OIST研究者ら、世界初のサンゴ共生体遺伝子同時解析に成功
サンゴは、褐虫藻などの共生生物がいることで初めてその生命が維持されます。よって、宿主であるサンゴとその共生体の遺伝子情報を同時に解析することは、サンゴ礁の生態系を分子レベルで理解するのに不可欠です。このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)マリンゲノミックスユニットの新里宙也研究員は、東京大学大気海洋研究所の日下部誠助教、井上麻夕里助教とともに、ハマサンゴ共生体の遺伝子解析に世界で初めて成功し、サンゴと褐虫藻は、それぞれ生命の維持に必要なアミノ酸を独自に合成し、またその合成している種類も異なることが分かりました。本研究成果は、2014年1月16日(日本時間)発行のオンラインジャーナルプロス・ワン(PLOS ONE)に掲載されました。
本研究では、沖縄県瀬底島沖(本部町)から採取した塊状サンゴ、ハマサンゴを使用してサンゴと褐虫藻の遺伝子情報を同時に明らかにしようとしました。ハマサンゴは長命で知られ、その骨格の年輪には何百年もの生息環境の記録が刻まれています。そのため、同サンゴは地球化学(geochemistry)の分野で過去の地球環境の変動を調べるのに広く使われています。今回ハマサンゴを生物学的に研究するため、次世代型シーケンサーを使ってトランスクリプトーム解析を行い、ハマサンゴ共生体の遺伝子を特定しました。
ハマサンゴ共生体の遺伝子を解析した結果、7万以上の遺伝子配列が検出されましたが、この内のどれがハマサンゴの配列なのか、褐虫藻のものか、見分けるのが困難でした。そこで、新里研究員らは、過去にOISTマリンゲノミックスユニットを中心とする研究チームが解読に成功したコユビミドリイシとカリブ海の褐虫藻のゲノム情報を利用することで、ハマサンゴと褐虫藻の遺伝子を明確に区別することに成功しました。
また、今回の解析により、サンゴと褐虫藻のアミノ酸代謝における共同作業が垣間見えてきました。植物や菌類、細菌は、成長に欠かせないアミノ酸を自ら合成しますが、例えばヒトでは生命維持に必要なタンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうち、11種類しか体内で合成できず(非必須アミノ酸)、残りは食物から摂取する必要があります(必須アミノ酸)。研究グループがハマサンゴ共生体において20種類のアミノ酸の合成経路を遺伝子レベルで解析したところ、必須アミノ酸の大部分を褐虫藻が、非必須アミノ酸をハマサンゴと褐虫藻の両方が合成できることが分かりました。ハマサンゴと褐虫藻の遺伝子を明確に区別できた結果、サンゴと褐虫藻それぞれがどのアミノ酸を作っているかを世界に先駆けて示しました。
OISTの新里研究員は、「サンゴ礁は宿主と共生体の複雑な共生関係により成り立っています。宿主と共生体全てを一つの生命体としてとらえ、それらを同時に解析しなければ、サンゴの真の姿は見えてきません」と語った上で、「これまでサンゴの共生メカニズムにおいて、宿主であるサンゴと共生体のアミノ酸のやり取りは示唆されていましたが、実際に遺伝子レベルで初めて証明したことになります」と今回の研究の意義を説明します。
地球上の全海域のわずか1%の面積にも満たないサンゴ礁は、全海洋生物のおよそ3分の1の命を育む、地球上で最も生物多様性豊かな場所の一つです。しかし近年、地球温暖化や海洋酸性化などで、サンゴと共生し、サンゴに栄養を供給している褐虫藻がサンゴから抜け出る「白化現象」が起き、サンゴと褐虫藻の共生関係が崩壊し、その結果、サンゴ礁に生息する多様な生物にも影響が及んでいます。今回、研究対象として用いたハマサンゴだけに限らず、サンゴ共生体を遺伝子レベルで理解することはサンゴが外界からのストレスに対して、宿主と共生体は同じメカニズムで反応しているのか、それともそれぞれ違ったメカニズムで反応しているのかなどを調べる上で重要です。今回の研究成果をはじめとして、サンゴと褐虫藻の共生の分子メカニズムの研究が飛躍的に進むことで、サンゴ礁保全という世界的課題の解決に向けた道筋がつくことが期待されます。
本研究は東京大学大気海洋研究所学際連携研究とキヤノン財団 研究助成プログラム「理想の追求」および科学研究費補助金(24241071, 25660172)の一部の助成を受けたものです。
プレスリリース(PDF)を読む。
専門分野
研究ユニット
広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム