、ADHDに対処する手法として特に西洋諸国のアプローチが世界的に取り入れられている中、西洋諸国以外の文化でADHDがどのような障害となっているかを理解する必要がある、と説明しています。

 「罰に対する感受性の違いが、異なる文化間で一貫していることを知ることで、ADHDの理解を深めるのに役立ちますし、このことはADHDへの対処方法にも応用されるべきです。」と、本研究の筆頭著者であるゲイル・トリップ教授は語ります 。

 

ADHDを持っていない子どもたちよりもADHDを持つ子どもたちの方が、罰に対する感受性が高まるということが、コンピューター・ゲームを使用した調査を通して判明した。

「あなたの負け」

 調査では、ADHDを持つ34人の子どもたちと、対照群のADHDを持たない59人の子どもたちが、スクリーン中央にポイントが表示される2種類のコンピューター・ゲームを行いました。子どもたちは、いつでも2種類のゲーム間を切り替えることができ、報酬を獲得するため、できるだけ多くのポイントを得るように指示されました。

 ゲームで子どもたちは、4つの漫画の顔が回転するようにボタンをクリックします。回転が止まった時にすべての漫画の顔が一致した場合、アニメーションとポイント追加という「報酬」が受けられます。一方、悲しい顔が4つ出た場合は、笑い声とポイントの減点という「罰」を受けます。いずれの顔の一致もない場合は、報酬も罰もありません。

 ゲームのうちの1種類は、4倍も頻繁に罰を受けるようにできています。 ADHDを持つ子どもたちは、罰の割合が低い方のゲームを、もっとやりたがりました。ADHDを持つ子どもたちはまた、ADHDを持たない子どもたちよりも、罰を受けた後にゲームを再び始めるのに時間がかかり、より強い感情的反応を示したと考えられます。

 一方、対照群の子どもたちは、2種類両方のゲームに同等の時間を費やしました。興味深いことに、日本の子どもたちはまた、西洋の子どもたちに比べて、罰の多いゲームも粘ってやり続けました。この点についてトリップ教授は、罰に対する感受性の根底にあるメカニズムは、文化間で一貫しているように思われますが、依然として文化的要因も作用している可能性があるとしています。

 

日本の子どもにおけるADHD研究論文を古川絵美博士とブレント・アルソプ教授(オタゴ大学)と共に発表したゲイル・トリップ教授と島袋静香博士。

 「がまん」という言葉は、忍耐力としてもよく訳される日本語です。 がまんは日本では美徳であると考えても良いでしょう。子どもたちは自分自身と他人を向上させるため、逆境にあってもがまんすることが奨励されます。 このことは、なぜ対照群の日本の子どもたちが、罰の多いゲームも粘ってやり続けたかを説明するのに役立つかもしれません。

 「がまんを重んじる文化では、罰への強い感受性が、子どもたちの個人的劣等性と見なされるすことを避けることが重要です。」と、トリップ教授は言います。

今後の研修プログラム

 OISTの研究チームは、ADHDを持つ子どもたちの罰と報酬における感受性を現在も調査し続けています。 同時に、研究者は両親、教師及び臨床医に、ADHDの障害にどのように対処するかに際して、この新しい知識を取り入れることを勧めています。

 そうすることで、ADHDに対する態度を変え、ADHDを持つ子どもたちに対する「ネガティヴ・ハロー効果」、つまり変わった一つの特徴に引きずられて全体的に悪い印象をもってしまうこと、を防ぎたい、とトリップ教授は望んでいます。 言い換えれば、本研究や類似の研究により、子どもたちが示す行動がADHDの一部であり、がまんが欠如しているからという問題だけではない、という認識が高まることを期待しているのです。

 「ADHDはひとつの障害です。すなわち、子どもたち自身の悪い行動でもなければ、子育てがうまくいかなったことによる結果でもありません。何よりも、良い行動に関心を向け賞賛することが大切なことを常に強調するべきです。」と、トリップ教授は語ります。

 OISTチームは現在、国立病院機構琉球病院、福井大学附属病院、および久留米大学附属病院と提携し、英国で開発されたADHDに特化するペアレント・トレーニングを、日本の母親を対象として使用するために変更を加え適応させたプログラムのランダム化比較試験を実施しています。

 ADHDを持つお子さんのいらっしゃる方で、今後の研究調査に参加を希望される場合、OISTこども研究所までご連絡ください。

専門分野

広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム

シェア: