抗体検査
OIST生体分子電子顕微鏡ユニットのマティアス・ウォルフ准教授が率いる研究チームは、COVID-19を引き起こすコロナウイルスSARS-CoV-2の特定抗体の有無を検出可能な血液検査を開始しました 。
Updated October 15, 2020
OIST学内抗体検査結果の公表
2020年8月、OISTは、職員・学生全員を対象に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体を分析するための血液検体の提出を呼びかけました。約1200人のうち635人が参加した分析の結果、これらの検体のいずれにもCOVID-19の抗体がないことが判明し、medRxivのプレプリントサーバーに論文が投稿されました。
「結果は、ほぼ間違いなく、検体提供者の中にウイルスに感染した人がいなかったことを示すものです。今後もキャンパス内外でCOVID-19ガイドラインを遵守することが望まれます」と、OISTのプロボストでウイルス学者のメアリー・コリンズ博士はコメントしています。
コリンズ博士は、OISTで確立された抗体検査は非常に感度が高く、かつ特異的であることを強調しています。4月にPCR検査でCOVID-19の陽性が確認された沖縄県民のサンプルを用いたところ、陽性の結果が確実に得られました。この抗体検査は2段階のプロセスで行われており、世界中で行われている他の多くの抗体検査よりもはるかに精度が高いことを意味しています。

「ボランティアの検体検査をすることは実に有益なことであり、課題についてのアイデアを得ることができました。現在の計画では、本年度中に沖縄のコミュニティの6,000人を検査することになっています。これにより、沖縄でどれだけの人が感染しているかを知ることができます」と、コリンズ博士は説明しています。
OISTの産業医である田原裕之医師は、抗体検査の結果が出ても、OIST職員らの行動様式は変えてはならないと話します。「マスクの着用、こまめな手洗い、社会的距離を置くなど、新たな日常におけるガイドラインを守り続けてください。ワクチンが広く利用できるようになるまではそれは変わらないでしょう。」
このプロジェクトを監修した生体分子電子顕微鏡解析ユニットのマティアス・ウォルフ准教授は、さらに以下のように付け加えています。「この病気に対する抗体を誰も持っていなかったという検査結果をOISTメンバー全員に知ってほしいです。このことは、健康衛生ガイドラインに従う必要性を強調する点で非常に重要です。」
Updated October 15, 2020
OISTの抗体検査に関わる科学および異分野間の学際的取り組みについては、ウェブ記事「学際的アプローチにより実現したOIST抗体検査」をご参照ください。
2020年5月8日更新
OIST生体分子電子顕微鏡ユニットのマティアス・ウォルフ准教授が率いる研究チームは、COVID-19を引き起こすコロナウイルスSARS-CoV-2の特定抗体の有無を検出可能な血液検査を開始しました 。
現在感染している患者のウイルスからRNAを検出するPCR検査とは異なり、この血液抗体検査は以前ウイルスに感染した人を特定するため使用されます。新型コロナに対する特定の免疫反応は、ウイルスが消失した後も比較的長い期間、検出が可能です。ただし、免疫が持続的かどうかはまだ不明です。
OISTで使用される抗体検査は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)と呼ばれるものであり、ニューヨークのマウント・シナイ・アイカーン医科大学のクラマー研究室で最初に開発・検証されたものです。
「この抗体検査は、抗原として機能するスパイクタンパク質と呼ばれるSARS-CoV-2ウイルス表面の一部を使用しています。新型コロナウイルスに感染すると、免疫系が抗原に反応し、タンパク質の表面に結合できる特異的抗体ができます。」とウォルフ教授は説明します。
「抗体検査では、血清を結合抗原にさらします。特異的抗体を含んだ感染した人の血清は、抗原に結合します。 一連の段階で、結合する抗体の量を検出できるため、その人がCOVID-19にかかったかどうかを判断できます。」
本抗体検査を開始するため、スタッフサイエンティストのテギュン・キム博士とジェギョン・ヒョン博士は、博士課程学生であるヨンコン・キムさんのサポートを得て、クラマー 研究室から提供された遺伝子構造からスパイクタンパク質の成分を作って精製しました。 コロナウイルスに特徴的な「クラウン」形状を持つスパイクタンパク質は、ウイルスが宿主細胞への侵入を可能にするための鍵です。

また、博士研究員のメリサ・マフューズ博士は、検査のセットアップを担当しています。現在、チームは抗体検査を検証するため、対照実験(ポジティブコントロール)のサンプルを待っているところです。
OISTのその他の研究ユニットも現在、抗体検査をさらに改善するために共同研究をしています。 サクニクテ・トレド・パティノ博士は、パオラ・ラウリーノ准教授が率いるタンパク質工学・進化ユニットの博士研究員であり、大腸菌を使用した抗原生産の最適化を目指しています。
一方、ピナキ・チャクラボルティ教授が率いる流体力学ユニットの技術員、クリスチャン・ブッチャーさんは、日々の検査能力を拡大するため、検査プロセスの自動化に取り組んでいます。 現在、OIST研究者らは毎日約1,000のサンプルをマニュアル作業で検査することができます。

「最終的には、COVID-19の蔓延を完全に理解するため、沖縄のコミュニティの皆さんをこの検査を用いてスクリーニングし、政策決定に役立てることを期待しています。」と、ウォルフ准教授は語っています。
本研究技術については、沖縄県の医療関係者らとの対話がなされ、沖縄県は6,000人の住民のパイロットスクリーニングを要請しています。