2018-10-30

うつ病の3つのタイプを同定

  世界保健機関(WHO)によると、世界中で約3億人近くの人々がうつ病に罹患しており、しかもこの割合は上昇傾向にあります。しかしながら、この疾患を引き起こす原因については、まだ多くが未解明で、一般的な抗うつ薬が効かない患者もいます。

  この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の神経計算ユニットの研究者らは、奈良先端科学技術大学院大学の研究者と広島大学の臨床研究医との共同研究で、うつ病の3つのサブタイプを同定することに成功しました。さらに、これらのサブタイプのうちの1つが、最も一般的に処方される抗うつ剤である選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)による治療が難しいことを発見しました。本研究はScientific Reports誌に掲載されました。

  セロトニンは、私たちの精神状態や、睡眠パターン、記憶などに影響を及ぼす神経伝達物質です。SSRIは、脳内のセロトニンレベルを高めることで効果を表すと考えられています。しかしこれらの薬剤は、誰にでも同じ効果があるとは限らず、服用しても改善されない人もいます。「さまざまなタイプのうつ病が存在し、タイプによって薬物の有効性に影響があるのではないかということは、今日に至るまで推測されてきました。しかし、この考えに対しての一致した見解はありませんでした」と、OISTの銅谷賢治教授は説明します。

  本研究では、新たにうつ病と診断された患者及び健常者、各々67人、計134人の被験者を対象とし、問診調査と血液検査により、臨床的、生物学的研究および生活経歴についてのデータを収集しました。問診では、睡眠のパターン、ストレス経験や、その他の精神・健康状態について質問を行いました。

  さらに研究者らは、磁気共鳴イメージング(MRI)を用いて被験者の脳をスキャンし、脳の様々な領域の活動パターンを解析しました。脳全体を78の領域に分けて、異なる領域における脳の活動がどのように相関しているかを解析しました。「今回の研究は、個人の経歴とMRIのデータから、うつ病のサブタイプの同定に成功した初の研究です」と、銅谷教授は話します。

  分析するデータの種類は個々人の過去におけるトラウマ経験の有無を含め、3000以上にのぼりました。これまで研究者は、こうしたビックデータを正確に分析する手段を持ち合わせていませんでした。「この研究の主な課題は、同類の被験者をクラスタリング(グループ化)するため、関連する情報を抽出できる統計ツールを開発することでした。」と、本研究の筆頭著者である統計学者の徳田智磯博士は語っています。徳田博士は、統計的に意味のある被験者グループの分け方と、それぞれの分け方に関連するデータ項目を検出する新たな手法を開発しました。研究者らは本手法を用いて、個人の精神的健康状態を評価するのに重要な特質と関連するデータ項目の同定に成功したのです。そのデータ項目には5つの被験者クラスタがあり、そのうち3つはうつ病の異なるサブタイプを表すことが判明しました。

  うつ病の3つの異なるサブタイプは、脳の異なる領域間で機能的結合と呼ばれる同期的な活動パターンおよび、小児期のトラウマ経験の有無という、2つの主要因によって特徴づけることができました。特に、言語や数字、空間認知、注意能力、その他の認知面の処理に関わる「角回」と呼ばれる領域を含む脳領域の機能的結合が、うつ病治療の際にSSRIが効果的かどうかを決定づける大きな役割を果たしていることがわかりました。

  小児期にトラウマを経験しており、これらの脳領域間の機能的結合度が高まっている患者は、SSRI抗うつ薬による治療に反応しないサブタイプのうつ病に属することが判明しました。一方、その他の2つのサブタイプのうつ病患者、すなわち、これらの脳領域間の結合が増加していない場合、もしくは小児期にトラウマを経験しなかった患者では、SSRI抗うつ薬を用いた治療によく反応する傾向がありました。

3つの異なるうつ病のサブタイプ同定に初めて成功した研究

D1:脳の特定部位の高い機能的結合と小児期のトラウマ経験の両方を持つサブタイプ

D2:脳の特定部位の機能的結合度が高く、小児期のトラウマがないサブタイプ

D3:脳の特定部位の機能的結合度が低く、小児期のトラウマがないサブタイプ

 

提供: 
Neural Computational Unit, OIST.

  本研究では、うつ病のサブタイプを初めて同定するだけでなく、いくつかの潜在的要因を特定し、新しい治療法を探求する必要性を指摘しました。銅谷教授は、「本研究は、うつ病の神経生物学的側面の研究を進めるにあたり、有望な方向性を科学者に提供する研究です。」と、語っています。教授と研究チームは、精神科医とセラピストが正確な診断を行い、患者をより効果的に治療するのに、本研究結果が役立つことを願っています。

本研究に携わったOIST研究者の徳田智磯博士(左)と銅谷賢治教授(右)。

(ヘルレカル・イプシタ)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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