2014-04-11

進化の現場を見る:ロボットを用いた行動戦略の進化の研究

 OIST神経計算ユニットがこのほど、ロボットを使って進化のしくみに迫る論文を発表しました。銅谷賢治教授率いる同ユニットに所属するステファン・エルヴィング研究員が、サイバーローデントと呼ぶネズミ型ロボットのコロニーを用いてさまざまな交配戦略の進化について調べたもので、論文はオンラインジャーナルのPLOS ONEに掲載されました。この研究は、予想外の興味深い結果を生み出しただけではなく、進化に関する研究にロボットを用いることの有用性を示す結果となりました。

 動物は、雌雄それぞれが交配相手を引きつけ選ぶための戦略を持っています。進化の理論からは、通常ある集団内にはひとつの表現型のみが存在することが示唆されます。なぜなら、自然淘汰の作用によって最良の戦略だけが生き残るからです。しかし、実際の自然界には多様な交配戦略がみられ、ひとつの集団内にも複数の交配戦略が存在しています。これらの異なる交配戦略がどのようにして進化したのかについて、進化生物学者らの間で論議されていますが、このような行動の進化を、複雑な生物の生きている集団で研究することは極めて困難です。そこでエルヴィング博士は、ロボットとコンピューターシミュレーションを用いることにより、1,000世代にわたって起こる進化の過程を短期間のうちに観察することに成功しました。生きた動物では、このような観察を行うことは不可能です。そのため、集団内での多様な行動戦略の進化の解明のために、ロボットを用いた研究が注目されています。

 エルヴィング博士が使ったロボット「サイバーローデント」は、移動のための車輪、電池や他のロボットを見つけるためのカメラ、電池から充電するための接点、そして赤外線通信によりプログラムの動作を決める数値をコピーし合う、つまり「遺伝子」を交配するための機能を持っています。このロボットは、電池を探して充電する、交配相手を探して交配するという2種類の基本的な行動を実行することができます。計算機シミュレーションにより1,000世代にわたる進化の実験を行った結果、電池と交配相手の背が見えるという状況で、2つの主要な交配戦略の表現型が現れました。一方は、餌を探すだけで相手が振り向くことを待たない「貪食型」であり、交配可能な相手に直面しなければ交配しませんでした。他方は、相手が振り向いて交配するのを待つ「好色型」でした。70回の実験のうち、複数回で多様な集団が形成されました。さらに、2つの表現型の比率を様々に変えた実験で、貪食型が25%、好色型が75%の比率の時に2つの交配戦略が安定に存続するという興味深い結果が得られました。

 明らかに異なる2つの交配戦略が進化したことは、自然界でみられる現象に類似しています。実験によっては、集団内で単一の戦略しかとらないものもありましたが、ロボットの繁殖率は多様な戦略をとる集団が形成された実験で最大でした。これは、このような異なる交配戦略が一定の比率で存在することによって、増殖の可能性が高まることを示しています。

 エルヴィング博士は、この研究の将来に大きく期待しています。「今回の実験で使用したロボットは雌雄同体で、すべてのロボットが交配し、子孫を残すことができました。次の段階ではロボットが繁殖において異なるリスクとコストを担い、雌と雄のような役割を持つようになるかを検討したいと考えています。貪食型と好色型という2つの戦略においてみられた行動は、雌雄分化の前兆である可能性があります。」エルヴィング博士の洞察と銅谷教授率いるユニットによるロボットに関する研究のおかげで、進化の複雑なプロセスを理解し、より良い方法でこれを研究することが、かつてないほど現実的なものとなりました。

PLOS ONEに掲載された論文は、下記リンク先よりお読みいただけます。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0093622

(エステス キャスリーン)

(エステス・キャスリーン)

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