パイプラインの中で:流体における 130年来の疑問の解決に向けて

物理実験の教科書にも掲載されている、ある複雑な流体力学の現象に光をあてました。

  水道の蛇口をひねったことのある人なら誰でも、なんらかの流体力学の知識を持っていると言えます。 家庭用配管であれ産業用の石油やガス輸送のためのパイプラインであれ、配管を流れる流体は、速度が遅い時はスムーズに流れ、速度の速い時はより乱雑な流れとなります。

  130年以上前に、英国の物理学者で技術者でもあったオズボーン・レイノルズは、遅い速度の流体の流れを、一方向にスムーズに流れる「層流」と表現し、速い速度の流体の流れは、圧力やエネルギーが乱れるという意味で、「乱流」と表現しました。そうしてレイノルズは、 流体が流れる速度と流体とパイプとの間に形成される摩擦との関係を説明する一連の方程式を構築しました 。

 

オズボーン・レイノルズ の 1883年の論文に掲載されている図。異なるタイプの流体における摩擦測定に使われた装置の隣にレイノルズの助手が立っている。

  技術者たちは今日でも、 液体や気体がパイプを流れる際に摩擦によってエネルギーがどのくらい減損するかを計算する際、レイノルズの「抵抗の法則」を使用します。しかしながら現在でも、1つの謎が未解決のままです。それは、層流から乱流に遷移する流れには何が起きるかという問題です。

  「この遷移する流れでは、摩擦力は識別可能なパターンで変動しません。」と、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のローリー・サーバス博士は語ります。現在に至るまで、遷移する流れである「遷移流」の摩擦の法則は知られておらず、このタイプの流れでは、摩擦力やエネルギー損失を計算することは困難だったのです。

 そこでこの度、流体力学ユニットのサーバス博士らと 連続体物理学研究ユニットでは 、この130年来の難問に、驚くほどシンプルな解決策を見出しました 。「遷移流では、多くの流れの状態が混在するように見えるかもしれませんが、すべて 既知の法則によって特徴づけることができ、根本的な問題を簡単に解決してくれるのです。 」と流体力学ユニットを率いるピナキ・チャクラボルティ准教授は説明します。

 

層流、乱流および遷移流の違いについて説明するサーバス・ローリー博士。 図で示されているように、今回研究対象の遷移流では、滑らかな流れと混沌とした流れが間欠的に連なっている。

  遷移流では、パイプラインに沿って異なる種類の流れが、間欠的に交互に連なっている事が知られています。 遷移流における摩擦測定の標準的手法では、 これら間欠的な流れが単純に一緒にされてしまっています。

 

遷移流での滑らかな流れと混沌とした流れの間欠的な連なりが描かれているオズボーン・レイノルズの1883年発表の論文に掲載された図。サーバス博士らは、これらのタイプの異なる流れを個別に分析して遷移流を研究するという新手法を試みた。

  そこでOISTの研究者らは、滑らかな流れと混沌とした 流れを 別々に分析しました 。 20 メートルのガラス製パイプに水を流し、そこに微粒子を入れてレーザー照射をすることで、流れの速度を測定しました。これにより、遷移流で交互に存在する滑らかな流れと混沌とした流れを、明白に識別することができました。その後研究者らは、 圧力センサーを用い、個々の流れにおける摩擦力を測定しました 。

 

ガラス管を照射するレーザーを用いて、管内の流水速度を測定。

  「私たちは、毎年世界中で何千人もの工学部に在籍する大学生が行う、教科書にも載っている実験を繰り返しました。基本的に同じツールを使用しましたが、流れを層流と乱流で別々に分析するという、決定的に異なる手法を用いました。」と、Physical Review Letters に掲載された本論文筆頭著者のサーバス博士はコメントしています。

  一見すると、遷移流は複雑に見えますが、滑らかな流れの部分は層流における抵抗の法則と合致しており、混沌とした流れの部分は乱流における抵抗の法則と合致しています。従って、 レイノルズが構築した抵抗の法則を用い、遷移流も研究することは可能なのです。

  流体がパイプラインを遷移流として通過する際、ポンプを用いて送り出するために必要なエネルギー量を理解できれば、石油精製所などの産業現場において、エネルギーの無駄を最小限に抑え、効率の向上に役立てることができます。

  「複雑な現象もよくよく観察すると、シンプルな法則が実は隠れているということは、よくあるのです。」と、チャクラボルティ准教授は、コメントしています。

 

研究ユニット

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