古典と最新の理論とを結びつける量子的なつながり

古典的なトイモデルと量子重力理論とのつながりが、研究で明らかになりつつあります。

 関係性というのは複雑です。そこには領域の境界、未知なるもの、そして多くの物理学が関わっています。通常は関係性を考えるとき、物理法則が重要な役割を果たすとは誰も考えませんが、この研究においては重要です。

 この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)量子理論ユニットの博士課程の学生、ハン・ヤンさんは、過去と現在の理論をつなぎ合わせ、重力と物質の古典的なフラクトン状態との関係を明らかにしました。本研究は、2019年4月15日付のPhysical Review Bに掲載され、編集者により高い評価を受けたことの証である「エディターズ・サジェスチョン」にも選ばれました。

 ヤンさんは、砂時計のような形状をした負曲率空間にあるトイモデルを使用しました。「フラクトン状態」と名付けられた、物質の新たなエキゾチックな状態を提供できるこのタイプのモデルには、近年、科学者らの関心が集まっています。ヤンさんは、このフラクトンモデルが、ホログラフィーの性質を満たしていることを突き止めました。これは、フラクトンモデルが重力による情報の伝播を模倣している可能性を示しています。

 ホログラフィーは、高次元と低次元の物理法則の双対性を持っています。高次元空間には重力があり、ブラックホールやその他のエキゾチックな重力効果が存在します。低次元空間では重力が存在せず、従来の量子力学のみが働きます。

 ヤンさんは以下のように説明しています。「ホログラフィーは、重力がもっている驚くべき特性のひとつです。量子重力は、重力のない境界上に存在するシステムと等価です。 量子重力とブラックホールを理解することは非常に難しいですが、ホログラフィーの助けを借りれば、この境界の等価性を研究することができます。」

 研究においてヤンさんは、フラクトンモデルを曲がった空間に置いてみました。この空間ではホログラフィーが重力に対して有効に機能しますが、このホログラフィーの特性が、フラクトンモデルに対しても機能するかどうかを確認したのです。

 1600年代後半、アイザック・ニュートン卿が重力を発見し、理論物理学者や科学者らは、私たち全てに影響を与えるこの重力を研究することになりました。この分野の技術と理解が進むにつれ、そのような理論を理解する際の謎解きは、大変な作業です。

 「量子重力を理解する上で、ホログラフィーは非常に重要です」とヤンさんは説明します。「ブラックホールの量子効果のおかげで、重力を理解するのは非常に難しいです。ただし、重力が通常の量子力学システムと等価であることを知っていれば、多くの道が拓けます。」

 ヤンさんが使っているトイモデルは非常に単純ですが、最も本質的なホログラフィー特性を示すことがわかりました。しかし、単純であるということが簡単であるとは限りません。このモデルを曲がった時空に置いた時に物理的意味を持たせることは難しいのです。ヤンさんはこのモデルを、まず四角形が平らに並んだ格子状空間で考えていました。 次に曲がった空間に五角形の格子を導入し、それらの五角形がスピンする時に格子の色が変わっていく様子を考えました。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)量子理論ユニットの博士課程学生、ハン・ヤンさんの論文が。研究においてヤンさんは、フラクトンモデルを曲がった空間に置いてみました。この空間ではホログラフィーが重力に対して有効に機能しますが、このホログラフィーの特性が、フラクトンモデルに対しても機能するかどうかを確認したのです。

 シンクロナイズドスイミングの選手たちが曲がった水面の上で五角形の格子のようにならんで泳いでいるとしましょう。選手が隣にいる他の選手と常にシンクロして向きを変えると、その様子は重力が情報を伝達するのと同じ動きになります。

ハン・ヤンさんが最近の研究で使った双曲線格子。 各格子は、重力を模倣しながら、集合的に状態を変化させる五角形を示す。

 「これは、曲がった時空に多体系を配置することで重力を模倣することができた世界で初めての研究です。私にとって、フラクトンモデルが重力を模倣できるという事実は、最も重要な部分です。まだまだこの分野の研究の道のりは長いものではありますが、研究室で重力をシミュレーションできる可能性が出てきたということは、素晴らしい成果が得られた、と感じています。 」と、ヤンさんはコメントしています。

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