あなたの目の前にライオンの大きさのアリが出現

生物多様性研究の情報をARで見られる世界初のアプリを開発しました。

 ゴマ粒ほどの体長のアリが、拡張現実(AR)の世界では、ライオンと同じ大きさになり得るのです。

 ARは、実在する風景にスクリーン上のコンピュータグラフィックス(CG画像)を重ねることで、インタラクティブで「まるで現実のような世界」をつくり出します。これはビデオゲームなどで、現実とCGを融合するためによく使われるテクノロジーです。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)生物多様性・複雑性研究ユニットの研究者たちは、このハイテク技術を用いて、分類学の論文とリンクされた世界初のARアプリを製作しました。Insect Systematics and Diversityに掲載された本論文には、 フィジー共和国のウロコアリ属(別名ミニチュア・トラップ・ジョー・アント)の新種6種が記載されています。

 

 「私たちの研究グループでは、生物多様性に関するデータと双方向にやり取りするための様々な方法を考えてきました。通常、研究に使用する標本は、自然史博物館で保管されており、研究者も一般の人も簡単に見ることができません。」と本研究論文の最終著者であるエヴァン・エコノモ准教授は話します。

 

OIST生物多様性・生物複雑性ユニットの研究者らによる新種アリの高画質画像。発見された新種はそれぞれ、アーネスト・クライン氏のベストセラー小説「ゲームウォーズ」の登場人物から名付けられた。左上から順番に、ガンター、アノラック、パーシヴァル、オアシス、アルテミス、アバター。

 

 この度研究者らが開発したインタラクティブな生物分類アプリ『Insects3D』を使うと、これらのアリの標本にどこからでもアクセスすることができます。アプリ開発には、3次元X線マイクロスキャナを用いて、アリのデジタルモデルを作成しました。ユーザーは、AR上に表示されたアリの3Dモデルを、現実世界に重ねることができます。さらに、アリをライオンの大きさにまで拡大することも可能になります。

 

OISTの研究者たちは、研究成果を体験できる新たな方法として、ARのアプリInsects3Dを開発した。このアプリは、フィジー共和国に生息するウロコアリ属(別名ミニチュア・トラップ・ジョー・アント)の新種6種を記載した分類学の研究論文とリンクしている。新種のアリのモデルは三次元X線マイクロスキャナで作成され、ユーザーにより現実世界に重ねることができる。これまで博物館でしか見ることができなかったアリも、このアプリを使用すると、世界中の人が目の前に見ることができる。

 

 エコノモ准教授は「完成したアプリを5歳の息子に渡してみたら、1時間も家中を走り回って、いろんな場所にアリを出現させていました。」とその魅力を語ります。

 

 小さな子どもだけではなく、ARによって、幅広い層の人々が、新しい形で科学を体験することができるようになるのがこのアプリの魅力です。スマートフォンさえあれば、同アプリで世界中の人が同じデータにアクセスし、目の前にアリが出現するという体験をすることができます。エコノモ准教授は、このテクノロジーが、新たな科学の体験手法として一種の火付け役になると確信しています。

 

 「このアプリを多くの人に使ってもらい、将来の可能性を感じてもらいたいと思います。アプリには6種のアリのモデルと、発見された場所が説明されています。これはまだ最初の一歩で、これから先の展開が楽しみです。」

 

 獲物を捕獲する罠のような働きをする下顎など、それぞれの種の生体構造の詳細な記述は、新たな生物多様性データとなります。アリは、フィジー共和国で 適応放散したと考えられるグローバルグループに属しています。適応放散とは、単一の進化系統が複数の種に分かれ、多様化することです。エコノモ准教授と、本研究論文の筆頭著者であるイーライ・サーナット博士は、2004年にフィールドワークを開始しました。採集した23種が本論文に記載されており、そのうち6種は新種です。フィジー共和国は孤立した小さな群島で、エコノモ准教授とサーナット博士は、採集した種の3分の1が新種であるとは予想していませんでした。

 

 「我々の主な研究は、世界中の昆虫類の多様性の進化を理解することであり、新種の発見もその一部です。研究論文に新種を記載するだけでは読者は限られているので、テクノロジーの新境地を開き、研究結果を他の研究者や一般の人たちと共有したいと考えました。」とエコノモ准教授は語ります。

 

 新境地を開くことは、科学の世界では珍しいことではありません。このテクノロジーの活用は、分類学の研究だけにとどまりません。他の分野の研究者たちも同じアプローチを用い、研究による発見を新たな方法で示すことができるようになるでしょう。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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