次世代ソーラーテクノロジーの安定性と効率を向上させる

ペロブスカイトと呼ばれる材料を使用して、効率と安定性の高い次世代型太陽電池モジュールを開発

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らがこの度、効率と安定性の高い次世代型太陽電池モジュールを開発しました。ペロブスカイトと呼ばれる材料を使用して作られた今回の太陽電池モジュールは、その高い性能を2000時間以上も維持することができます。研究結果は、主要学術誌であるNature Energyに本日掲載され、商業化の見通しも明るいでしょう。

ペロブスカイトは、ソーラーテクノロジー産業に革命を起こす可能性がある材料です。その柔軟性と軽量性により、現在市場を独占している、重たくて硬いシリコンベースのソーラー発電パネルよりも多様な用途に使われることが期待できます。しかしペロブスカイトの商品化については、いくつかの高いハードルを乗り越えなければなりません。

「ペロブスカイトがクリアせねばならない条件は3つあります。製造コストが安いこと、効率が高いこと、そして寿命が長いことです。」と、本研究を率いるOISTエネルギー材料と表面科学ユニットのヤビン・チー教授は説明します。

 

ペロブスカイト型太陽電池のデモンストレーション

ペロブスカイト太陽電池は、原材料が安く、製造プロセスにもほとんどエネルギーを必要としないため、製造コストは安価で済みます。そしてこの10年余りの間に研究が進み、ペロブスカイト太陽電池は、太陽光からの電気変換効率を大きく改善しました。現在ではシリコンベースの太陽電池の効率に匹敵するレベルまで達しています。

しかし、小さな太陽電池からより大きな太陽電池モジュールに拡大すると、ペロブスカイトの効率レベルは急激に低下します。商業用ソーラー技術は、数十センチから数メートルの長さのサイズのソーラーパネルで効率を維持する必要があるため、これは問題です。

「ペロブスカイト太陽電池モジュールのスケールアップを行うことは非常に難しいことです。大きくすることで材料の欠陥がより顕著になるため、より品質の高い材料と、より優れた製造技術が必要です。」と、本研究の共著者である大野勝也博士は説明します。

(左)OISTエネルギー材料と表面科学ユニットでは、さまざまなサイズの太陽電池およびモジュールを用いて作業している。(右)本研究で研究者らは5cm´ 5cmの太陽電池モジュールを使用。

ペロブスカイトの不安定性は、現在徹底的に調査されているもう1つの重要な課題です。商業用太陽電池は何年もの使用に耐える必要がありますが、現在のペロブスカイト太陽電池は、急速に劣化してしまいます。

デバイス層を構築

OIST技術開発イノベーションセンターによるPOC(概念実証)プログラムの支援を受けているチー教授の研究チームは、新たなアプローチを使用し、安定性と効率の問題に取り組みました。ペロブスカイトの太陽電池デバイスは多くの層で構成されており、各層には特定の機能があります。今回の研究では、1つの層だけに焦点を当てるのではなく、デバイスの全体的なパフォーマンスと、各層がいかに相互作用するかを研究しました。

日光を吸収する活性ペロブスカイト層は、他の層に挟まれたデバイスの中央に位置します。光子がペロブスカイト層に当たると、負に帯電した電子がエネルギーを利用してより高いエネルギーレベルの層に飛び出すため、電子があった場所には、正に帯電した正孔が残ります。これらの電荷は、活性を持つペロブスカイト層の上下にある層、すなわち反対方向にある電子層と正孔輸送層に向かいます。これにより、電極を介してデバイスから遠のくように電荷が移動し、電気が流れるのです。今回のデバイスは劣化を減らし、有毒な化学物質が環境に漏れるのを防ぐ保護層により内包されています。

ペロブスカイト太陽電池とモジュールは複数の層で構成されており、各層に特定の機能がある。

この研究では、22.4 cm2の太陽電池モジュールを使用しました。

チームはまず、2層間にEDTAKと呼ばれる化学物質を追加することにより、ペロブスカイト活性層と電子輸送層の界面を改善しました。すると、EDTAKが酸化スズ電子輸送層とペロブスカイト活性層とが反応するのを防ぎ、太陽電池モジュールの安定性を向上させることを発見しました。

効率についても、EDTAKは2つの点において改善しました。まずEDTAK内のカリウムが、活性ペロブスカイト層に移動し、ペロブスカイト表面の小さな欠陥を「修復」します。これにより、今までのように表面の欠陥が、移動中の電子と正孔をトラップしてしまうのを防ぎ、より多くの電気を生成できるようになりました。またEDTAKは、酸化スズ電子輸送層の導電性を強化することにより、パフォーマンスを向上させ、ペロブスカイト層から電子が収集されやすくなりました。

チームは、ペロブスカイト活性層と正孔輸送層の間の界面にも同様の改善を加えました。今回は、層の間にEAMAと呼ばれるタイプのペロブスカイトを追加しました。これにより、正孔輸送層が正孔を受け取る能力が向上しました。

EAMA処理されたデバイスは、湿度と温度のテストでも優れた安定性を示しました。EAMAが結晶粒のモザイクであるペロブスカイト活性層の表面と相互作用したためです。一方、EAMAのないデバイスでは、粒子間の境界に起因するクラックが活性層の表面に形成されることが確認されました。研究者らがEAMAを加えたとき、追加のペロブスカイト材料が粒界を満たし、水分の侵入を止め、クラックの形成を防止したことが観察されました。

さらに研究チームは、PH3Tと呼ばれる少量のポリマーを混合することにより、正孔輸送層自体にも変更を加えました。このポリマーは、層に撥水特性を与えることにより、耐湿性を高めてくれます。

また、これまで長期にわたって安定性の改善を妨げていたという、大きな問題も解決しています。ペロブスカイト太陽電池モジュールの上部電極は、金の薄片から形成されています。しかし時間の経過とともに、金の微小粒子が電極から正孔輸送層を通り、活性ペロブスカイト層に移動してしまい、これにより、デバイスのパフォーマンスは取り返しがつかないまでに損なわれてしまいます。

研究では、PH3Tポリマーを混合したとき、金の粒子はデバイスにゆっくりと移動し、モジュールの寿命が大幅に延びることがわかりました。

さらに最終段階における改善のため、チームはガラス層と共に、ポリマーのパリレン薄層を追加することで、太陽電池モジュールに保護コーティングを施しました。この追加的な保護対策により、このモジュールは2000時間の一定の照明の後でも、初期性能の約86%を維持したのです。

OISTの研究チームは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)のサイ・カザウィ博士と協力し、改善された太陽電池モジュールをテストして16.6%の効率を達成することに成功しました。 チームは現在、より大きな太陽電池モジュールに上記の変更を加えることを目指しており、将来的に大規模な商業用太陽電池技術の開発に向けた道を切り拓こうとしています。

(左から)ヤビン・チー教授、ゾンハオ・リウ博士、小野勝也博士、デヨン・ソン博士、スースー・ホォ博士、ロンビン・チュウ博士

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