沖縄にとってOISTとは?~未来を担う世代に対して~

OISTは様々な地域社会での教育活動を通じて沖縄の若者に積極的に投資し、若者たちの未来の選択肢を広げるための支援をしています。

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)設立10周年の節目にあたり、学長のピーター・グルース博士が、経済・教育・環境・健康の4つのテーマにおけるOISTと沖縄社会とのつながりについて振り返ります。 

日本の最南端に位置する沖縄県は、紺碧の海とビーチに囲まれ、世界でも抜きん出た健康長寿の場所として知られ、県民幸福度が最も高いという調査結果もあります。「楽園」と言うにふさわしい場所ですが、一方で、経済格差や教育格差の問題も抱えています。

OISTのピーター・グルース学長は、次のように述べています。「沖縄は日本の他の地域と比較すると子どもの貧困率が高く、その結果、高等教育を受ける若者の割合も本土より低くなっています。中でも大学で理系科目を専攻する若者の数は顕著に少ない状況です。」

この課題には多くの要因が複雑に絡んでおり、容易に解決できるものではありません。

グルース学長は、沖縄県、政府、地元の教育関係者と協力し、その解決に貢献したいと考えています。「OISTが沖縄のためにできることはたくさんあります。その中で最も重要なことの一つは、質の高い科学教育プログラムなどのアウトリーチ活動を通じて若い人たちの科学への関心を高め、高校卒業後の進学の意志を持ってもらうことです。この取り組みは、既に始まっています。」

設立以来10年にわたり、STEM(科学・技術・工学・数学)の分野で、沖縄の児童生徒に刺激やアドバイスを与える様々な取り組みを行ってきました。OISTのキャンパス見学では、例年約4,000人の小中学生や高校生が研究者と交流します。また、OISTの代表的なオープンキャンパスイベントである「サイエンスフェスタ」を年に一度開催しています。家族連れを対象としたこのイベントでは、ロボットのダンスや液体窒素を使ったアイスクリーム作りなどを紹介し、子どもたちに科学の面白さを伝えています。このイベントでは、一日に約5,000人がキャンパスを訪れます。

OISTで最も長く続いているイベントの一つが、「SCORE! サイエンス in オキナワ:起業のための研究能力 サイエンス・フェア」、略してSCORE!です。これは、2012年から在沖米国総領事館と共同開催しているイベントです。年に一度のこのコンテストでは、沖縄県内の高校生が起業家精神に基づいたユニークな研究アイデアを発表します。ビジネス、科学、英語のスキルを育成することを目的としており、優勝チームには米国への研修旅行やOISTでのインターンシップの機会が提供されます。

OISTはまた、女子学生のSTEM分野への進学を促す取り組みにも力を注いできました。「日本はSTEM分野におけるジェンダー平等において、OECD加盟国の中で最下位に位置しています。多くの女性の可能性を逃しているのです。OISTは、アウトリーチ活動を通して、このジェンダー格差の解消に尽力しています。」(グルース学長)

その取り組みの一つに、沖縄県との連携によるHiSci Lab(ハイサイ・ラボ)があります。これは年に一度、女子高校生にOISTで活躍する女性科学者を紹介し、科学活動やワークショップを一緒に行うイベントです。宮古島、石垣島、久米島などの離島を含む県内全域から参加があります。

これらの活動は、多くの県民の皆様のご理解とご支援、そして沖縄県をはじめとした各自治体にご協力頂き、連携させて頂いたことにより実現することができました。その中でも特に、沖縄県がOISTの活動全般の支援のために、広範囲に渡る多くの団体へ働きかけて設立された「沖縄科学技術大学院大学発展促進県民会議」は、これらの活動を長きに亘り、支えて下さっています。多くの皆様のご尽力に、改めて感謝の意を表します。

OISTの博士課程の学生も、地域社会とのつながりを強めながら、教育格差を解消するための活動に参加しています。その一つが、「大学コンソーシアム沖縄」の子どもの居場所プログラムです。このプログラムは、低所得世帯や特別な教育を必要とする子どもたちに、安心できる居場所や温かい食事を提供して見守る取り組みです。OISTの学生は、楽しみながらできる科学活動を提供することでこのプログラムに協力し、子どもたちの科学の目を開くことを手伝います。また、沖縄サイエンスメンターシッププログラム(OSMP)にメンターとして参加し、高校生にさまざまな研究分野を探求したり、研究者の日常生活を理解する機会を提供しています。

こうした地域社会での活動は、少しずつですが、前向きな成果を出し始めています。2019年の夏に沖縄サイエンスメンターシッププログラムに参加した、当時宮古高等学校の生徒だった洲鎌未空さんは、メンターとの深い交流を通して、研究室で研究を行ったり、研究について議論したりという貴重な経験を得て、科学分野のキャリアに進みたいという気持ちが強まったと言います。彼女は現在もメンターとの交流を続けており、大学では生化学か薬学を学びたいと考えています。そしていつか、副作用のない薬を作ることを夢みています。

同じく沖縄サイエンスメンターシッププログラムに参加して、現在ニューヨークのコロンビア大学で学んでいる原野新渚さんは、神経生物学を学ぶ決断をしたのはOISTの影響が大きかったと考えています。彼女はコロンビア大学からOISTに来てリサーチインターンを経験するなど、OISTと深いつながりを維持しています。大学卒業後は、OISTでの博士号取得を目指しています。

今後これらのアウトリーチ活動を拡大していくため、OISTは、米国を拠点とするOIST財団と共同で今年立ち上げた2つの基金の寄付金を活用すると同時に、更なる寄付を積極的に募っていく予定です。「リタ・R・コルウェル・インパクト基金」は、沖縄の少女たちの科学に対する興味を育成するための助成金など、科学分野の女性を広く支援するために活用されました。「仲宗根松郎・ツル子基金」は、主に低学年の児童や女子生徒を対象とした体験型の科学教育活動を支援します。

グルース学長は、次のように述べています。「OISTのプログラムでは、児童生徒たちが問題や課題を理解するだけでなく、それらを解決する方法を考えるための教育機会を提供しています。沖縄の子どもたちがSTEM分野をはじめとする専門職に就くために必要なスキルを身につけられるようにしたいと考えています。

人類は今、第4次産業革命の始まりを迎えています。今後数十年でほとんどの産業が変化を遂げていくでしょう。今、小学校に通っている子どもたちの65%は、まだ存在もしていない仕事に就くことになるでしょう。ですから、子どもたちが世の中に出て、新しい課題に向き合えるように準備してあげることが非常に重要です。これは、沖縄のより良い未来を作るためにOISTにできる最も重要な取り組みの一つだと考えます。」

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