2021-07-16

沖縄の産業イノベーションを促進

2021年5月、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のイノベーションスクエア・スタートアップアクセラレータープログラムに新たに2チームが加わりました。今年で4年目を迎える本プログラムは、主に沖縄県より資金援助を受け、沖縄において技術系スタートアップを立ち上げることを希望する起業家の支援を目的としています。この度、新たに加わった2つのチームは、研究に対する情熱が際立っていました。1つ目のGenomeMinerは、微生物中の有用な化合物の特定を可能とするプラットフォームを開発しており、比較的近い未来に商業化が期待されます。2つ目のMenopause and beyondは、女性の健康に対して統合的なアプローチを提供することを目指しています。

これらの起業家は、OISTに拠点を置き、OISTの最先端機器や設備を活用して研究開発活動を進めます。また、研究だけでなく、事業計画、マーケティング、資金調達、ビジネスネットワークの構築、チームビルディングなどについてもプロジェクトを通じて支援を受けます。

「この2つのチームが持つ情熱に最も魅力を感じました。自らのプロジェクトに対する強い信念と、潜在的な事業性に突き動かされています。」と、プログラムを管理するOIST産学連携コーディネーターの阿佐慶茂史さんは述べています。「彼らのプロジェクトは、国内外の市場で大きな可能性を秘めており、OISTや沖縄との親和性もあります。彼らが世界のゲームチェンジャーになることを大いに期待しています。」

GenomeMiner - 人工知能を活用した遺伝子工学プラットフォームの構築

GenomeMinerは、5年前に東京で設立されたスタートアップ、Tupac.Bioの新たな事業分野です。バクテリアや菌類などの微生物を、遺伝子レベルで解析するためのソフトウェアプラットフォームの開発することを目指しています。共同設立者兼CEOのEli Lyonsさんは、計算生物学と医学分野での経歴を持ち、ウェットラボとドライラボの両方における経験を掛け合わせています。

Tupac.BioのEli Lyonsさん(中央)と同僚のPaul Sheridanさん(左)とJustin Kovalchukさん(右)。SheridanさんとKovalchukさんは引き続き関東近郊を拠点とし、Lyonsさんは新規事業であるGenomeMinerに取り組むため、同僚であるCharlane Joy Cardosさんとともに沖縄に移住した。

「沖縄に興味を持ったのは、最初に採取した微生物が沖縄のものだったからです。沖縄は日本本土とは異なり、亜熱帯に属しているため、微生物群が異なるのです」とLyonsさんは説明しています。

微生物は、治療薬や工業用酵素など、多くの有用な化合物を生産することが知られています。Lyonsさんは、抗真菌化合物を生産する微生物と、その化合物を生産する遺伝子を特定する例を挙げています。

「これは商業化の観点から非常に興味深い分野です。私たちは、工業化学薬品ではなく、微生物を使って人間と作物の両方から真菌感染症を取り除くことを考えています。合成生物学を利用する利点の一つは、大量の廃棄物を生み出す従来の工業化学的手法よりも、持続可能性が非常に高いことです。」

微生物は非常に小さく数も多いため、99.999%以上の種が未発見であると推定されています。同チームは、微生物を遺伝子レベルで解析するソフトウェアプラットフォームを構築しており、沖縄を拠点とすることを活かして、手始めに沖縄で発見された微生物のデータベースを独自に構築しています。最終的には、同プラットフォームを自動化し、高価値な商品としてさまざまな化合物の特定を目指しています。

OISTの研究室でサンプルを分析するスタートアップ企業Tupac.Bio のCharlane Joy Cardosさん。Tupac.Bioは、新たな事業分野GenomeMinerで2021年度のイノベーションスクエア・スタートアップアクセラレータープログラムの支援を受けている。

Lyonsさんは、これから1年間、プログラムチームやOISTの研究者と協力していくことを楽しみにしています。また、「OISTに来てまだ数週間ですが、すでに評判以上の体験が得られています」  と語り、 最先端設備や施設を利用できることで、自身の研究に最大のメリットが得られると強調しています。

更年期以降の女性のために

オリガ・エリセーバ博士は、女性の健康に統合的なアプローチを提供するプロジェクトで、まもなく会社設立予定の「Menopause and beyond」の代表を務めています。がん免疫学の研究をしていたエリセーバ博士が起業に至った経緯には、個人的な体験があります。

オリガ・エリセーバ博士は、OIST関係者と密接に連携して新規企業「Menopause and beyond」を設立する。

エリセーバ博士は、次のように説明しています。「私自身、数年にわたる更年期を経験しましたが、日本で支援を得るのにとても苦労しました。大半の医師が更年期の教育を受けておらず、それが最初のハードルでした。しかし、文献を調べてみると、まだ知られていないことがたくさんあることに気がつきました。女性の体に何が起こるのか、研究も理解もされていないのです。私は医学教育を受けており、この問題に関する最新の科学的データを入手することができます。このような豊富な知識を持つ私でも、適切な支援を得るのにこれほど苦労しているということは、私のような経歴を持たない何百万人もの女性たちにとっては、不可能に近いはずです。彼女たちはどのような経験しているのでしょうか?適切な支援を得るまでに、どれだけの苦しみをどれだけの時間味わっているのでしょうか?」

2020年10月、エリセーバ博士は、OISTの起業家育成研修の一環として、日本、台湾、韓国などの女性にインタビューを行いました。その結果明らかになったことは、日本をはじめとするアジア諸国では、更年期にまつわる偏見が蔓延しており、女性たちは黙って耐え忍んだり、更年期の現実を受け入れることさえしない場合もあるということでした。また、適切な支援を受けるまでに平均で3年かかっていました。エリセーバ博士は、これは健康上の問題だけではなく、文化的、社会的な問題でもあると考えました。

「この分野では、できることや、やらなければならないことがたくさんあります」と語るエリセーバ博士は、現在、これらの問題に取り組むために会社設立の手続きを進めています。

「更年期の研究や、その時期の女性のためのサプリメントの開発と並行して、更年期以降の女性が生き生きと過ごすための総合的なサポートを提供する包括的オンラインプラットフォームを構築し、コミュニケーションや教育リソースだけでなく、日本各地の専門家ネットワークへのアクセスも提供していきます。私の長期的な目標は、東南アジア全体の女性がアクセスできるような女性の健康に関する研究センターを沖縄に設立することです。」

「Menopause and beyond」のチームは、エリセーバ博士の他に、婦人科医(沖縄で開業している医師)、福岡を拠点とする鍼灸・ハーブの専門家、沖縄の臨床心理士、さらに最近OISTを卒業したサンドリン・ブリエル博士で構成されています。

OISTの研究室でのオリガ・エリセーバ博士(右)とチームメンバーのサンドリン・ブリエル博士(左)。

(ディッキー・ルシー)

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