2016-09-23

ADHDを持つ児童は、失敗を避けることによって成功の機会を逃すことに

  子供達は、成功と失敗を繰り返して成長し、それは簡単なことではありません。時には、どのような行動が成功につながり、どのような行動が失敗につながるか明白でないこともあります。そのため、親や教師などは、児童の行動に対し、褒めたり、注意をしたりなど様々なフィードバックを与え、子供たちの成長を助けるのです。基本的には、私たちは報酬を得られる行動を繰り返し、罰を受ける行動を避けます。しかし、好結果をもたらす行動を選択することが難しいことも少なくありません。

  注意欠如・多動性障害(ADHD)を持つ児童は、そうでない児童に比べ、叱責される頻度が高い傾向があります。ADHDを持つ児童は、集中の持続が困難であったり、落ち着かない様子をみせたり、衝動的な行動をとることがあるため、親や教師、友人と関わる中で、問題に繋がることが多いからです。それゆえに、ADHDを持つ児童における罰の影響を理解することが重要なのです。今回の実験では、ADHDを持つ児童は、他の児童と比べて、罰に対する感受性が強いか、それとも弱いか、を調査することを焦点としました。日本とニュージーランドの研究チームは、報酬と罰を取り入れたコンピュータゲームを使って実験を行い、その研究成果をChild Psychology and Psychiatry誌で報告しました。

  「私たちがこの研究を始めた頃は、罰の効果をみる実験を伴う研究は多くはありませんでした。」と、論文共著者の一人で、沖縄科学技術大学院大学、発達神経生物学ユニットのゲイル・トリップ教授は言います。「児童を被験者とする研究では、特に気をつけて実験を行う必要があります。以前に試した罰の効果をみる実験では、ゲームで得点を失うばかりで、報酬の得点を得る機会を取り入れなかったために、被験者の児童は、ゲームを途中でやめてしまい、研究に必要なデータを集積することが出来ませんでした。」

  今回の実験では、罰を与えながらも、児童の意欲を維持することを可能としました。ADHDを持つ児童と、そうでない児童が、研究に参加しました。児童は、二つのゲームのうち、一つを選択するように指示されました。二つのゲームはコンピュータのスクリーン上に同時に現れ、同じようなゲームに見えます。各ゲームの下にあるボタンを押すとゲームが始まり、2×2のマスに様々な楽しいキャラクターと泣き顔の絵が次々と現れます。ゲームが止まった時に、同じ4つの楽しいキャラクターが揃うと「勝ち」となり、4つの泣き顔が揃うと「負け」となります。絵が揃わない場合は「勝ち負けなし」となります。毎回、児童は、二つのゲームのうちどちらでも好きなゲームを選びました。

  この研究では、ADHDの診断基準にあてはまる145人の児童を含め、日本とニュージーランド在住の英語を第一言語とする210人の児童を対象としました。「報酬(勝ち)の比率は、二つのゲームとも同じです。しかし、一つのゲームでは負ける確率が4倍高く、罰を受ける可能性が多いように設定しました。」とトリップ教授は説明します。二つのゲームとも、勝つと10ポイントが与えられ、同時に短いアニメーションが現れます。負けると5ポイント差し引かれ、笑い声が流れます。ゲームの初めには、20ポイントが全ての児童に与えられ、400ポイントに到達するか、もしくは300回ゲームを繰り返すまで、ゲームは継続されます。ゲーム終了後、全ての児童が景品を獲得しました。報酬の比率は、児童が毎回同じゲームのみを選択することや毎回別のゲームに行き来することのないように設定されています。通常、ゲームは30分間ほどかかりました。時間がかなり長くかかるように設定した理由は、安定した行動パターンをみるためです。

  「ADHDを持つ児童とそうでない児童は、罰(負け)が少ないゲームを好みました。行動の割り当てに『傾き』を示したのです」とトリップ教授は言います。「ADHDの診断にかかわらず、両グループとも、罰の多いゲームより罰の少ないゲームを頻繁に選びました。しかし、時間が経過するにつれ、ADHDを持つ児童は、ポイントを引かれたり笑われたりすることを、より強い罰として受け取るようになりました。」

  初めの100回のゲームでは、両グループの児童の行動に差異はありませんでした。しかし、その後、ADHDを持つ児童は、罰の少ないゲームを好んで選択することが格段に増しました。一方、ADHDを持たない児童は、ゲームの初めの頃から終わりまで、行動の傾きの度合いに変化がありませんでした。200回目までには、ADHDを持つ児童は、罰の多いゲームを選択しない傾向が大幅に高まったのです。この結果から、ADHDを持つ児童には、罰を避ける傾向が時間の経過と共に強まることが示唆されます。ADHDを持たない児童は、罰に惑わされずに、勝つことに集中してゲームを続けたのです。

  この結果には重要な意味合いがあり、それに関してトリップ教授は以下のように説明しました。「もしADHDを持つ児童が課題に取り組むのを嫌がったり、課題を簡単にあきらめるようであれば、親や教師は、その課題に適切な報酬と罰のバランスがあるかどうかを確認する必要があるかもしれません。課題そのものが罰というのではなく、課題に取り組むために必要な努力が、罰と感じられるのです。そのため、より困難な課題であれば、より多くの報酬を必要とします。微笑みかけたり励ましの声をかけたりするなどの些細な報酬を頻繁に与えることで、ADHDを持つ児童の課題へ取り組みの持続を促すのです。」このような環境づくりは、ADHDを持たない児童にも大切なことです。しかし、ADHDを持つ児童は、罰や失敗を繰り返し経験することに対して敏感に反応し、成功の機会を逃す結果につながる可能性があるため、より注意してフェイードバックを与えることが大事なのです。

(フォンタナ・ミケレ)

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