2017-03-31

シャボン玉の不思議:キルヒホッフ・プラトー問題を解く

   子どもの遊びやアート・パフォーマンスなどでおなじみの光り輝くシャボン玉は、はかなく、数秒もすると弾けてしまう薄い膜です。しかし、このシャボン玉には表面積を最小に保とうとする性質があり、遊びの域を越えて シャボン玉は、極小曲面という数学的問題の物理的な具体例になっています。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究員らは、柔軟性のある枠に張られた石けん膜を用いて、キルヒホッフ・プラトー問題と呼ばれる数学の問題を解き明かす手法を見い出しました。

   「今回キルヒホッフ・プラトー問題に挑んだことで、現実の物理世界で起こる事象に近い、美しい数学的結論を導き出したと言えます」と、この度Journal of Nonlinear Scienceに掲載された、本研究論文の共同著者であるジュリオ・ジュステリ博士が説明します。本研究には、OISTソフトマター数理ユニットを率いるエリオット・フリード教授およびイタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学のルカ・ルサルディ博士とともに取り組みました。

   チームが導き出した答えは、何百年も前の数学問題で、19世紀のベルギー人物理学者ジョセフ・プラトーにちなんで名付けられた「プラトー問題」の変形型です。プラトーは、変形しない堅い針金の枠を石けん液の中に浸し引き上げると、枠の形にかかわらず、石けん膜は面積が最小となるような表面を形成する、という仮説を立てました。

   最初にプラトー問題を解いてみせたのは、20世紀のアメリカ人数学者のジェシー・ダグラスで、彼はその功績により1936年にフィールズ賞を受賞しています。近年では、2015年、カリフォルニア大学バークレー校のジェニー・ハリソン教授とストーニーブルック大学博士課程学生のハリソン・ピューさんが、ダグラスの研究成果をさらに広げ、例えば、複数の石けん膜が交わるところには結合点が発生する、というような一般的な仮説を含んだ、確たる根拠を証明しました。

金属の針金にかかる石けん膜には、複数の石けん膜が交わるところで接合点ができる。  2015年、カリフォルニア大学バークレー校のジェニー・ハリソン教授とストーニーブルック大学博士課程学生のハリソン・ピューさんがプラトー問題に関する研究を重ね、このように、より複雑な石けん膜の形の説明が可能になった。

   堅い枠の中にできる石けん膜に着目したプラトー問題とは対照的に、キルヒホッフ・プラトー問題では、例えば、キルヒホッフのロッド(輪)の理論を用いて、釣り糸などを使った柔らかい枠の中にできる石けん膜の平衡形状について、説明することが可能になりました。なおこのロッド理論は、細く柔軟なロッドの力学の研究において使われる、強力なモデルのひとつです。キルヒホッフ・プラトー問題の複雑な点は、石けん膜からの力が柔らかい枠を 変形させてしまうことです。この問題を解くには、石けん膜の形に加え、枠の形も同時に決定する必要があります。それに比べ、オリジナルのプラトー問題において、石けん膜の力では堅い枠は変形しません。

柔らかい枠の中にできる石けん膜は、枠に対して力を加えその形を変形させます。例えば、同じ形の枠でも、石けん膜の表面張力により星形にも白鳥の形にも変形する。

   キルヒホッフ・プラトー問題を扱う上でもう一つ複雑なのは、接点が一次元であると仮定されるオリジナルのプラトー問題とは異なるという点です。キルヒホッフ・プラトー問題は立体型です。釣り糸のような繊維は細く見えますが、平衡形状にある石けん膜より何桁も分厚く、石けん膜の表面積はその膜がどこで枠に触れるかによって変わってくるのです。

研究員らは、これら物理的作用を数学的に理解する方法を見いだすことに成功しました。「石けん膜の表面張力と枠の変形する力がどんなに強く競い合っても、常に最小のエネルギーの形を作り出すよう調節されることが証明されています」と、フリード教授は説明します。

   キルヒホッフ・プラトー問題に対する今回の証明は、数学的な形状を最小限にするエネルギーについて理解することにつながるだけでなく、生物学的な仕組みを解明するのにも有力なものとなり得ます。例えば、タンパク質の形状が、どのように他の物質の表面と影響し合い、結合するかを理解することが可能になります。

   研究チームは現在、この数学モデルに基づくコンピューターシミュレーションを行い、物理的な対象物の振る舞いを予測できるかの研究を続けています。

(左から)ジュリオ・ジュステリ博士、OISTソフトマター数理ユニットのエリオット・フリード教授、サクロ・クオーレ・カトリック大学数学物理学部のルカ・ルサルディ博士らがキルヒホッフ・プラトー問題を解いた

 

(キーナン・グレタ)

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