2014-05-23

DNA解析でサンゴ礁保全を目指す

 「我々は本気でサンゴ礁を守りたいと考えています」と語るOISTマリンゲノミックスユニットの新里宙也研究員。多様な海の生物を育むサンゴ礁は、現在深刻な危機に直面しています。沖縄のサンゴ礁を守り、将来にわたって存続させるために沖縄県が立ち上げたのがサンゴ礁保全再生事業で、新里研究員は科学者の立場から本事業に参加し、高度な専門知識を提供しています。こうした中、同研究員を中心とするOISTのチームが、サンゴ礁を形成する最も代表的なサンゴであるミドリイシ属の個体を的確に識別できる可能性を秘めるDNA解析の手法を編み出すことに成功し、その成果を学術誌 Frontiers in Marine Scienceに発表しました。ヒトのDNA鑑定によく似たこの手法により、ミドリイシサンゴの多様性および関連性について調べることが可能となり、沖縄近海、ひいては地球上のサンゴ礁生態系の保全に向けた手がかりとなることが期待されます。

 サンゴ礁が世界の海域に占める割合はわずか1%ですが、そこには地球上の海洋生物のおよそ25%が棲息しています。このようにサンゴは多種多様な海洋生物の命を育む重要な生き物であるにもかかわらず、今日危機的状況にあります。その背景に、海水温上昇によってサンゴに栄養を供給している褐虫藻がサンゴから抜け出る白化現象、陸上からの土砂の流出、サンゴを捕食するオニヒトデの異常発生などがあります。サンゴ礁保全再生事業において、移植するサンゴが環境の変化に対して等しく壊滅的な影響を受けることを避けるためにも、サンゴの多様性を増すことが大切です。これには、サンゴの種レベルでの多様性もさりながら、個体レベルでの多様性もまた重要となります。個体の多様性、つまり様々な「個性」を持つサンゴが存在することで、環境変動に対して柔軟に対応できるサンゴ礁を作り出すことができます。

 今回の研究で、新里研究員らはインド洋から太平洋にかけての海域で最も一般的なミドリイシ属サンゴを使いました。ミドリイシサンゴは全部で113種報告されており、紅海からインド洋、太平洋、そしてカリブ海まで広く分布しています。ミドリイシサンゴには大きく分けて4つのグループがあり、最も古いグループはその他から660万年前に分化しました。研究グループは最も遠縁のグループにそれぞれ属する、コユビミドリイシとウスエダミドリイシのゲノム情報を調べ、それらのゲノム上に散在するマイクロサテライトと呼ばれる、特定の塩基からなる繰り返し配列を見つけていきました。マイクロサテライトの繰り返しの回数は個体ごとで大きく異なります。

 次に研究員たちは、コユビミドリイシとウスエダミドリイシのゲノム配列を比較し、両種に共通して見られるマイクロサテライトを同定しました。そして繰り返し配列の両端に結合するプライマーと呼ばれる1組のDNA鎖を設計し、PCRという技術によって調べていきました。2つのプライマー同士の距離は、これらに挟まれた繰り返し配列の回数によって決まり、サンゴの個体それぞれで繰り返し回数が異なることから、マイクロサテライトはDNA鑑定などで個体間の近縁性を調べるのに遺伝マーカーとして利用されています。しかしながら、通常マイクロサテライトマーカーの開発は、それぞれの種ごとに行わなければならないので、時間と費用と労力を伴います。作業の末、新里研究員らは遠縁の2種のサンゴで使用できる14のマイクロサテライトマーカーを開発することに成功しました。これら14のマーカーは、ミドリイシサンゴの中でも最も遺伝的にかけ離れた2つのサンゴで、660万年もの進化の過程でも保存されているので、残りの111種のミドリイシサンゴにも存在する可能性が高い、と研究グループは説明しています。今回の発見で、残りの111種のマーカー作製に要する時間と労力が大幅に省略でき、数多くのミドリイシサンゴの個体識別が可能となるでしょう。サンゴ礁の集団遺伝的研究やその保全が進むことが期待されます。

 本研究は沖縄にとっても大きな意義があります。ミドリイシは沖縄近海のサンゴ礁で最も多く見られるサンゴなので、沖縄県内のサンゴ礁の大部分に本技術を応用することができます。沖縄県では近海のサンゴ礁を守り、再生することに努めてきました。今回の研究成果を活用して、サンゴの植え付けにおいて、遺伝的多様性に配慮したサンゴ再生の取り組みが既に行われています。

 「我々の開発した技術が、サンゴの移植・再生に貢献することを切に願っています」と、新里研究員は期待を込めて述べました。開発されたマーカーは世界中の全てのミドリイシサンゴに利用できることが期待されます。本研究により、かけがえのないサンゴ礁生態系を地球規模で守っていくための道が開かれたと言えるのかも知れません。

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(名取 薫)

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