2017-07-25

「ごほうび、まだなの?」―ADHDの科学を子どもたちに説明する

   科学が非常に複雑であることは誰も否定しません。 しかし複雑であるからといって、一部の選ばれた人たちのみが科学的な概念を把握できるということではありません。 近年、科学発展のプロセスに一般の人々が興味を持ち参加できるように、また科学的データへのアクセスを広げることに多くの努力がなされています。同様の目的で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の科学者たちは最近、Frontiers for Young Mindsという非常に珍しい学術誌に注意欠如・多動症(ADHD)についての研究を発表しました。本学術誌は、小学校から中学校の生徒を主な読者とする電子ジャーナルです。 さらに生徒たちは、提出された論文の内容が適切であるかどうかを確認する査読のプロセスにも携わっています。査読は、権威ある科学誌には欠かせないものです。

   この度、米国カリフォルニア州にあるシャボー宇宙科学センターにおいて、12歳から15歳の子どもたちで構成される「科学のチャンピオン」のグループが、OISTの発達神経生物学ユニット とブラジルのリオデジャネイロ連邦大学およびドール研究教育研究施設による共同研究論文を、査読しました。経験ある科学者のサポートを受けつつ、10代前半の若者たちが、「集中することは難しい!注意欠如・多動症と報酬に対する脳の反応」というタイトルの科学論文を読み、科学的側面の信頼性だけでなく、誰でも理解できるように書かれているかという言語の明快さについても検討し、研究チームに改訂のフィードバックを提供しました。

   研究トピック自体が、ADHDが子どもの行動に及ぼす影響ということもあり、本プロセスは非常に適切なものと言えるでしょう。 特に、科学者の長期的な目標は、ADHDの性質を理解するだけでなく、ADHDがどのように脳のプロセスに影響し、どのように日常の行動につながっていくのかを理解することにあります。

   OISTの古川絵美博士は次のようにコメントしています。「ADHDを持つ子どもたちは、教師や親から『問題児』と誤解されていることがよくあります。彼らは、日々の生活において困難を感じることが多く、時には成人しても、その苦労が続きます。私たちはその理由を知りたいのです。」

   ADHDに対する神経生物学的な理解不足のため、たとえ薬物治療が既に利用可能でも、効果は限定的なものとなっています。

   「ADHDの症状を軽減するための行動療法や薬学的介入がありますが、場合によってうまくいったりいかなかったり、また副作用が出てしまうこともあります。こういったことがどうして起こるのか、まだ明確にされていません。ですから、ADHDを持つ子どもの脳内で何が起きているのかをよりよく理解することで、介入方法の改善につなげたいと考えています。」と古川博士は述べています。

   今回、研究者らは、脳内で報酬系の経路(快感を誘導する中心的仕組み)である「線条体」と呼ばれる部分に注目し、これについて若い読者が理解できるように論文を書きました。

   研究内容を手短に説明すると、ADHDを持っている大学生のグループと持っていない大学生のグループに、fMRIスキャナーの中で簡単な作業をしてもらい、報酬を待っている間、および報酬が与えられた際における線条体の活動を測定しました。結果として、ADHDのない学生の線条体は、報酬を待っている間に活性化することが明らかになりました。そのため、報酬を期待することで、その場でやるべき課題への集中の強化につながる可能性があります。これに対してADHDを持つ学生は、逆のパターンを示しました。報酬を受け取るときのほうが、報酬を待ち望んでいるときよりも、線条体がより強く活動していたのです。 このことから、ADHDがある子どもたちは、すぐに報酬が出ない場合は、集中力の持続が困難であることが示唆されます。

 

A. 学生らはfMRIスキャナー内のコンピュータ画面上の一連の画像を観察。 正方形の後は決して報酬(コインの入った瓶)が現れない。 ダイヤモンドの形が現れた後は、報酬が66%の割合で与えられえる。B. ADHDを持たない生徒の場合、待っている間に線条体(赤い円で示されている部位)が明るい色に点灯するが、報酬が出ている間は点灯しない。C. ADHDを持つ学生の場合、実際にコインの入った瓶を見たときに線条体(赤い円で示されている部位)が点灯するが、報酬を待っている間に点灯は見られない。 両方の画像(B,C)において、より明るい黄色はより大きな活性化を示す。

   「ADHDを持つ子どもには、より頻繁に報酬を与えなければならないことは、心理学者はすでに認識しています。ですが親や教師は、『どうして行儀の悪い子どもに対してより多くの報酬を与えなければならないのだろう?』と考えてしまい、なかなかそれができないのです。」と古川博士は付け加えました。

   言うことを聞かない子どもに対してより頻繁に報酬を与えるということは、理にかなっていないように思えるかもしれません。しかし、ADHDに関する神経生物学的研究に基づいた説明を提供することにより、それがどうしてADHDの子どもたちには有効かつ必要であるのかを理解してもらい、親や他の子どもの世話に関わる人たちが、より適切な行動管理の支援を実行する手助けになると古川博士は考えています。

   いずれにせよ、古川博士は子どもたちに研究論文を「査読」してもらうことは、非常に有益であることを認識しました。「通常の科学論文査読者が誰も考えつかないような質問を、子どもたちは思いついてくれました。例えば、ADHDを持つグループと持たないグループに共通してみられた、線条体以外の脳の活動、そしてその役割についてもっと説明してほしいと言ってきたのです。 子どもたちは異なる世界観を持っており、時には私たち科学者が、自分の研究をどのように伝えていけばいいか再考するきっかけにもなるのです。」

   古川博士は最後に、「それになんと言ってもこのような子どもたちの参加を促すプロセスは、次世代の科学者の育成促進にもつながるのです。」と、付け加えました。

(ウィルコ・デュプレ)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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