2016-08-09

オキナワモズクの全ゲノム解読-モズク養殖・産業利用にむけて

 沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村)と、沖縄県水産海洋技術センター(沖縄県糸満市)などは、沖縄で養殖が盛んなオキナワモズク※1のゲノム(全遺伝情報)解読に初めて成功しました。その結果オキナワモズクのゲノムは他の褐藻※2に比べて小さく、遺伝子数も少ないことが明らかになりました。また、褐藻に特徴的なヌメリ成分に多く含まれ、健康機能性が報告されている多糖類※3のひとつ「フコイダン※4」 の合成に関わると考えられる遺伝子の一部が融合していることが明らかになりました。オキナワモズクのゲノム情報を利用することにより、モズク類の養殖技術 や新品種の開発・改良、フコイダンなどの成分の生合成メカニズムの理解、褐藻全体の進化プロセスの解明につながることが期待されます。本研究成果は、日本 時間2016年8月9日発行の英国の科学雑誌DNA Researchに掲載されました。

研究の背景と経緯 

 春から初夏にかけて旬を迎えるモズク。秋から冬の時期にかけてモズクの種(盤状体)を養殖網に種付けし、冬の海に広げて成長させること約4ヶ月、ようやく収穫の時期を迎えます。

海で養殖されているモズク

海で養殖されているモズク(伊是名島)

(撮影:須藤裕介)

 日本国内で養殖されるモズクの 99%以上は沖縄県で生産されており、その9割以上はオキナワモズクです。沖縄県ではモズクの大量養殖技術の確立に成功し、重要な水産品の一つとなってい ます。2006年にはオキナワモズクの生産量は年間約2万トン、出荷価格ベースの市場規模は約50億円に達しました。しかしながら2010年には生産量が 1万トンを下回り、その後は1万トンから2万トンの間で変動しながら推移しています。生産量を変動させる主な原因は、冬場の日照不足などといった天候の影 響ではないかと考えられています。オキナワモズクの生産を安定させることは喫緊の課題となっています。

 さらにオキナワモズクを含む褐藻類は、海洋での生物の棲家となる藻場を構成し、沿岸域生態系の最も重要な要素となっています。つまりモズクを含む褐藻について知ることは、藻場に生息する生物の多様性を保護することにもつながります。

 オキナワモズクの養殖技術向上のためには、まず、オキナワモズクがどのような生物であるかを詳しく知る必要があります。ゲノムはすべての遺伝情報が詰め込ま れた、生物を知る上で欠かすことのできないものです。しかしながら、オキナワモズクなどの褐藻を含む藻類のゲノム情報は、わずかしか解読されていません。 そこで研究チームは、その第一歩として、オキナワモズクのゲノム解読に取り組みました。

研究手法と成果 

 研究チームはOISTの次世代型シーケンサーを駆使して、オキナワモズクのS株5(品種名: イノーの恵み)の全ゲノムを解読することに成功しました。褐藻綱ナガマツモ目の生物において、初めてゲノム解読がなされた種となります。その結果、以下のことが明らかになりました。

  1. オキナワモズクは比較的小さなゲノム

 解読の結果、オキナワモズクのゲノムの大きさは1億4000万塩基対であり、その中に13,640個の遺伝子があることを突き止めました。これまでに褐藻の 仲間でゲノムが解読されている、シオミドロとマコンブの、それぞれ2億1400万塩基対(遺伝子数16,256個)、5億4500万塩基対(遺伝子数 18,733個)よりも小さいことが明らかになりました。コンパクトなゲノムを持つオキナワモズクは、以下の利点があると考えられます。

  • 今後、オキナワモズクの他の株を調べていく時に解析量が少なくてすむ。
  • 同じ機能をもつ遺伝子(遺伝子コピー)が少なく、各品種を特徴付ける遺伝子同定が容易である。

 これらの事実を利用することにより新品種開発を加速化させることができるだけでなく、今後の遺伝子研究を行う上で実験モデル生物として便利に活用できる可能性があると言うことができます。

  1. フコイダン生合成に関与する遺伝子の一部が融合

 フ コイダンはモズク、ワカメ、コンブなどの褐藻のみが持つ多糖類の一種であり、その健康への効果が近年注目を集めています。モズク類はその中でも特に多くの フコイダンを含んでいることが知られていますが、これまでその理由はよくわかっていませんでした。本研究により、オキナワモズクではフコイダン合成に関与 すると考えられる二つの遺伝子が一つに融合しており、さらにその隣にフコイダン合成の最終ステップに関与しそうな遺伝子が並んで存在することが明らかにな りました。共同で働く遺伝子が並んで存在することは、微生物ゲノムでよく知られています。この遺伝子領域を比較解析することにより、モズク類がフコイダン を豊富に作れる理由を明らかにすることができる可能性を示唆しています。

 

今回の研究成果のインパクト・今後の展開 

 本研究を行った、OISTマリンゲノミックスユニット海藻研究チーム(將口栄一グループリーダー)の西辻光希研究員は、「今回の研究により、モズク研究の 第一歩が踏み出されました。沖縄特産の海藻のゲノム解読が、ここ沖縄で行われたことは非常に意味があります。この研究の成果によって沖縄県でのモズク養殖 に貢献するだけでなく、日本国内でのモズク研究を沖縄からリードしたいと思っています。」と述べています。沖縄県恩納村瀬良垣漁港に今年新たに設置された OISTマリン・サイエンス・ステーションも活用することにより、短期的な視点と長期的な視点の両方から、ゲノム情報を用いたモズク類の養殖技術の改善や 品種改良を行いたいと考えています。さらにはモズクを含む褐藻全体の進化の謎に迫りたいと考えています。

 県水産海洋技術センターでモズク 養殖やモズク株の専門家として活躍する岩井憲司主任研究員は、「沖縄のモズク養殖現場における最大の課題は生産を安定させることです。生産が不安定な要因 は環境の影響が大きいと考えられていますが、今後はモズクの交雑技術開発に取り組み、様々な環境に対応できる品種育成を進める計画です。今回解読されたモ ズクの全ゲノム情報は、交雑した株を客観的に判断する技術として有意義に活用できると期待しています。また、モズクにはフコイダン等の機能性成分が含まれ ていますが、ゲノム情報から機能性成分を高含有する株を選抜する可能性も考えられ、モズクの付加価値向上への期待も広がります。」と、本研究成果に基づい て沖縄県からさらに優れた水産品が生まれることへの期待を高めています。

 

用語説明 

※ 1 オキナワモズク:褐藻綱ナガマツモ目ナガマツモ科に属する食用の海藻であり、日本で食用にされている6種のモズクのうちの一つ。1970年代に沖縄で 養殖技術が確立された。その生活環には無性世代と有性世代がある。食品として利用される一方、その成分を抽出したサプリメントなどの製造原料としても利用 されている。オキナワモズクは、褐藻綱ナガマツモ目に属する生物としては世界で初めてゲノム解読された。

※2 褐藻:モズク、ワカメ、コン ブ、ひじきなどの海藻が属し、クロロフィルやフコキサンチンの影響により、一般に褐色を示す特徴がある。進化的に最も新しい海藻類と考えられており、これ までに約300属2000種が記載されている。うち日本では約120属400種が報告されている。

※3 多糖類:生物が作り出す物質の一種であり、繊維、化粧品、食品や医療など様々な分野で使用されている。モズクの粘性を生み出す物質でもあり、アルギン酸やフコイダンが含まれる。

※ 4 フコイダン:ポリフコースの主鎖に硫酸基、ウロン基などが結合した多糖類の総称。この十数年に生理機能が研究された結果、抗血栓作用、抗炎症作用、抗 ウイルス作用、免疫調節作用などが報告されて、現在も研究が行われている。最近は創薬や栄養機能食品、化粧品の分野など幅広く使用されている。

※ 5 S株:品種名「イノーの恵み」。2008年、特異的に長く生長していた野生のモズク藻体を沖縄県海域で発見し、沖縄県水産海洋技術センターでその株の 単離培養を行った。この株を用いて養殖試験を行った結果、形質の再現性が確認できたことから、品種登録制度に出願し、平成27年9月29日付けで「イノー の恵み」としてナガマツモ目ナガマツモ科の海藻としては初めて承認された。

 

  • プレスリリース(PDF)